第76話 突発型ゾーンダンジョン⑤

 アンチマジック能力の特殊能力には二通りある。接触する方法と、血液を使った方法。

 魔石を消滅させるのに、接触は時間がかかり、血液を使うと一瞬で消滅する。

 今回の結界は優の血を使ったので一瞬で消滅させる事ができた。

 入道も血を使って結界を破壊する事は出来ただろう。しかし入道は医者として行動していた為『治療する者が怪我をすると治療が出来ない』という医者としての心得を無意識で取っていた。入道はその無意識の行いに恥じる思いだった。


「腕はあまり動かさない様に。後はアンチマジック能力者として結界の穴を大きくするよ、現道君!」

「はい!」


 入道と優は結界を触る。すると結界の穴が次第に横に消えていく。血によって穴が開いた結界周辺は接触で広がり、直径一メートルの穴が次第に広がり五メートル、十メートルと広がった。

 突発型ゾーンダンジョンの出入口となった場所からは、結界内に囚われていた一般人が脱出し、探索者達が結界内に入ってモンスターを討伐する。

 探索者が結界内の一般人を探し出して救出をし、回復魔法が使える探索者や医者が怪我を治療する。

 ダンジョン管理省の職員が現場で対応し続ける。情報規制が一部解除されて、マスコミ等に『突発型ゾーンダンジョン』の救出が始まった事を説明し、テレビ等で現場が解決に向かっている事が流れ始めた。

 そして無事に脱出した者達は念の為に病院で治療を受ける事になり、ダンジョン管理省の職員から説明を受けている。

 優達も説明を受けているが、特殊探索科の者達は壊れた結界を維持する作業中であった。


「装備無しでモンスターの注意を引くって。マジで勘弁だ」

「本当。死ぬかと思ったわ。私の場合は相手が探索者だったけどね」


 日野とリナは愚痴を溢す。二人は優が穴を開けた結界を維持する為に両側に座っている。アンチマジック能力者が触っていないと結界が閉じるからだ。


「本当に怖かったよ。モンスターも怖かったけど、探索者が一般人に魔法を放って……」

「探索者が自暴自棄になって、他の人達を傷つけるなんて。酷いわね……」

「私達はそんな探索者にならない様にしましょう。ね、涼子、祭」


 白川涼子と江戸川祭と市川輝美は探索者の行いに、同じ探索者としてやるせない気持ちだった。

 そして三人は特殊探索科の護衛についている。


「一時はどうなるかと思ったぞ。綾乃も皆も無事で良かった」


 伝風寺仁一朗がゾーンダンジョンに囚われていた者達の無事を労った。そして検査の為に綾乃と一緒に病院に連れて行った。ボディーガードのポン太とニャン子を引き連れて。

 入道護道は医療現場で怪我人の治療を。山田市太郎はダンジョン管理省の人達と話している。

優は、穴の開いた結界の近くに座っていた。日野やリナの交代要員として、そして怪我人なので現在休憩中である。


「優さん、飲み物です。多く血を流したので飲んでください」

「ありがとう。エマちゃん」


 エマが持って来てくれたスポーツドリンクを飲む。そしてエマが優の横に座った。


「大変でしたね……」

「……そうだね。エマちゃんも怖い思いして大変だったね」

「私は皆に守られていただけだったし。それが悔しくて……、恥ずかしくて……」

「エマちゃんは探索者じゃないよ。それを言うなら僕が恥ずかしいよ。皆に守ってもらって。僕が結界を壊せたのは皆が僕を助けてくれたからだよ」


 優は自分がエマや綾乃と同じように守られていた事が悔しかった。


「僕が弱いから皆から守られた。探索者としての経験があまり無かったから、アンチマジック能力者だから守られた。日野さんやリナさんにでも出来るのに、市川さん達にも守られて悔しいよ」


 優は探索者として訓練をしていたが、今回は皆に守られていた。それがとても悔しかった。


「何言っているの! 現道君のお陰で私達は助かったのよ!」


 自身を恥じていると、市川輝美が優達のところに来て叱る。


「貴方が私達を安全に公園に連れて来てくれたでしょう! そして結界を壊してくれたわ! 私達が貴方を守るのは当たり前でしょう! 現道君が居なかったら私達はモンスターに襲われて死んでいたわ!」


 勝気な輝美は自分が何も出来ていない事が悔しかった。山田市太郎の様な判断は出来ず、上級生の日野やリナの様にモンスターと戦えない、輝美が出来た事は涼子や祭と一緒に綾乃やエマを守りながら、優の後について行くだけだった。


「現道君が私達の前を進んでくれたから、私は貴方について行くことが出来た。現道君のお陰で助かったのよ。だから自分を卑しめるような事は言わないで……」

 最後は半泣きで優を慰める輝美。


「ごめんね。ありがとう。市川さん」


 優は輝美を慰めた。輝美の言葉が嬉しかった。自分が役に立っていた事を知って心の棘が取れたような感じだった。

 そして会話で二人の雰囲気が近づいた気がして、少し機嫌が悪くなったエマだった。

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