第3話 死神

いつの間に入ってきたのだろう。

見たことのない男が立っている。


ひどく痩せていて、まるで骸骨のような顔だ。

服装は、麦わら帽子に手ぬぐい、

作業着を着て、足は長靴を履いている。

病院の敷地で草むしりしているおじさんか?

手には金属製の長い棒を持っているが、これは何だろう?

そもそも、俺に知り合いにこんな人はいない。


「誰?」


「おやおや、あなたには私が見えるのですね。

 それでは自己紹介しましょう。

 わたくし、『死神』と申します。

 お見知りおきを」


やれやれ、こんな幻覚が見えるようになるとは、

俺の死期は本当に近いのかもしれない。

出て行け、と言おうとも思ったが、

長らく家族も同僚も見舞いに来てくれず、

暇を持て余していたら俺は

死神と話してみることにした。


「死神ってことは、俺の寿命は見えている、ってことだな?」


「左様で」


「さっき、俺の心臓が何回動いた時死ぬとか言っていたような気がするが

 それは本当か?」


「もちろんでございます。

この仕事、数千年やっておりますので、

人の死期はピタリと分かるのでございます」


そうか。やっぱりそうなのか。

心臓が動いているということは生きている証。

喜ぶべきことだ。

しかし、一定の回数、心臓が動くと死ぬのであれば

心臓はあまり動かない方がいい、

ということになる。

心拍数を数えることは、

死へのカウントダウンみたいなものなのか。

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