第2話 朝の幸福
しとしとと降る弱くも強くもない雨の音と、本のページをめくる音、そして時折通る車の走行音だけが聞こえてくる。
『檸檬』に収録さている『冬の日』の文章は、この静かな寒い朝にぴったりで、私の身に染みてくる。
すると、猫も目を覚ましたようで、私の足元でモゾモゾと動き出した。私は少し上半身を起こして、布団の膨らみが、足元で動く様子を見ていた。そして、猫は私の足元から布団を抜け出して布団の上に乗った。
私の猫は、マンチカンである。可愛らしい短い前足と、宝石のように綺麗で大きな瞳を持っている。そして、カプチーノを混ぜたような柄と色合いである。
猫は布団の上でしなやかな体をぐにゃっと曲げて、短い前足を前に伸ばし、おしりを上に突き上げてぐぅっと伸びをした。
この猫が伸びをする様子は、いつでも私をうっとりとさせるほど愛おしい姿だった。猫の美しさと可愛いらしさが相まったこの姿は、額縁入れて飾っておきたいほど私を魅了する。
伸びを終えた猫は私の方へとのこのこ歩き、私の胸元で座って私を上から見下ろした。私は本を枕元に置いて、猫の頭ともふもふとした首元を撫でる。すると猫は目を閉じながら気持ちよさそうにして喉をゴロゴロと鳴らし、その振動が私の手に微かに伝わってくる。
気持ちよさそうな可愛らしい猫の姿と、もふもふで滑らかな猫の感触は、陰気な外の様子と私の憂鬱を忘れてしまうほどだった。
私はこの猫に見下ろされ、猫を撫でることになんとも言えない幸福の念を抱いていた。猫に見下されると、私は猫の下僕であり、私は猫を飼っているのではなく飼われているのだという感覚に陥る。言わば、猫は主であり、私はその従者なのだ。
胸元で座っていた猫は次第に
撫でる手を止め、枕元に置いた本を手に取り、私はまた本を読み始めた。
この静かな休日の朝が、私の1番の幸福であった。
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