第3話
『次は、フラム……次は、フラム』
歪んだ音声の車内放送から暫くして、汽車はフラムに停車した。去りゆく汽車を見送ると、二人は駅を出て目的地を目指して歩き始めた。
何も無い、田舎道。簡単な整地しかされていないそこは一本道になっており、目的の場所まで続いている。どうやら、車内で同じく空のランタンを持っていたウサギの親子も、駅から続く同じ道で二人の前を歩いていた。
マギーが振り返ると、他にも何人か同じように空のランタンを荷物に歩いている。
「皆、同じかな」
「多分ね、此処は、星が落ちる場所だから」
ランタンの中身は、光を纏った星だ。星は、必ずフラムに落っこちる。それも、決まって湖の中目掛けて。
それを掬ってランタンに閉じ込めれば、光るランタンの出来上がり。
実は、これは近所の市場でも売っていたりするのだが、汽車の切符台二人分を合わせた値段よりも高く付くので、買うのはめんどくさがりぐらい。
どうせならと、皆、物見遊山のついでに星屑を拾いにフラムへと足を運ぶのだ。
◆
一時間ばかりまっすぐ続く道を歩いた頃だった。
湖まで後僅かとなった頃、ふっと空が光った。その眩しさと言ったら、夜の世界で生きる者達の目を潰す勢いだ。誰もが目を開けてはおれず、手で目を覆っていた。
だが、マギーだけは違った。
まるで太陽だ。
この世界に太陽なんてないのに、マギーは不思議とそれを思い出していた。大きな箒星が大きな尾っぽを引いて空を瞬き、その軌跡から目が離せない。
それは、どんな夜空よりも美しい輝きを放ったが、やがて、山の向こうへと消えて行った。
「マギー!大丈夫かい!?」
漸く光が静まって、視界が開けたニルが、呆然と空を見つめるマギーの肩を揺すっていた。
「マギー!!」
「……ニル、今の見た?」
「光の事?眩し過ぎて、とても……」
マギーは首を横に振ると、そうじゃ無いと言った。
「星が山の向こうに落ちて行ったの」
「山の向こうって?」
「あっち」
マギーが指差したのは、これから向かおうとしていた湖の、更に向こう側だった。
星が落ちる湖よりも、その先に、何かは落ちてきた。
「どんな星が落ちてきたのか見に行ってみない?」
「星かどうかも分からないのに行けないよ」
今は星を拾いに行こうと、ニルはマギーの手を引いた。既に周りも平静を取り戻したのか移動を開始している。
まるで、何事も無かったかのように。
ニルがほら、と手をもう一度強く引くと、マギーは箒星が落ちた辺りから目が離せないままだったが、ニルの手に引かれるままに歩き始めたのだった。
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