第85話 山田市太郎 二十二歳⑤

 何が起きたのは分からなかった。

 優の血を浴びて絶命したモンスター。

 死んで消え去ったゴースト系モンスターに。

 死因は? 何が原因だ? 仮説は正しいのか? 山田は痛みを堪えながら考える。

優を見る。優は倒れている。

 死んでしまったのか? 動けないので優の生死が分からない。

 助けを呼ぼうにも段々と意識が遠のいている。足を潰された場所からの出血のせいだと気付き自身も気を失った。


 目覚めたときは知らない場所だった。

 周りを見渡すと病室だと知った山田市太郎。

 そして看護士が目覚めた事を医者に知らせに行った。

 医者の説明を受ける。山田は数日間寝たきりの状態だったと言われた。そして潰れた左足は義足になると言われた。それ以外は大丈夫と。

 山田は優の事を聞いた。最後まで自分を助けようとした優は生きているのかと。


「彼も無事です。しかし左腕が切断されて義手になるでしょう」


 優の無事を喜ぶ山田は「今回の事件について教えてほしい」と頼んだが、医者は「まずは休養と取ってから」と言われて聞く事が出来なかった。

 後日両親が面会に来た。母親は足を見て泣き出し。父親は「無事でなによりだ」と言ってくれた。

 そしてダンジョン管理省の課長である父に今回の事件の真相を教えてもらった。

 ダンジョンモンスターが市街に出たが、救援の探索者が来る前にモンスターは居なくなっていた。

 そして連夜と竜吾がモンスターを倒したと妄言を吐き、現道優がモンスターを出現させたと言って罪をかぶせようとした。

 しかしダンジョン管理省の先輩三人が全てを明らかにした。

 ダンジョン内での連夜と竜吾の行動。幼馴染を奴隷の様に虐めていた事から一般人を囮に使って逃げ出した事。

 先輩達の体は動かなかったが意識ははっきりしていたのでダンジョンから出た後の連夜と竜吾の行動も説明した。

 連夜と竜吾は「証拠はあるのか!」と言っていたが、先輩の一人が会話を録音していたのでそれが証拠になった。

 一躍ヒーローから犯罪者に陥った連夜と竜吾は、探索者の資格をはく奪されて、探索者専用の刑務所に入る事になった。


「どうやって生き延びたのか、モンスターを倒したのか分からなかった。市太郎は知っているか?」

「私も詳しくは分かりません。……しかし仮説でしたら」

「仮説?」

「まず回復薬をください」

「回復薬? お前は回復薬が効きづらい体質だろう」


 回復薬は魔力量の多い者達が効きやすいとされていて、魔力量が少ない者達は効きづらいとされている。

 市太郎の父親は病院に回復薬を準備させた。

 市太郎は回復薬を二つのコップに分けて、一つを手に持って指を入れる。


「私が持ったコップの回復薬は効果が無くなっていると思います。検査してください」


 父親は不思議がるが市太郎の仮説の為に、管理省に戻って検査する事にした。

 後日、父親から「回復薬の効果が消えている」と伝えられた。仮説が正しいと判断した。

 そして仮説の量を増やす為に山田は現道優の面会を希望した。

 優は左腕が無いこと以外は無事だった。

 両親が心配して来てくれた。そしてニュースで優が幼馴染の二人に奴隷のように扱われていた事を知った。

 優の心のケアをする為に精神医にも頼む。

 精神医の判断は長年の苛めにより、精神が壊れかけて、その後依存のように連夜と竜吾を頼った事を知った優の両親は泣きながら優に謝罪した。

 優の入院生活は暇だった。治療以外は何もなく、趣味もない優は暇を持て余していた。

見舞いに来るのは両親だけ。妹は両親と優を嫌い家出しており、友人は誰も居ない。友人と思っていた連夜と竜吾は刑務所の中だった。

 そんな暇を持て余していたときに、見舞いに来てくれた山田市太郎を優は喜んで出迎えた。


「左足は大丈夫ですか? 僕かしっかりしていれば」

「現道君の責任ではないよ。それよりも左手は大丈夫かい?」


 二人はお互いの怪我を見て笑う。怪我で笑う事が出来ると思わなかった。


「現道君、あのモンスターをどうやって倒したのか覚えているかい?」

「いえ。腕が切られた後は良く覚えていなくて……」


 優の記憶では腕が切られ後の事は倒れてしまい気絶しただけだった。モンスターの事は全く覚えがない。


「……君が倒したと私は思っている」

「そんな事ありませんよ。僕は魔力量ゼロの無能ですから


 優は山田の説明を否定する。そして治療中だが自身の否定的な言動も治っていない。


「仮説だけど、優君は素手で魔法石を持ったら壊れた事が無いかい?」


 優は「そういえば」と思い当たる節がある。魔道具の手入れで、長時間素手で触っていたら魔道具が壊れて、連夜と竜吾に殴られた経験を思い出した。


「調べた結果、私と現道君の魔力量がゼロという事が極めて稀だという事が判明した。普通の人間は必ず魔力が有るのだから」

「そうなんですか……」

「ダンジョン管理省が調べた結果、最低でも五以上はある。五以下はゼロで、ゼロは私と現道君しか居ない」


 優は自分の魔力量がゼロと言う事が苛めの対象としか思っていなかった。魔力至上主義社会では当然だと。そして自分と同じような人が居ると思っていた。


「これは特殊な能力だ。私はこの能力を調べてみようと思っている。だから現道君も協力してくれないか?」


 山田は優に協力を頼む。しかし優の返事は否定的な言葉ばかりだった。自分は役に立たない、足手まとい、普通高校卒、中途半端の無能、片腕が無いなど。

 しかし山田は優を説得する。否定的な言葉を全て肯定した。自分や管理省の先輩を救ってくれた恩人を少しでも前向きにする為に、幼少期からの束縛から解放する為に。そして最後は土下座する勢いで優に頭を下げて頼み込んだ。


「頼む。現道君の協力が必要なんだ!」

「……分かったよ。山田さん、よろしくお願いします」


 現道優と山田市太郎。この二人が生涯の友となった瞬間だった。

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