3章 《拡張戦線》
3-1
ゲームスタート。
「さっそく戦いのようね」
すでに犬型と猫型の
(〈ラビット〉を見たときにも思ったけど、ほんとリアルな造形ね。現実の街を背景にしても違和感がない)
瞳の照準を犬型のエネミーに合わせた
蒼穹祢が降り立った場所は、六車線の幅がある歩行者天国の中央。大小様々なビルが道の両サイドに並ぶ。プレイヤーたちがチーム単位で周りに散り、すでに武器を構える者もいた。逆に、武器を持たない非プレイヤーは見当たらない。目に映るこの世界は、あくまで現実の
蒼穹祢がエネミーを警戒し、剣を構えると、
「蒼穹祢、お待たせ!」
「レミ? 私もちょうど来たところよ」
レミが隣にやって来て、拳銃の武器〈ショット〉を両手で握り、エネミーに構える。もう一人のメンバーはまだチュートリアルの最中だろうか。合流したのはレミ一人だけだ。
「目的はあくまで夏目って男。けど、エネミーとの対決は避けられないようね……。対決は最小限にして、極力HPを温存したいわ。それと他のチームの攻防が邪魔になるのもアレだし、まずはチームと距離を置きましょうか」
「ええ」
リーダーはレミが適任だろう。今回は彼女の指示を仰ぐことにしたい。
「ウチの後輩がまだ来てないけど、メンバーの位置はメニューから把握できるみたい。きっとすぐに追いついてくるわ。私たちはあっちに行きましょう!」
「了解だわ」
レミが指差した先に蒼穹祢たちは走る。
「邪魔よ!」
威嚇する前方の〈キャット〉を斬ろうと、蒼穹祢が剣を振りかぶった瞬間、
「蒼穹祢、後ろ!」
レミの声に、蒼穹祢は咄嗟に首を捻る。そしたら腹を空かせたように涎を撒き、牙を光らせた〈ドッグ〉が蒼穹祢の懐に食らいかかってきたのだ。
「問題ないわ!」
前のめりの体勢のまま右足を軸に、
「ぐっ、この!!」
めげず剣を振るうと、今度こそ〈ドッグ〉はパリンッと砕け散った。しかし対処し切れなかったエネミーに腕を噛みつかれ、痛みはないものの、軽い圧迫と断続的な痺れを腕に感じながらHPが削られる。ガゥゥ! グゥゥゥ! 獣のように唸る〈ドッグ〉は食い下がる。
「フェーズ1だからって油断できないわ!」
蒼穹祢に食いつくエネミーに引き金を引いていくレミ。パァンッ、パァンッ! 乾いた発砲音が夜のストリートに響き渡り、エネミーを始末した。
二人は背中合わせの格好で、四方のエネミーに戦闘態勢を整え、
「も~う、最初から飛ばしすぎでしょ! 序盤くらいは手加減してよ!」
「ハァア! くっ……、次から次へと……!」
風を切ってアタックしてくる〈キャット〉に刃を入れた蒼穹祢は、膝を曲げ、別の〈キャット〉のアタックを躱して、
「レミは遠くのエネミーを! 私は近くのを相手する!」
「お願い!」
目先のエネミーを蒼穹祢が斬り、レミがあらかじめ後方のエネミーを撃つ。
(まったく、初っ端から飛ばしてくるものね! 気を緩めるとあっという間にゲームオーバーだわ!)
開始から五分。プレイヤーの悲鳴が近くで上がる。要領が掴めないままエネミーの猛攻に合い、ゲームオーバーになってしまったようだ。
こちらも他人事ではない。
「蒼穹祢! 危ない!」
「えっ!?」
死角から殺気を覚えた蒼穹祢。青い髪を振りまきながらレミの方に視線を送ると、喉元へ噛みつこうと〈ドッグ〉が飛びかかっているのだ。蒼穹祢はたじろいで、粘着物を踏みつけたように足が動かない。
しまった! 蒼穹祢が思わず片目をつむったそのとき。
「――オラァァ!!」
蒼穹祢の前に、威勢のいい声とともに一人の少年が割り込む。真っ先に蒼穹祢が注目したのは、ヘアワックスで立たせたオレンジ色の髪に黒いヘアバンド。そして彼が着ているのは
「キミは……?」
蒼穹祢が口走る中、少年は握った拳を〈ドッグ〉の腹部に振り抜いた。その手にはフィンガーレスグローブの〈ストライク〉がはめられている。射程を代償にした高威力、一撃でエネミーを撃破する。その間に、残りのエネミーをレミが始末した。
「ふう、最初のピンチは乗り切れたかしら。ったく、容赦なさすぎ」
「でも、ゲームとしてはなかなか楽しいわ。……で、その派手な子が?」
蒼穹祢の視線に反応して、
「お待たせしました!」
遅れてきたことを気にせず、真打ち登場とでも言わんばかりに少年は堂々と立つ。中肉中背の体型や中性的な顔立に、これと言った特徴はない。しかしオレンジの髪色に、ラフに前を開けたブレザーの制服から覗くシャツは赤色と派手め。腰に巻く髑髏柄のベルトはなかなかに趣味が悪い。
「まったく、遅いわよ」
レミがやれやれと嘆いて、彼の肩に軽くチョップを入れる。
「すまん、ラーメン屋で無駄に待たされたんだよ。で、そちらが
呑気な後輩に、蒼穹祢はただでさえ不愛想な目を尖らせて、
「ラーメンはおいしかった?」
「ひえっ。う、うまかったッス……。いや、遅れて申し訳ありません!」
「そ、そこまで謝らなくていいわよ。協力してくれるだけありがたいから」
旧時代の不良のような外見で軽いところもあるが、少なからず礼儀もあるようだ。
「あ、こいつがウチの後輩ね。一年の
レミが手のひらを向けて紹介すると、大地は頭を下げ、
「研究部一年の逢坂大地です! 先輩のことはレミから聞いてます! オレもがんばるんで頼ってください!」
「よろしく。せっかくのお休みだけど、私のためにありがとう」
「メッチャ面白いゲームじゃないっすか。今日はすげー経験ができそうです。エネミーもあんなにリアルだとは思わなくて、ワクワクが止まらないっす。あ、もちろん遊び目的じゃないことは理解してますからね」
「ええ。けど、少しでも楽しんでいってもらえるとこちらも嬉しいわ」
「はい!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます