第26話 ダンジョン見学会④
生きる喜びを分かち合った優と探索者達は原因の宝箱の前に居る。
「これが原因の宝箱か……」
「こんなダンジョンで宝箱が湧いて、学生に発見されるなんて。かなりの確率だと思うぞ」
「さすがに湧いた宝箱を発見するのは無理だぞ。数分前に見た時は何もなかったんだ。天文学的な事故だ」
「そうね。それに罠の危険性を考えないで開けるなんて。学校で勉強していないんじゃないの?」
「殻付き子供だから仕方がない。お前さんだって真面目に勉強していたか?」
宝箱の前で雑談の様に会話する探索者達。危機を逃れて安堵した様子だった。
しかし優の『嫌な予感』はまだ消えていない。目の前の宝箱からはまだ危険を感じていた。
「それよりも今回の件はどうするかだな。急に湧いた宝箱を学生が開けたら、モンスター召喚の罠が発動してゴーストやレイスと死に物狂いで戦った」
「戦った? 子供を盾にしたの間違いでしょう」
「やかましい! 案内人のオレ達には責任はないはずだ。宝箱を開けた学生も知識不足。誰が責任とる? 今後は危険だからダンジョン見学が無くなる可能性もあるな」
「お前が考える事じゃないだろう。なんにせよ無事だった事を今は喜ぼう。そして目の前に落ちている宝箱をどうするのか?」
「ダンジョン管理省のモノに決まっているでしょう。契約書にも『宝箱・鉱石類はダンジョン管理省が所有権を有する』って書いてあったでしょう。だからこれは管理省のモノよ」
「それよりもだ。オレ達の担当の子供達は何処に逃げた? バラバラに逃げたからな。探すのも一苦労だな」
「他の探索者が保護しているでしょう。それに応援が来るはずだし」
探索者達は宝箱の前で話し合い、優はそれを黙って聞いていた。
「そういえば誰が宝箱を開けたんだ? 優君、君は知っているか? どうしたんだ怖い顔して?」
「すいません。この宝箱は危険な気がするんです。嫌な予感がして……」
優が告げると真面目な表情になる探索者達。
「……罠は発動したよな」
「……安全だと思うが」
「前に聞いた二重トラップかしら?」
「宝箱にトラップ。中の財宝にトラップっていう二重トラップの事か?」
「確率的には低いがゼロではない。いったん宝箱から距離を置こう。罠専門の探索者に調べてもらおう」
「Eランクダンジョン内でこんな質の良い宝箱が出ることが変だしな」
探索者達は優の言葉を信じて宝箱から離れた。
しかし宝箱から離れた事が悪かった。
戻って来た生徒。連夜と竜吾が探索者を連れて来た。
「オレ達が見つけた宝箱だ! だから所有権はオレ達にある!」
「本当にあったな」
宝箱に近づく連夜と竜吾と案内役の探索者に優達と一緒に居た探索者達が止める・
「待て! その宝箱は危険だ! 罠がある可能性がある!」
「二重トラップの可能性よ! 近づいては駄目!」
「そんな訳ないだろう。凄い量の金貨だな。結構な額になるぞ」
「宝箱は管理省に所有権があるだろう!」
「無いな! 第一発見者は学生だ!」
宝を見て喜ぶ三人。連夜は見つけた宝箱を回収する為に案内人の探索者に金貨を少し渡すから護衛を頼んだ。
探索者は宝箱の所有権は管理省が持っている事を説明したが、竜吾は学生が第一発見者だから問題ないと説得した。
ダンジョンで見つかった宝箱の所有権は第一発見者と決まっている。学生である連夜が発見したので管理省に所有権を主張できない。
ダンジョン管理省も学生が宝箱を発見するはずがないと考えていたので、所有権は主張できない。
探索者も契約で管理省に所有権があるが、発見者から報酬としてもらうのは違法ではない。契約書の穴をついた方法だった。
「報酬は三割と言いたいが二割で良いぞ」
「ちゃっかりしている大人だな。まあ良い。竜也も良いよな」
「帰りの警護も頼んだんだ。必要経費として妥協しよう」
三人は自分達のモノだと信じ込んでいる。そして金貨に手を出そうとするが、
「連夜! 竜吾! 駄目だ! それは危険だ!」
優は幼馴染の二人を止めるが連夜と竜吾は無視する。優よりも目の前の宝の方に意識が向いている。
金貨に触った瞬間、宝箱の奥から金貨をかき分けて黒いコインが浮き上がり、天井近くまで浮き上がった。
黒いコインは黒い霧を吐き出して、その霧が大型の人間に変化していく。
優の嫌な予感が当たった。予感は絶望という名のモンスターに姿を変えていく。
「ヤバいぞ! オレ達じゃ手が出ない!」
「逃げるぞ!」
「優、全力で走れ!」
「待ってください! 連夜と竜吾は!」
「二人はモンスターに近すぎる! あいつらはもう駄目だ!」
圧倒的な威圧感と恐怖で腰が抜けて動けない連夜と竜吾と探索者。
現れたモンスターは百の腕を持つ大型のモンスター。ヘカトンケイルと呼ばれている上級モンスターだった。
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