第34話 婚約者③

 待ち合わせ場所での衝撃から急遽、山田市太郎と伝風寺綾乃の質問会となりファミリーレストランに移動したAクラスとその他の人達。

 綾乃に質問する女性陣。


「それでどうゆう事ですか!」

「市太郎様の事ですか? 私の婚約者ですよ。どうして輝美さんは怒っているのですか?」


 どうして輝美が怒っているのか、本人は分からないが幼馴染である涼子と祭は嫉妬だと理解していた。ツンデレ体質の輝美は市太郎に好意を持っていると幼馴染の二人は思った。

 しかしそれは違う。輝美が怒っているのは、可憐な綾乃が男性に好意を寄せている事が気に食わないだけだった。

 市川輝美は読者モデルをしているくらい綺麗だから異性にモテる。だから男の下心に敏感になった。

 そして市太郎に似ている男性から言寄られて、大変な迷惑を被った事がある。だから似ている山田市太郎に嫌悪感を持っているのだ。


「そ、それは、綾乃様が婚約者って言うので……。それも山田君ですよ! 綾乃様の様な方でしたもっと相応しい方が居るのではないかと思いまして……」

「そんな事ありませんよ。市太郎様は素晴らしい殿方ですよ。私が最も愛する方です」


 黄色い声を上げる女性陣。美しい美少女である綾乃の口から愛するとの言葉に、相手の市太郎に惚れ込んでいると皆が思った。


「すいません、探索者高等学校の新聞部の中園栞です。ぜひインタビューをお願いします。まずはお二人の出会いを教えてください」


 ゴシップ記事を書く気満々の中園は二人の馴れ初めを聞き始めた。


「そうですね。……アリサさんなら知っていますが、私は幼い時から魔力病を患っていて、ほとんど寝たきりの状態だったのです」


 綾乃は昔を思い出しながら言う。幼い頃に発病した『魔力結晶化病』にかかっていた事を」

 魔力結晶化病。極まれに体内の魔力が結晶化する症状で、原因は不明。簡単な場所なら外科手術で取れる場合が多いが、脳や心臓等の深い場所で魔力が結晶化すると手術は困難とされている。


「十五歳まで生きられないと言われていた私でしが、市太郎様が病を治し救ってくれたのです」

「おおー! 山田ッちが綾乃さんの病を治したのですね!」

「その通りです。私は恩を感じて市太郎様の調査を命じ、配下に命じて市太郎様を探してもらい、連れて来るように命じました」


 女性陣の一部から「あれ?」っていう雰囲気になった。


「市太郎様は多忙な日々を送っていましたが、配下の者達は市太郎様を捕縛して連行してきたのです」

「……えーと、捕縛したのですか? 山田ッちを?」

「はい。市太郎様も抵抗しましたが、多勢に無勢で捕縛され、屋敷に連れて行かれ、私は市太郎様にプロポーズをしたのです」


 女性陣が頭に思い浮かべたモノは、捕縛された市太郎が綾乃にプロポーズされた場面である。


「……えーと、その前になにか、いろいろと抜けているのではないでしょうか? 捕縛された山田ッちの束縛を解いたり、感謝を述べたり」

「いえ、開口一番にプロポーズしました。市太郎様が束縛されていたのは驚きましたが、噛まずにちゃんと告白できました。両親や皆が見ている前での告白は少し恥ずかしかったですね」


 市太郎の婚約者である綾乃は変だと女性陣は思った。顔見知りのアリサや輝美すらも綾乃の知らなかった側面を見て驚愕する。


「お姉様から『良い男性は待っていては駄目。捕まえる気持ちで行動しないと』と言われた事が有ったので実践したのですが……。少しだけ失敗しました」


 落ち込む綾乃。でも笑顔を取り戻して、


「でも市太郎様は許して頂きました。そして再度プロポーズしたのですが『未成年だから無理です』と言われてしまい……」

「そ、そうですね。未成年ですからね。両方とも……」

「だから婚約者としてお付き合いをしています。今は市太郎様の為に花嫁修業中なのです!」

「そ、そうですか……」


 綾乃のテンションに少し引き気味の新聞部中園栞。

 次の質問者にアリサが問う。


「ご両親は承諾しているのですか? 伝風寺財閥のご令嬢が一般市民の方と婚約を許したのですか?」

「はい、両親祖父母姉親族に許してもらい、市太郎様の御両親にも許可を貰いました。残りは兄と市太郎様だけです。頑張りました!」


 何をどう頑張ったのか聞けないアリサ。見舞いに行ったときの綾乃は後ろ向きな性格だと思っていたが、体が良くなった今はかなり前向きな性格に変わったようだ。

 そして輝美が後日皆から恨まれる質問を綾乃に聞いた。


「山田君の何処が良いのですか?」

「それはですね、簡単には説明できません。私を救ってくれた市太郎様はとても素晴らしい方です。病弱だった私は男性と付き合いたいと思って。……それが私の病を治してくれた市太郎様で、その時の表情が素晴らしく素敵で……。そしてあるとき…………。その時に市太郎様が…………。兄と議論する市太郎様が素敵なお顔が…………」


 長時間惚気話を聞く事になった女性陣は、少しずつ逃げ出す。アリサや栞も逃げ出し、輝美の幼馴染の二人も逃げ出した。

 最終的に質問者である輝美だけが残って綾乃の惚気話を聞く事になる。それはレストランから移動した後も、移動中もずっと惚気話を聞く事になった。

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