第57話 誘拐解決①

 爆破された場所から重装備の者達が突入し、電光石火の動きを見せる。


「室内の容疑者確保!」

「綾乃様と他二名、保護しました!」

「屋敷内の人間は全員捕縛しろ! 逃がしたら減給だ!」


 あっという間の出来事に優とエマは唖然としていた。


「救出ご苦労様です。優様が怪我を負っていますので治療を。エマさんにはメンタルケアの手配をお願いします」

「すぐに手配します、綾乃様。そして救出が遅れて申し訳ありません!」


 綾乃は助けに来てくれたリーダー格に命令を出していた。

 冷静な判断をしている綾乃を見ていた優とエマに、綾乃は「慣れていますから」と答える。

 そのときに、日野ひまわりが「エマ! 無事か!」と言いながら入って来た」


「お、お兄ちゃん……」

「エマ! 大丈夫か! 怪我は! ……無事で良かった」


 エマの無事を確認した日野は、エマを抱きしめる。エマも兄が助けに来てくれた事に少し感動しつつ「大丈夫だから離れて!」と恥ずかしさを隠すように言った。

 優は怪我を診てもらっていた。魔道具で叩かれた両腕はアザが残っているくらいで、スタンガンの影響はない。

 治療の為に優達は部屋を出る事になった。護衛に囲まれながら現場指揮車がある屋敷の外に出るが、屋敷では抵抗している者達が居る様で銃声や魔法の破壊音が聞こえる。


「綾乃様、ご無事でなによりです」


 現場監督らしき人が綾乃に敬礼する。綾乃は「優様に怪我の治療を。エマ様にケアを」と命令した。

 優は医療車で両腕のアザにシップを張ってもらい、念のために体調を診てもらった。

 エマは怪我という怪我は無いが、誘拐されたショック等の心のケアをしてもらっている。日野ひまわりはエマと途中まで一緒にいたが、妹から追い出されて医療車の近くで座っている。

 治療が済んだ優は車を出ると座っている日野に声をかける。


「おう、優。今日は災難だったな」

「そうですね。相手がスタンガンの様な魔道具で攻撃されそうな時は死ぬかと思いました」

「あー、なるほどな。ま、オレ達には魔道具は効かないからな、基本的に」

「基本的? 例外があるんですか? 日野さん」

「剣の様な刃物で攻撃されたらヤバいだろう。今回は棒状の魔道具で良かったな」

「そうですね……。刃物とかの魔道具だったらぞっとします」

「その為の装備だ。オレが着ているダンジョン探索用の服は防刃防弾だ。高防御で地球上の肉食動物程度の牙を受け止められる」


 動きやすい服装だが高防御だという日野の探索用服。そして腰に銃とポケットにスタングレネード弾とスタンガン。背負っているスコップとつるはしを見て優は。


「確か今日はダンジョン探索日でしたよね。……大丈夫なんですか?」

「……大丈夫だろう。新家が居るから」


 ダンジョン探索を放り出して来た日野は、妹が誘拐された事をリナに簡単に説明してから飛び出した事を思い出した。連絡を受けた時は頭に血が上って『自分で助ける』としか考えておらず、誰にも説明をしていない事を今思い出す。


「……新家に連絡するか。エマが無事だったって」


 新家リナ一人にダンジョン探索を押し付けて少し悪いと感じた日野。ついでに山田市太郎にもエマの誘拐の件を説明して、ダンジョン探索を放り出した事を説明しようとして電話を手に取る。


「エマ君は無事だったのだからダンジョン探索に戻ったらどうかな? 日野君」


 日野に話しかけてきた山田市太郎の言葉に、電話をかけようとした日野の指が止まる。


「リナ君が一人で頑張っている。日野君も早くダンジョン探索に行かないと今日中にノルマが達成しない可能性がある。早く戻った方が良いだろう」

「お、おう、山田。でもエマが……」

「エマ君は私達が責任を持って対応しよう。日野君も探索者として責任を持った行動をしてほしい。ダンジョン探索用装備で公道をノーヘルでバイクに乗る。警察に捕まったら運転免許停止だ。こっちで車を用意したからすぐに戻るように」


 指をパチンと鳴らすとダンジョン管理省人達が日野の腕を持って連れ去って行った。

 日野が何か叫んでいたが、車に乗り込んだら聞こえなくなり、車は現場を去って行った。

 日野が連れ去られるのを見ていた優は思考放棄して「ダンジョン探索は大変だな」と呟いた。


「君が現道優君だな。今回は巻き込んですまない」


 優が振り向くと綾乃と一緒にいる知らない男性、伝風寺仁一朗が声をかけてきた。


「初めまして、私は伝風寺仁一朗。妹を守ってくれて感謝する」

「は、初めまして。現道優です」


 お互いに自己紹介をして、優は仁一朗の威風堂々な雰囲気に少しだけ委縮した。


「市太郎から君の事を聞いている。今回は本当に巻き込んでしまってすまなかった」

「い、いえ。こちらこそ何も出来ずに……」

「誘拐等は初めての経験だから当たり前だ。しかし君は身を挺して綾乃達を守ってくれたと聞いている。君の勇気ある行動は賞賛に値する」


 仁一朗に褒められて少し顔を赤くして照れる優。


「今回の誘拐の経験を生かして、次に誘拐された時は無事に解決できる事を信じている」

「……誘拐なんて一生に一回くらいでしょう。そんなに……」

「綾乃はこれで十五回目の誘拐だ。私や市太郎も数回巻き込まれている。君も巻き込まれるだろう。だから次回は傷を負うことなく解決してくれ」


 十五回も綾乃が誘拐された事を知って、優は綾乃と市太郎を見る。綾乃は「恥ずかしながら……」と頬を赤く染めて、市太郎は「事実だよ。私は三回。仁一朗さんは二回誘拐に巻き込まれている」と優に伝える。


「伝風寺財閥の生まれだから、私も誘拐されそうになった事がある。しかし綾乃は誘拐されやすい星の下に生まれたと思っている」

「体が良くなってから誘拐されるようになり、私も少し困っています」


 綾乃が入院を繰り返していたときは誘拐など一度もなかった。しかし体調が良くなった後に誘拐される事が多くなる。

 そして綾乃は『誘拐されやすい不思議な運命にある』と誰かに言われ、綾乃の両親も側近も気をつけているが何度も誘拐、誘拐未遂に遭っている。


「しかし綾乃。誘拐犯を煽るな! 録音している会話を聞いて肝を冷やしたぞ」

「市太郎様の御親友である優様を乱暴したのです。私も怒っていたのですよ。ぷんぷんだったのです」

「巻き込まれた奴の安全を確保しろ! 馬鹿者!」

「大丈夫です。絶対に助かると信じていましたから」

「だったらこれ以上誘拐されるな! 父上や母上だって慣れてきているぞ! 連絡したら「またか、お前に任せる」って具合だ! いい加減に誘拐されるな! また神社に厄払いに行くぞ!」

「先々月に厄払い済みなので大丈夫です。それよりも……」


 伝風寺兄妹の会話を聞いていると隣に山田市太郎が来た。


「優君。綾乃嬢とエマ君を守ってくれてありがとう」

「あ、うん。……そういえば魔道具の魔力すら消す事ができるんだね。アンチマジック能力って」


 カラ返事をして、今回の疑問を市太郎に聞く優。


「そのとおり。魔力で作られたモノは全てを消し去る事が出来る。それがアンチマジック能力だよ」

「本当に凄い力だね。アンチマジック能力って」

「しかし欠点もある。魔道具を触ると込められた魔力を消してしまうから長時間触る事が出来ない。体を癒す魔法薬等も効かない。魔法も使う事が出来ない。アンチマジック能力者は魔力の恩恵を受ける事が出来ない。魔力を使う世界では難しい能力だよ」


 アンチマジック能力者は魔力を消す事が出来るだけ。攻撃手段も魔力がこもっていない物を使う。敵の攻撃に対しても回避する訓練を受け、退却する為の道具を使用している。怪我をしても魔法薬等が効かないので自然治癒しか方法がない。魔力が全てのダンジョンでは決定的な弱点である。


「しかしアンチマジック能力者にしか行けないダンジョン。特殊な技術や特技がある。私達は魔力量ゼロの異才を使いこなして、他の探索者に出来ない事をすれば良い。アンチマジック能力は短所ではなく長所だよ。優れた特殊能力だ」


 山田市太郎の言葉は優に力を与えてくれる。

 優は山田市太郎の言葉を胸にアンチマジック能力者として頑張ろうと思った。

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