1-7

「ふむふむ」


 信号待ちする街のバス。主に帰宅する高校生たちが乗車する車内で、白いローブを着た少女の姿はひと際目立つ。そのうえ幼女のようにロングシートに膝を乗せ、窓から景色を見ているのだから、行儀の悪さは嫌でも目を引くに違いない。


 けれど。


 乗客は誰一人として、ローブの少女に注目していなかった。

 彼らには姿が見えないのだから、仕方のないことだが。


 ――少女の名はセリア。人とは違う、情報生命体という概念。長い銀髪が腰に垂れ、中学生にも見える童顔は愛らしさがある。


 ある人物に眼差しを送っていた。

 対向車線を隔てた先。バス停のベンチに座る通話中の、青い長髪の女子高生に向けて。


「あれがお姉ちゃんか。たしかに似てるね。セリアわたしは知っているけど、君に巡る科学のこころマージナル・ハートの存在は知らない感じかな。〈.orion〉は知っている辺り、さすがは神代といったところか」


 ふむ、とセリアは顎に手を宛がい、


「さてさて、お姉ちゃんをどう使っていこうかな」


 悩ましげに呟くと、バスは発進した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る