第35話 婚約者④
尋問会という食事会が終わり、一行は目的地へと向かった。
綾乃は輝美にずっと惚気話を聞かされながらの移動で皆が輝美に同情していた。
「ここは複合施設のアミューズメントパーク。ボーリングからカラオケ、脱出ゲーム、動物ふれあいから水族館、最新アトラクション満載の……」
「伝風寺財閥で運営している所ですね。ではちょっとお待ちください」
輝美との会話を中断した綾乃が電話をして数分後。支配人らしき人が来て、全員を無料で入場させ、年間パスポート券を貰った。
「これで皆と遊べますね」
金持ちの権力を目の前で視た一般市民の優とその他の人達。行動の速さに引くクラスメイトが数人。
「ありがとう、綾乃嬢。皆を代表して礼を言おう」
「婚約者として当然の事です」
ジュースを奢った程度としか思っていない綾乃に、市太郎はいつものすました表情で言う。
クラスの一部が小声で会話する。
「これが当然の様に言っているぞ、山田は」
「何度も同じような経験をしたんだろう、山田は」
「レストランを権力で貸し切りにして二人で食事した経験があるんだよ、山田は」
「他にも権力と金でモノを言わせた事を何度も経験しているんだろうな、山田は」
「だからいつもの様にすまし顔だったのか、山田は」
「一般市民のオレ等には絶対にクールに対応できんな」
「山田は神経が図太いのか、頭のネジの種類がオレ達とは違うのだろう」
とりあえず山田市太郎は変わり者という評価となりアミューズメントパーク内に入る。
入場すると次第に皆のテンションが上がり、最初に遊ぶ場所を決める為に相談する。
「優君、どうしたんだい?」
「市太郎君。……なんか楽しくてね。こんな大きいアミューズメントパークは初めてだから」
「私も実を言うと初めてでね。誘ってくれたクラスメイトに感謝しなければならない。皆で遊べる事ができたのは、優君がダンジョン探索訓練で危険を教えてくれたお陰だよ」
「……僕は何もしていないよ。ただ皆に危険だと言っただけで」
「その危機感知が探索者には必要なスキルだと私は思っている。特に私達は魔力を持たないからモンスターに襲われたら危険な目に遭う。だから危険を察知する優君の能力は重要だと私は思っているんだ」
「そうなんだね」
「危険を察知できない者は大変な目にあう。彼女の様にね」
市太郎の視線の方を見ると、綾乃が輝美に対して惚気話を再開している。惚気話を聞き飽きて関わりたくないクラスメイト達は離れている。
「危機から逃げるのは人間の本能であり、危機から逃げ遅れた人間は面倒な事態に巻き込まれる」
「……そろそろ助けた方が良いと思うな」
「では助けようか。しかし綾乃嬢は市原君から離す事は少し難しいな。……白川君と江戸川君、優君も協力してくれ」
市太郎は市原輝美の幼馴染二人を呼び、綾乃に話しかける。
「綾乃嬢。できれば市原さんだけではなく、他の皆と会話をしてはどうかな? それから紹介しよう、私の友人である現道優君だ。市原君の幼馴染の白川君と江戸川君だ」
「市太郎様の御友人でしたか。伝風寺綾乃です。よろしくお願いしますね、現道様。白川様、江戸川様」
「皆が目的地を決めたようだ。私達も一緒に行こう」
「そうですね。実を言うと私、アミューズメントパークは初めてなのです。市太郎様と御一緒出来てとても嬉しいですわ」
「私も皆と遊べるので楽しみだよ。優君、行こうか。市原君達も」
市太郎と綾乃は会話しながら移動していく。そして優達は、
「市原さん、大丈夫?」
「助けてくれてありがとう現道君。……キツかったわ」
「そうだね。あの惚気話はキツイよね。大丈夫? 輝美ちゃん」
「そうだな、輝美もよく頑張ったな」
疲れ切った市川を優と白川と江戸川が励ます。
「遊ぶ前に体力が無くなるって……。動物と戯れて体力を取り戻そうかしら?」
「でも最初はアトラクションみたいね。絶叫の」
市川は絶叫系アトラクションには乗らずに休憩を選んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます