第4話

 辿り着いた、フラムの湖。今も、空から、ポロンポロンと星が落っこちている。

 色とりどりの、金平糖を思い出す形の星屑で満たされた湖は、闇夜で光り輝くが、箒星程眩しくはない。

 誰かが星を投げ入れているみたいだ、とマギーは言った。空を見上げても、湖に吸い込まれるように、星屑が落っこちてきている様が見えるだけ。


「誰かって、誰だい?」

「うーん、お月様かな」

「ああ、そうかも。今日も星に纏わりつかれて鬱陶しそうだ。彼女なら、それぐらいの事が出来そうだしね」


 と、ニルは冗談混じりに笑っていた。さて、星を拾おう。と、空から湖へと目を戻しす。既に、皆、湖に入って、星を幾つか手に比べている。

 マギーとニルも、それに倣うと、靴も服もそのままに湖へと入って行った。


 湖とは言っても、永く星屑を集め続けたそこは、只の水では無い。一歩、足を踏み入れたなら冷たくも、温かくもない、はっきりと水に触れているとも言えない感覚が肌に伝わる。だからか、服も靴も、水に触れているのに、濡れる事は無い。


「マギー、どれにする?」


 ランタンはそう大きくはない。星屑の大きさからして、多分三つぐらいは入るだろう。光が逃げてしまう為、ランタンに入る分しか持っては帰れないのだ。

 それでも、時間の経過と共に光は少しずつ逃げていく。


「うーん、これと……これ……後は、これかな?」


 薄い青の金平糖がマギーの掌の上で三つ、輝く。どれも、蛍の様に光ったり鎮まったを繰り返していた。


「マギー、全部同じ色じゃないか」

「良いでしょ?」

「良いけど、僕は白が好きだ」


 只の光なのだから、何色でも効果は変わらない。


「じゃあ、一個は白にしてあげる」


 マギーは手の上の二つを、ニルが用意していたランタンに入れると、一つを湖に戻した。マギーはもう一度、じっくりと湖を見る。


「あった」


 白い金平糖を一つ掬い上げ、それもランタンへと放り込むと、ニルは星の光が逃げない様に、ランタンの蓋をしっかりと閉めた。


「よし、帰ろう」


 気付けば、皆、既に来た道を戻る後ろ姿が見えるだけで、湖に取り残されていたのは、マギーとニルの二人だけだった。

 ふと、マギーは箒星が落ちた方を見た。湖を越え、山を越えた先だった。


「……あの箒星、この先に堕ちたのかしら」

「さっきの光の話かい?」


 ランタン鞄に括り付けたニルも、マギーの真似をしてその方を見る。湖の先は木々が生い茂る森があり、その先がマギーが言う箒星が落ちたと言う場所なのだろう。

 ニルは唸りながらも、首にぶら下がっている懐中時計の蓋を開けた。


「……まだ昼前……マギー、行くなら早く行こう」

「良いの?」

「けれど、九時には家に辿り着かないといけないからね」

「分かってる」


 二人は少しばかり急足で湖から出ると、来た道を背後に、森へと向かって行ったのだった。

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