第2話
「マギー、朝だよ」
ニルの声で、マギーは目を開けた。朝と言っても朝陽が登る訳もなく、真っ暗な外と、暖炉の灯りがあるだけで、朝とニルが言葉にしなければ、朝という感覚は湧いて来ない。
「そのうち、うっかり昼夜逆転しちゃいそうね」
うーんと、ベッドの上で伸びをしながら、マギーが呟くと、ニルはすかさず言葉を返していた。
「何を言ってるんだ。星は夜にしか見えないのだから、間違える訳ないだろう」
「あ、そっか」
「それより、早く着替えて。最初の汽車は六時三十分発だ。出来れば、直ぐに出たい」
マギーは思わず古時計を見た。チクタクチクタクと振り子を揺らして時を刻む指針は、五時五十分を指している。
あ、寝坊した。
「朝ご飯が!」
本当は五時三十分には起きている予定だった。食べ損ねる事を考えたからか、ぐうと、マギーの腹の虫が鳴いている。
「サンドイッチを作ったよ。汽車で食べよう」
「流石、ニル」
「良いから着替えて!」
ニルに急かされ、マギーはパジャマを脱ぎ捨てると、出掛ける様にと用意しておいた白いブラウスに、赤いワンピース、白いタイツを履いて、キャメルのブーツと合わせる。後は、髪を二つ結びの三つ編みにして、キャノチェを被って出来上がり。
ワンピースの裾を軽く払って、準備が出来たとニルを向くと、ニルがベッドを脇を指さしていた。
「マギー、ポシェットを忘れているよ」
ベッドには、ダークブラウンのチェックのポシェットがぶら下がったままだ。これと言って、入れるものはハンカチぐらいなのだが、出かける時はいつも肩から下げている。
「あ、後、ランタンよね」
「それは、僕が持って行くよ」
そう言った、ニルは既にキャスケットの帽子と、サンドイッチと水筒の入った斜め掛けの鞄に空っぽのランタンを括り付け、まだ灯が途絶えていないランタンを手に、出かける準備は万端だ。
「マギー、行くよ」
「うん!」
マギーとニルは、戸締まりを済ませると、手を繋いで駅まで駆け出した。
◆
朝一番、大きな荷物を抱えたクマ、郵便を鞄一杯に詰めたヤギ、中には、マギー達と同じようにランタンを括り付けたウサギの親子などがポツリポツリとまばらに汽車に乗っていた。
空いている車内で、二人は向かい合わせに座ると、発車と共に、サンドイッチを取り出した。水筒の中の熱い紅茶をコップに注ぐと、何となしに旅の気分だ。
しかし、楽しいのはそこまでで、朝食を終えると何もする事が無い車内は退屈そのものだった。更には、ガタン、ガタンと汽車に揺られ、早起きと満腹感からか、眠気を誘われる。
「マギー、僕が起きているから、眠っていても良いよ」
「嫌よ、眠りたくないの」
眠るのは、つまらないもの。そう言って、眠たい目を擦りながら、外の景色に目を向ける。
流れる景色は、やはり暗闇だ。しかし、その中で、小さな灯りがチカチカと光っている。一つしか無かったり、いろんな色の灯りが集まっていたりと、星空に比べると侘しいが、それでも暇つぶしにはなる。
ただ、数を数えると途端にうつらうつらと眠気に誘われ、その度に眠気を飛ばす為、マギーは首を大きく左右に振っていた。
『次は、テイメル……次は、テイメル』
雑音の混じった、車内放送が行き先を告げる。
「何処まで行くんだっけ」
「フラムだよ」
ニルは、鞄から汽車の定刻表を取り出し渡した。
「あと……四つ先ね」
「うん、一時間は掛かる。だから……」
「嫌よ、眠らない」
マギーは、意地でも眠らないと、プイッとニルから顔を背け、再び窓の外に視線を向けていた。
マギーの睡眠嫌いは、今に始まった事じゃない。
ニルは、マギーをじっと見て、
「……マギー、早くしないと忘れてしまうよ」
そう、ボソリと呟いたのだった。
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