第10話 特殊探索科④

 怖がる優に山田市太郎は説明する。


「そんなに怖がる事はない。特殊ダンジョンは私達なら問題ないダンジョンだから。物理攻撃無効の自然系精霊ダンジョンやゴースト系ダンジョン。ダンジョンが多大な魔力で覆われて普通の探索者が入ると体調不良を起こすダンジョン。魔力を吸い取るダンジョンとかだ。魔力量ゼロの私達には無害なダンジョンだから心配無用だよ」

「他にも魔力で発動する罠ダンジョンや魔力が吸われるダンジョンとか。魔力量によってモンスターが増減するダンジョンも有るけど、私達には効かないから心配いらないわよ」

「それに特殊ダンジョン内の鉱石やアイテムは希少価値があるから儲かるぞ」


 市太郎、リナ、日野が怖がる優に説明する。それでも怖がる優は「ダンジョン探索は絶対にしないと駄目なの?」と聞いた。


「当たり前だろう。探索者がダンジョン探索しないで何が探索者だ?」


 優の質問に日野が呆れたように言う。


「特殊探索科の訓練内容にダンジョン探索がある。拒否は出来ない」


 市太郎の答えに優は学校を止めたいと思った。


「大丈夫だって! 私達には安全なダンジョンだから。一年生の優君は訓練して経験を積んで安全なダンジョンで慣れて、特殊なダンジョンを探索していくんだから」


 リナの説明を聞いて恐怖が少し和らいだ。


「女のリナだって経験を積んだんだ。男のお前がグズグズ言うなよ。みっともない」 


 日野の言葉を聞いて落ち込んだ。


「なんにせよ、優君には特殊探索科として頑張ってもらいたい。私達も協力するし、学校の人達も私達の功績に期待している。優君、一緒に頑張ろう」


 市太郎の励ましで頑張ろうと思った。


「質問はあるかな? 優君」

「あ、あのどうして僕は魔力量がゼロなんでしょうか?」


 前から思っていた疑問を聞いた。人間は必ず魔力を持っているのに優だけが魔力量ゼロで苛めを受けていたから、人間以下と言われて悔しい思いをしたからその訳を聞く。


「ふむ、魔力は人間には備わっているが、魔力量がゼロの理由は……」


 市太郎の言葉に耳を傾ける優。


「魔力を図る機械が我々の魔力を感じる事が出来ないからだ」

「……それだけ?」

「それだけだ。優君や私、リナ君や日野君には魔力はある。しかし私達の魔力は機械や他の人達には感じる事が出来ない」

「どうして?」

「我々の体が問題という事だな。私達の体の何かが魔力を封じていると考えてくれれば良い」


 自分の体を見る優。そして周りを見た。いたって自分の普通の体だと思う。他の人達も普通だと。


「実験で私の爪や髪を切り、それを測定した結果、残滓の少量の魔力が検出された。その結果、体内に魔力を封じている何かしらのモノが存在しているという事が分かった」

「……僕にも魔力がある?」

「その通りだ。機械では調べる事は出来ないが魔力はある。これは入道先生が論文として学会に提出している」


 魔力が在ると言われて優は嬉しかった。魔力量がゼロの人間以下と言われ自分は落ちこぼれかと思っていたが、魔力が在ると言われ優は喜んだ。

 そして優は次の質問をする。


「山田君が副担任補佐で講師と訓練を担当するって言っていたけど……」

「特殊探索科の専門家が私しかいないので仕方がないのだよ。歴史の浅い分野だからね」

「でも同年代だよね、同じ歳だよね」

「その通り優君と同じ歳だ。父親がダンジョン管理省に務めているので、私も将来は管理方面で働こうと考えていて、三年前、中学校一年のときだったかな。父の伝手で魔力量を調べる事が出来たのだよ」


 市太郎の魔力量はゼロだった。しかし市太郎はどうして魔力量がゼロだったのかと考え、管理省で研究し自身の体が魔力を消す能力だと分かった。

 市太郎は父親の協力のもと、魔力を消す能力であるアンチマジック能力を研究し、自身の体で実験し、特殊ダンジョンを攻略し、魔力が原因の病気に対しては入道護道と一緒に解明して、アンチマジック能力者としての立場を確立して行く。

 他にも魔力量ゼロの者達を捜してスカウトして人数を増やしていく。日本だけではなく他国も調査した。

 一年前、市太郎が中学校三年のときに探索者高等学校に新しい学科である『特殊探索科』を設立し、教師役として市太郎が担当した。

 特殊探索科は在学中でも成果を上げている市太郎達は学校でも特別扱いされている。

 そして今ではダンジョン管理省の特殊探索班にも配属が決まり、特別待遇を受けている事を優に説明した。


「私達、特殊探索科はダンジョン管理省からの給与の他に、ダンジョン探索で採取して鉱石等の売り上げの一部も貰える。公務員待遇だから福利厚生も厚いし、危険手当も付くから月給は普通のサラリーマンよりも高収入だ」

「でも、大半は強制的に貯金されて、貰える金額はお小遣い程度なんだよな。……おい、山田、もっと寄越せよ! 子供じゃ有るまいし月一万は安過ぎだろう!」

「同世代のお小遣いの平均よりも高い金額だから問題ないよ、日野君。それに年二回のボーナスも支給していますから、同年代の子供達よりも高額でしょう」

「ねえ、イチ君。今月のお小遣いだけど前借り可能? ちょっと欲しい服があって……」

「前借り不可能ですが、ローンは使えます。十二回払いで法に乗っ取った利息が付きます。しかしリナ君の場合は三回もローン契約をしているので、これ以上はローン地獄に陥るのでお勧めはしない」

「あの、貯金をおろせば……」

「その場合は書面を作成し、降ろした金額で何を購入するのかを審議されて、保護者の許可を経て貯金を下ろせる。購入後は領収書の提出も課される」


 優の質問に答える市太郎。


「……面倒くさいんだね」

「お役所仕事は面倒くさいモノなのだよ、優君」


 当たり前のように言う市太郎に、本当に同年代なのか? 改めて思った優だった。

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