第97話 最初に救う異才

 入道護道。二十五歳。職業医者(研修医)。

 中学校のときから付き合っている彼女あり。

 入道護道は研修医となった年に結婚して籍をいれたが、忙しいので結婚式はまだ挙げていない。

 その彼女が高校のときに魔力病が発症して、入道護道は彼女を治療する為に医者の道を選ぶ。

 日が経つにつれて容体が悪くなっていく彼女。入道護道は忙しい中、時間を作って魔力病を研究している。

 彼女の魔力病の病名は『魔力血融病』といって、魔力が血液に溶けて体内に支障をきたす病気である。

 治療法が確立されていない病気で、検査の結果、あと数年の命であると医者から言われていた。

 彼女の治療法を捜す為に、入道護道は死ぬ気で研究したが、彼女の寿命が少しずつ近づいている。

 時間に追われて絶望が見えてきそうな入道護道の夏の終わりに、ダンジョン管理省からアポイントがあった。


「はじめまして、入道護道さん。私はダンジョン管理省、特殊探索者の山田市太郎と申します。すこしお時間をよろしいでしょうか?」


 探索者と説明する中学生の子供が来た。大人の管理省職員も一緒に居るが……。


「貴方の事を少し調べました。十五歳のときに魔力量がゼロと診断される。魔力病を患っている彼女を救う為に医者になった。そして彼女の魔力病を研究しているが成果が出ない。合っていますか?」

「その通りだ。それで何用だ? 私は忙しい。子供に付き合っている暇はない」

「魔力病を治療法があると言ったら?」

「……子供には分からないだろうが、魔力病は研究が難しく、治療法も確立されていない病気が多い。魔力結晶化病・魔力血融病・魔力増減病などは治療不可能と言われているんだ!」


 だんだんと言葉が荒くなる入道護道。研究が進まなく結果が出ないイライラで機嫌が悪くなっていく。


「こちらの資料を見て頂けますか?」


 山田市太郎が書類の束を見せる。……魔力病の研究内容と治療法が書かれていた事に驚く入道護道。そして自分の研究よりも進んでいた。


「これは! どこで!」

「亡き知り合いから貰った研究書類です」

「……このアンチマジック能力とは? 治療法に多くが『アンチマジック能力』という方法の治療方が使われている」

「アンチマジック能力とは私や入道さんが持っている特殊能力です」


 自身が持っている特殊能力と聞いて首をかしげる入道護道。そのような能力を持っていた記憶がない。


「これを握りしめてください。魔石です」


 入道護道は山田市太郎の言う通りに魔石を握りしめた。すると握っていた魔石が消え去った。


「アンチマジック能力とは魔力を消す能力です。これを使えは魔力病に関する病気の治療が出来ます。入道さんの彼女の『魔力融血病の治療も可能です』


 入道護道は『魔力融血病』に関する治療法を見た。……アンチマジック能力を使った治療法で研究内容も検証実験も充実していた。それを見た入道護道は不思議に思った。


「山田君、この研究書類は誰が作った書類だ?」

「亡くなった私の知り合いです」


 研究書類には入道護道の研究書類の書き方に酷似していた。自身が書く内容よりも分かりやすく、未来の自分が作成したような書類だった。

 そんな馬鹿なと思いながら、書類を見続ける。


「ダンジョン管理省の医療部門に来てください。魔力病の研究と治療をする『特殊医療』にスカウトしに来ました。彼女だけではなく魔力病に困っている患者の為に来てください」

「スカウトに応じる。魔力病の治療が出来るなら何でもする! 彼女を助ける為に私は医療の道を選んだのだから!」


 入道護道は即座に応じた。そして二人は握手する。

 ダンジョン管理省の医療部門に入った入道護道がまずする事は、アンチマジック能力の説明を受ける事だった。


「アンチマジック能力の教師役の山田市太郎です。入道先生には短期間で全ての知識と医療関係の技術を叩き込み、特殊探索者は少しずつ習ってください」

「……中学生の君が教えるのかい? 他に大人の人は居ないのかい?」

「ダンジョン管理省で調べた結果、アンチマジック能力者の一番の年配者は入道先生です。アンチマジック能力者としての知識と技術を持っている私が貴方に全てを教えます。魔力病の患者が待っていますからスパルタで行きますよ!」


 中学生が大学卒業の医者に教える。しかし山田市太郎の教え方は上手かった。入道護道が質問しても納得する答えが返ってくる。技術も的確に教えてもらい医者の入道護道が納得するモノだった。

そして、秋の終わり。


「魔力融血病の治療を始めます。血液中の魔力濃度を確認しながら、患者の血液が循環している部分を握りしめます」

 市太郎と入道は魔力融血病の治療を始める。両者が患者の血脈に近い部分を握りしめる治療法だ。

「血液中の魔力濃度が下がっています! 成功です!」


 初めて魔力血融病の治療に成功した。全治ではないが患者を治療する事が出来た。


「……しかし方法がな。首と手首を絞める治療法なんて」

「傍から見たら絞殺ですね。しかし首を絞めた方が治療に適しています」

「患者の親族には診せずらいな」

「しかし入道先生の婚約者の治療には成功しました。おめでとうございます」


 長年の夢が叶った。入道護道は妻の真子の治療に成功した。今後治療を重ねれば普段通りの生活は可能になる。

 そして入道護道と真子は半年後に結婚式を挙げた。

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