第7話 肉球

 夕食を食べ終え、お酒を飲みながら胡座をかいてバラエティ番組を見ていると、いつものように猫は私の足にすっぽりと収まるのだった。時々、私が大笑いすると、猫はびくっと驚いてしまうのは、なんだか申し訳ない。

 テレビを見ていたら時刻は既に22時頃になっていて、私は風呂に入らなきゃと思い、足にいる猫をそっと下ろす。

 そして私は、タンスから着替えを取りだして風呂場へと向かった。 


 冬の時期、風呂に入る瞬間は唸るような気持ちよさを感じる。体をすっぽりと湯船に浸からせると、全身の毛穴からじわりじわりと熱が伝わってくる。

 風呂に浸かって全身から汗をだらだらと流していると、私の体にある不純物が外にどんどんと流れているような心地がして気持ちが良かった。そして、私の負の感情も外へと流れ出ているような気がした。

「ニャォ〜」

 と、突然猫の声が聞こえた。私は振り返って風呂の扉を見ると、くもりガラスの向こう側にぼんやりと映る猫の姿があった。


 猫は私が1人でいるところに入って来たがる。普段入れないから興味があるのだろう。トイレにいてもにゃーと私を呼ぶ声が聞こえてくる。

 猫が前足をくもりガラスに乗せ、可愛らしい肉球があらわになった。私がくもりガラスに人差し指の指先をつけると、肉球が私の指の所に現れた。また別の場所につけると、そこに肉球が現れる。くもりガラスの向こう側で猫が私の指を追いかける様子が伝わってくる。


 何故こんなにも、猫の一挙手一投足は可愛らしいのだろうか。私はくもりガラスの向こうにいる猫に早く会おうと、風呂をあがった。

 

 風呂を出ると、「にゃぉ」と鳴きながら猫が出迎えた。のこのこと歩いてきて、濡れた私の足にすりすりしようとしたので私は慌てて猫を持ち上げて少し遠くに下ろした。急いで体を拭いて、服を着た。

 私は風呂の外で待っていた猫が愛おしくてたまらなくて、猫を持ち上げて頬ずりしようとする。しかし、ピタッと、猫の前足が私の顔に押し付けられ、全力で拒否される。

 これはいつも通りの行動であり、むしろ私はこれを求めて頬ずりしようとしたのだ。この時、あの柔らかい猫の可愛らしい肉球が私の顔に押し付けられる。この感触がたまらないのだ。

 この感触を求めて私は何度も頬ずりをしようとして、何度も拒否されるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る