第27話 ダンジョン見学会⑤

 現れたヘカトンケイルは声を荒げて目の前の三人を睨みつけた。

 今いる探索者全員が戦っても負けるくらい強力なモンスター。神話の名前がついている上級モンスターを目の前にして、連夜と竜吾は恐怖のあまり小便を漏らす。

 連夜達の近くに居た探索者も腰が抜けて立ち上がれないが、座りながら後ろに下がろうとする。


「連夜! 竜吾!」


 幼馴染の二人を助けようと叫ぶが、探索者に担がれて何もする事が出来ない。


「坊主! 諦めろ! オレ達が行っても死体が増えるだけだ!」

「私達に出来る事は報告をして、応援を呼ぶ事よ!」

「でも! 連夜と竜吾を助けないと!」

「助ける為に応援を呼ぶんだ! 黙っていろ!」


 探索者の言葉は理解できるが、幼馴染を助けたい優。そしてモンスターに殺されると言われて優は二人の名前を叫ぶ。


「クソ! 簡単なボーイスカウトの仕事だと思ったのに!」

「追加料金貰いたい気分だ!」

「アンタたち! 時と場合を考えて喋りな! 敵さんがこっちに来るかもしれないんだよ!」


 モンスターから一目瞭然に逃げ出す探索者達。優は幼馴染の二人名前を叫び続ける事しか出来なかった。

 ヘカトンケイルが連夜と竜吾を殺そうと腕を振り上げて叩きつける瞬間、あり得ない速さで優達を横切り、ヘカトンケイルを吹き飛ばした。


「こんな状況になっているとは……」


 現れた男性の探索者は連夜達を見てモンスターを見て呟く。

 優はこの人が連夜と竜吾を助けてくれたと思った。そして近くにいる探索者が「日本探索者トップの望月一太(モチヅキイチタ)がどうしてこんな所に」と言った。

 望月一太。日本一の探索者ギルド。日本最強の探索者と言われている人物だった。


「優君。無事だったか!」


 ダンジョン見学を欠席していた山田市太郎が居た。


「ちょうど望月さんと一緒にいたときに、ダンジョンでの異変を聞いた。良く無事だった」

「山田君。他の皆は?」

「皆も無事に保護した。怪我も無い。それよりも優君が居ないからみんな心配していたよ」


 優は皆の無事に安堵した。しかしその安堵はモンスターの咆哮によってかき消される。


「ヘカトンケイルか。どうしてEランクダンジョンに現れたのだろうか? 教えてくれないか?」


 市太郎が探索者に問う。その間にもヘカトンケイルと望月一太は戦いを広げていた。危なげなく敵の攻撃を避けて切りつける日本最強探索者。


「……なるほど、宝箱の二重トラップか。なんて運の悪い」

「この坊主が嫌な予感がすると言ってな。オレ達も危険だと考えたんだが、あそこの三人が……」

「探索者にはペナルティーだな。注意しなければならない立場にあるのに、協力するとは……」


 張本人である探索者と連夜と竜吾はあまりの恐ろしさで気絶しているようだった。


「問題の宝箱だが。トラップは発動したから安全だと思うが、どうするべきだろうか? 学生が見つけた宝箱には規定がないのだよ。優君ならどうする?」


 いきなり市太郎に問われる優。


「え、えーと、宝箱が安全なのか調べて、結果、規定に基づいて処理すれば良いんじゃないかな?」

「ふむ、私と同じ考えだ。ではその様に処理しよう。向こうも終わりそうだしな」


 望月一太とヘカトンケイルの戦闘は終盤に差し掛かっている。ヘカトンケイルの腕を切り飛ばして攻撃回数を減らし、足を切りつけて移動力を低下させていた。そして首を切ってヘカトンケイルを殺した日本最強探索者。

 それを見た探索者達は声を上げて喜んだ。


「こんな場所でヘカトンケイルと戦うなんて……。運が悪い」

「私としては運が良かったです。これだけの惨事に怪我人少数で死亡者無しですから。改めて感謝します、望月さん」

「山田君には恩がある。このくらいなら別に良いさ」


 探索者高等学校のダンジョン探索訓練は不運な出来事が起きたが無事に終了した。

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