第1話

 夜空がキラキラと輝く。

 ここは、いつだって夜だ。

 月はいつも満月で、見上げる位置にある上に、雲がかかる事も無い。

 この世界では、理も導も無い。夜空に輝く星々も当てにしてはいけないのだ。

 あれは、毎夜動いて場所が変わる。時々消えたり、新しい光が現れたりと忙しい。時々、月の周りをこれまでかと言う程にぐるぐる巡っているのもある。


 ふんわりとしたカールの赤毛を弄りながら、小さなマギーは夜空を猫のニルと肩を並べて見上げていた。

 いつだって違う顔を見せる夜空を見上げる事が、マギーは好きだった。


「マギー、そろそろ寝る時間だ」


 そう言ったニルは、隣で首からネックレスの様にぶら下げた懐中時計をパカリと開けていた。猫とは言っても、ニルの見た目はぬいぐるみそのものだ。ツギハギの黒猫の様相に、失くした目の代わりに、右目は大きめのボタンで補っている。そんなニルの手は、指先が割れている訳でも無いのに器用に懐中時計を支えていた。


「もうちょっとだけ」

「駄目だよ。明日は汽車に似る予定なんだ。遅刻してしまう」


 ニルの変わらぬ表情に、マギーはお願い、と両手を合わせて見せた。もう少し、もう少しだけ。

 そうこうしている間に家の中の古時計がボーンと古めかしい音を鳴らす。

 あの時計は、九時にしか鳴らない。ニルの言う通り、眠る時間だ。


「ほら、時計も眠れと言っている」

「あれは、いつも鳴るじゃない」


 ムスッと頬膨らませながらも、マギーはこれでもかと、じいっとマギーを睨むニルの目に耐えられず、しょんぼりと家の中へと入っていった。

 小さな家は、寝室も居間もキッチンも全部一緒だ。別れているのは、風呂とトイレぐらい。大して広くも無いが、二人で暮らすには十分な大きさだ。

 その家の中は、パチパチと暖炉が絶えず焚かれている。マギーもニルも、その暖炉に薪をくべた事は無いが、火が途絶える事なく光と暖かみを生み出す。玄関と室内のランタンも、常に光ったままだが、玄関口のランプは、光がぼんやりと薄暗くなっていた。


「明日は星を取りに行くんだ。汽車は混む。朝一番に乗らないと」

「ニルが人混みが嫌いなだけじゃない」

「君だって、一度蒸し風呂状態の汽車を体験したら、僕に感謝するさ。さあ、寝た寝た」


 ニルは無理やりマギーの背を押すと、窓際に二つ並んだベッドの内の一つへと押し込んだ。ニルがギュッギュと布団を上から押さえ付けると、マギーは顔半分が布団から出ている状態になっている。

 さあ寝るよ。と、じっと見るボタンの目が言っていた。

 マギーはむっとしながらも、逃げ場のないそこで、仕方なく目を閉じたのだった。


 眠りたくなんか、無いのに。

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