第5話 転生
俺は真っ暗な空間にいた。これが死後の世界というものか。ロートレク教会では死後の世界は、白く輝く美しい世界だと教わってきた。だが、一度死んで復活した者がいない以上都合のいい夢想でしかないらしい。
「これが死後の世界? なにが美しい世界だ……‼」
暗闇の中で、俺は三人の裏切り者について考える。おそらくは魔王を倒した英雄として王国ひいてはディシリアン大陸中の大英雄として迎えられるだろう
「くそったれ……セイランもヨルンもガルドも最初からこれが狙いだったのか」
死後の世界で何ができるかなんて考えもしなかったが、思考だけは明瞭だった。その分、裏切り者たちのことを色々と考え、憤ってしまう。もう一度チャンスがあるなら……――あの三人を地獄に落としたい。そう思った瞬間、真っ暗な空間の一点が明るく光った。炎のような光はどんどん大きくなる
「不死鳥……本当に存在したのか……‼」
炎を纏った神聖なる存在は、俺を見下ろしている。心の奥に刻まれた何かが疼くのが分かる。きっとそれは魂にまで刻印された不死鳥の加護だろう。
「不死鳥よ、願わくば、もう一度俺を蘇らせてくれ……‼」
不死鳥は涙を俺に向けて一滴垂らした。それは燃えるように熱く、俺の消えかけた魂を再燃させる。そして不死鳥は羽ばたき、暗闇がまた広がった。
「どうか……願いが……叶うように」
気が付けば温かい液体の中に浮遊しているのが分かった。上下前後左右すらも曖昧な感覚。身体を動かそうとしても、手足が振り回せる程度だ。
少しずつ俺の身体は身動きがとれるようになってくる。時々暗黒の中で外から声をかけられた。
「ミミ、パパの声が聞こえるかな?」
「ルル……――あと一週間くらいだって治癒院の産婆さんが言っていたわ」
「生まれてくる子はきっとラナにそっくりの可愛い子に違いない」
そしてまた長い眠りに就いた。唐突に本能が温かく暗い水の中から出ろと早鐘を鳴らすように聞こえる。聞き覚えのある女の声。応援する男の声がした。はっきりと誰の声かが分かった。魔導騎士団序列第三位ルル・ポートリヤの声だ。
覚えているのは勇者パーティーに裏切られて、死んだところ。その記憶もあやふやだが、俺は、不死鳥の加護で転生したらしい。
ラナ・ポートリヤの力む声が聞こえる。その夫ルルガ応援していた。
一気に温かさと安心感のない、冷たい世界へと俺は生まれ出る。
「ラナ、頑張ったな」
「ええ、ルル……私たちの赤ちゃんよ」
「あう……あああ……」
声が上手く出せない。更に言えば、視界もはっきりしない。だが一つの声が聞こえた。
『転生おめでとう。ジークフェルデ――いえ、ミミ・ポートリヤ』
『ミミ?! その声は、リンドベルムか?』
『もう少しレディーのような話した方がいいわね』
『レディー?』
『だって、ミミは女の子だもの』
ガツンとメイスで頭を脳漿ごと粉砕されるような気持ちになった。魔導騎士団団長の俺が、ミミとか言う半人半魔に生まれ変わったのか。それよりも王女様は、あの裏切り者たちはどうなったんだ。
その意識を反映したかのようで、俺は声帯や目に耳がはっきりとし始める。
宙に浮くという原始的な魔術を使えることが分かった。
「ラナ……大変だ。ミミは天才かもしえない。隣の部屋で宙に浮かんでいるんだ」
「ルル、最初は失敗する魔術だから捉まえて」
隣の部屋から声が聞こえた。取り敢えず今は落ち着こう。魔法の才能はあるようだし、これから、成長すればいい。あの三人が今どうなっているかは分からない。ただ言えるのは、この燃え滾る復讐心は生涯忘れないということだ。
――――――――数年が過ぎた。復讐劇が今始まる。
https://kakuyomu.jp/works/16817330649705309002
カクヨムコン参戦作品になります。完結&ハッピーエンド保証です。
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