第96話 山田市太郎 十三歳②

 ダンジョン管理省で市太郎は父親と一緒に杉田事務次官と面談していた。


「君が市太郎君だね。山田課長から聞いているよ」


 杉田事務次官を救った事で父親は係長から課長に出世した。


「そして君の特殊な特技。アンチマジック能力か……。それを見せてもらおうか」


 テーブルの上には回復液・魔石・呪われた腕輪がある。

 市太郎は回復液の魔力を消して、魔石を掴んで握りしめて消滅させ、呪われた腕輪を持って呪いを消し去った。

 事務次官は魔石を消滅させた市太郎の手を見る。そして回復液と呪われた腕輪を鑑定に出して確認する事にした。鑑定の結果、回復薬は効果を消し去り、呪われた腕輪の無害な腕輪となった。


「……魔石が本当に消え去るとは。そして呪いすらも消し去るとは」


 杉田事務次官に信用される為に、次は特殊ダンジョンに向かう。

 さすがに中学生一人では許可が出ないので、管理省の探索者に護衛と協力を頼むが、


「魔力枯渇型ダンジョンに入るなんて馬鹿か! 自殺したいのか!」


 と反対される。しかし、


「大丈夫です、三十分で終わらせます。スピード勝負ですよ」


 市太郎は護衛を無視して走り出した! 護衛対象を追いかける探索者達。

 何度も探索したような移動だった。

 魔力枯渇型ダンジョンは何度も探索しているのでダンジョンマップは市太郎の頭の中に入っている。今回の探索は慣れたランニングコースを走る様なモノだった。

 アンチマジック能力の知識や今回のダンジョンマップだけではない。今まで探索したダンジョンマップや、大きな事件関係、管理省に関する人間関係、世界で起きる天災、為替相場や株価等も全て頭に残っている市太郎。

 ……三十分後、体力を消耗した市太郎と探索者達。


「マジ三十分で終わらせやがった……。ダンジョン内を知っている様に奥まで走り、鉱石を採掘して、全速力で帰還した。何モンだよ、このガキは……」

「罠が無いルートを奥まで走り抜けてあっという間に採掘して……。攻略地図でも持っているのか?」

「あのガキは、今日が探索初めてだろう? 経験者の間違えじゃないか?」


 最短ルートで採掘場所へ走り、素早く鉱石を採掘し、時間内に安全な場所まで戻る。何度も探索した経験者の様だった。そして今回の取得物も充実していた。


「……これだけの吸魔石。どのくらいの値段になんだ? 確か金と同じ値段で取引されているだろう?」

「どうしてオレ達は契約書に鉱石の発掘料を提示しなかったんだ! 高い護衛料に目を奪われていた!」


 そんな探索者達の言葉を無視して、市太郎は管理省の職員達と話し合う。


「鉱石の重さは約十キロ。純度も悪くない。今回の依頼料を引いても黒字だな」

「大黒字だよ。本当に凄いな、山田君は」

「次はゴースト系モンスターダンジョンに行こう。鉱石に含まれている魔力の質が高い。そちらも高く取引されているはずだ」

「……今から行くのかい? ダンジョンに? 山田君、本気?」

「三十分しかダンジョンに入っていないから時間はまだある。問題無いでしょう」


 呼吸が整え終わって体力が回復しきっている市太郎。しかし探索者達の体力は回復したが気力が減っていた。


「すまんが、目の前のお宝のせいでやる気が……。逆に契約書を変更してもう一回だけ魔力枯渇型ダンジョンに入らないか? 今度は一時間くらい滞在しようぜ」

「それは出来ない相談だ。契約書の変更はない。契約書通り対象の護衛を頼む」


 管理省職員と護衛探索者のやり取りが次第に熱を上げ言い争いになる。

 その結果、次のダンジョン探索の時間がなくなり、次のダンジョンに行く時間も無くなった。

 今回の結果でアンチマジック能力が管理省上層部から広がり、管理省全体に広がっていく。

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