第95話 山田市太郎 十三歳①

 ……目が覚めた。ベッドで寝ていたようだ。実家の部屋? そして大型トラックに襲われた事を思い出した。

 自分が生きている事に安堵した。そして体を確認していたら、怪我で無くなっていた左足がある。

 動く左足の感覚に驚く市太郎。……本物の足に混乱する。

そして改めて部屋を見渡すと、実家の部屋なのは確実だが、置いている小物が違う。中学生の教科書なんて置いていた覚えがない。

 時計を見ると日付が2030年となっている。中学校時代の年代だった。

 顔を見ると大人ではなく子供の顔だった。

 さすがに混乱する市太郎。どうして子供になっている? 夢にしてはリアルすぎる?


「どうした? 市太郎」

「朝ごはんの時間よ」


 両親が心配して部屋に来た。……先日あった両親が若い。


「今日は何年何月何日ですか?」

「ん? 今日は2030年四月十日の午前七時十分だ。市太郎の中学入学の日だぞ」


 律儀に時間と予定まで教えてくれた市太郎の父親。

 事実なのか聞く市太郎に母親が本当だと言ってますます混乱する。


「早く用意しないと遅刻するわよ。急ぎなさい!」


 母親の言うままに着替えて朝食を取り、学校へ登校する市太郎。

 夢なら覚めてほしいと願いながら数日が経った。

 家族そろって夕食を取っていると父親が職場の愚痴を溢す。


「杉田事務次官が辞任するとは……。次の候補が……」


 父親の言葉を聞いて市太郎は思い出した。この時期に杉田事務次官が汚職で退職した。それは捏造された事で現事務次官が陥れられた。そして首謀者が次期候補と国会議員だった。そして二人のせいでダンジョン管理省は世間の評価を下げる。

 市太郎は管理省時代に事件の真相を知っていた。そしてその事を父に説明する。

 父親に「どうして知っているのか?」と問われる市太郎。さすがに未来で資料を見たと言える訳がない。父親のダンジョン管理省内部に詳しすぎる息子に不思議を通り越して異様に感じた。


「詳しい事は後日説明します。そして私に協力してください」


 市太郎の言葉を信じて、夕食を後にすると父親は出かける。

 その数日後、ダンジョン管理省の杉田事務次官が無罪で、罪を擦り付けた次期候補が逮捕され、国会議員が辞職するニュースが流れた。


「……お前の言う通りだった。どうして管理省内部の事を知っていたのだ?」


 父親の書斎で市太郎を問い質す。そして市太郎は自身に起きた事を説明する。アンチマジック能力についての説明は省いた。


「……トラックにひかれて気付いたら中学校入学時に精神が戻っていた? どんなラノベだ?」

「ラノベ呼んでいたんですね。意外でした」

「若い時にな。……それよりも息子が主人公のようなタイムリープ者になるとはな」

「すませんが、私はラノベを読まないので、一般的な会話でお願いします」


 自身が主人公ともタイムリープと言われても分からない市太郎。


「それで、お前はどうしたいのだ? ラノベではタイムリープを隠すのが一般的だ。それを私に正体を明かすのには何かしらの理由があるのだろう?」


 市太郎は前々から考えていた計画と話した。今度は自身のアンチマジック能力の説明もする。


「特殊探索者を管理省に認めさせ、その有効性を広げるのか? 市太郎が未来でやっていたように?」

「未来以上の事をします。不幸な他のアンチマジック能力者を救い、犠牲者を出さない未来にします。これ以上、みんなを不幸にしたくない! 私は絶対にみんなを守ります。その為に力を貸してください!」


 頭を下げて頼む市太郎に難しい表情をする父親。市太郎の父親は管理省の主任レベルの権力しか持っていない。今回は信頼できる上司に相談して、杉田事務次官を助けただけで本人の力ではない。


「特殊探索者の有効性を示せば大丈夫です。絶対に上手くいきます!」

「しかしお前は中学生だ。魔力検査も出来ない」

「アンチマジック能力を使って魔石を消滅させます。他にも特殊ダンジョンの吸魔石の採掘も手伝いましょう! 魔力病に苦しむ人達も救ってみましょう!」


 市太郎の願いに根負けして、後日親子でダンジョン管理省の上司と面会する事にした。

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