第5話 素敵な世界

 食事を済ませて、食器を水で流そうとする。この時、冬の水道水はとてつもなく冷たいので、私は少しお湯の方にレバーを動かして水を出す。ぬるいお湯が出てくる頃に、私は食器を水で流した。

 そして私はベッドに戻り、ベッドの上で胡座をかいてまた本を読み始めた。すると、ベッドにいた猫は、私の胡座を組んだ足の隙間にのそのそと入り、ゆっくりと丸くなった。猫はすっぽり私の足の間にはまって、幸せそうに眠っていた。私の足にじんわりと猫の温もりが伝わってくる。


 私は猫の眠る姿を見て、癒されると同時にとても羨ましく思っていた。私は先の見えない憂鬱から逃げ出して、こんなふうに眠っていたかったのだ。

 

 しばらくすると、幸せそうに眠る猫の姿、猫の温もり、そして食後の満腹感で、私はふんわりとしていて、それでいて強烈な睡魔に襲われた。私はその睡魔に抵抗することもなく支配され、猫が枕にしている曲げた左足はそのままにして右足を伸ばし、本を枕元に置いて横になった。瞼の重みに従って、景色は次第に暗くなる。外で降っている雨の音が、すーっと遠のいていった───。

 

 


 目を覚ますと、カーテンの隙間から陽の光はもう漏れていなかった。そして、しとしとと降る雨の音はまだ聞こえてきた。時刻を確認すると、5時頃であった。5時でもうこんな景色が暗いなんて、冬の昼は本当に短くて、儚い。

 起き上がると、猫がベッドの隅で、私の足元の先にある何も無い真っ白な壁をじっ…と見つめてる様子が目に入った。


 この時、猫は幽霊を見ていると言わているが、実際のところ何を見ているのだろう。猫は私達には見えない不思議な世界を見ているのかもしれない。それがどんな世界かは見当もつかないが、きっと素敵な世界なんだと私は思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る