第66話 新家リナの過去④

 リナの魔力量がゼロなのは姉妹全員が知っている。そして特殊な才能という言葉も理解できない。


「新家リナさん。貴方は魔力量検査で魔力量がゼロだと言われましたね。それが特殊な才能の持ち主である証明です」

「ちょっと待て! そんな才能聞いた事ない!」

「メイさん。少し前に、魔力病の治療法が確立した事は知っていますか?」


 数ヵ月前に新聞やテレビで世間を騒がせていた事を思い出す姉妹達。


「特殊な才能の持ち主が治療したのです。私達はその能力をアンチマジック能力と言っています」


 アンチマジック能力。まったく聞いた事がなかった。


「現在、魔力量ゼロと検査されている人達は私を含めて四名。新家リナさんがそのうちの一人です」

「あ、あの、貴方も魔力がゼロなの?」

「はい。リナさんと同じ、魔力がゼロです」

「探索者高等学校には魔力量が多くないと入学できないでしょう!?」

「大丈夫です。探索者高等学校に今年新しい科の『特殊探索科』というクラスが出来ます。条件は魔力量がゼロの人以外は入る事が出来ない特別クラスです」


 意味が分からなくなったリナ。リナだけではない。新家姉妹全員が混乱状態に陥る。

 そして市太郎から特殊探索科とアンチマジック能力について説明を受ける。

 リナは自身にそんな才能が有るとは思ってなかった。探索者のメイや探索者関係に商売しているラナすらも驚きを隠せなかった。


「貴方の才能が必要なのです。是非、探索者高等学校に来て頂きたい」

 真面目な表情で説得する市太郎。その隣に座っている大人のダンジョン管理省職員も「お願いします」と頭を下げている。


 探索者にも興味が有ったリナ。しかし魔力量がゼロと言われたので、リナの将来は会社経営の為に進路は大学受験に有利な高校と決めていた。それなのに急に探索者という選択肢が出来た。長女と一緒に会社を手伝うか? 次女と一緒に探索者として働くか? 安全な会社に就職するか? 命の危険があるダンジョンの探索者となるか? 

 そのような考えだったので否定的な言葉が出る。


「でも、学費が……」

「学費免除です」

「通学が遠くて……」

「学校の近くに寮があるので大丈夫です」

「今から受験勉強対策をしないと……」

「推薦なので面接だけです」

「実家の会社の負担が……」

「では落札価格の三割の報酬と、呪いの武具購入代金は半分管理省が負担します」


 条件が良い。聞いていた長女と次女もリナを探索者に進路を変更させようと迷った。


「それから新家メイさん。貴方も探索者高等学校の教師になりませんか? 学校では優れた探索者の教師を探しています。もちろん専属探索者を兼業しても良いですよ」

「……すごく条件が良いんだけど」

「それだけ皆さんを信用しているのです。教師の年収は……」


 教師の年収も良い。それに寮が家族用なのでメイとリナは一緒に生活が出来る。ここまで良い条件だと逆に騙されていないか心配だった。


「……少し考えさせて下さい。家族で話し合いをしますので」


 ラナが決定を待ってもらう事を頼む。市太郎は、


「分かりました。これは学校のパンフレットです。こっちが特殊探索科の資料です。教師用の資料は後日郵送します。それから『呪いの武具や装飾品の買い出し依頼』の契約はどうしますか?」


「その件も含めて家族で相談します」

「分かりました。それでは今回はこれで失礼します。それから遅くなりましたが名刺です」


 ラナが市太郎から受け取った名刺には『ダンジョン管理省、特殊探索課班長。山田市太郎』と書かれていた。隣の大人の名刺も『ダンジョン管理省、特殊探索課』と書かれている。


「では良い返事を期待しています」


 ダンジョン管理省の職員と一緒に部屋を出る市太郎。

 この部屋でいろんな説明を受けて、新家姉妹の思考は何も考える事が出来なくなっていた。

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