第3話 VS魔王フレアベルゼ
魔将軍アイゼンが敗れ去った後、魔剣雷竜を杖代わりにして立ち上がり、玉座の間へと進んだ。途中で魔王の眷属の雑魚が襲い掛かってきたが、八剣流の技を出すまでもなく軽々と倒す。
ようやく大きな広間に辿り着いた。そこでは勇者セイランが聖剣レア・クローネを振りかざしながら、火焔の鉄姫とも呼ばれる魔王フレアベルゼと一見すると互角の戦いを挑んでいた。
「くくく、勇者よ、この程度が本気だとは言うまいな?」
「魔王フレアベルゼ……その首叩き落します」
「小娘よ……やれるものならやってみるがいい。格の違いをみせつけてやるかのう」
魔王フレアベルゼは、四つ腕の焔に包まれた美しい女の姿をしていた。顔半分は仮面で覆われており、魔族を表す二本の立派な角が生えている。それがなにがおかしいのか呵々大笑していた。歴史的に見て虐げられた魔族は好戦的な者が多い。歴代で最強にして苛烈な性格とされるフレアベルゼは、一〇〇年ほど昔に大陸の半分を大魔法の炎で焼いた。
「煌めくは白霜の刃――――――凍てつく閃光となりて――――――我が敵を切り倒せ――――――アイシクルエッジ!」
「始まりの炎を灯す者――――――其は宵闇の中の一厘の花なり――――――我が求めに応じ、我が敵を焼き尽くせ――――――フレアリコリス‼」
勇者セイランが唱えた氷の刃を生み出す魔術に、魔王フレアベルゼは炎の花が咲き誇る魔術で対抗した。まだまだ本気ではない様子だ。だが、それが勝機ともいえる。
「八剣流奥義――――――飛竜墜とし‼」
「……なっ?!」
俺はフレアベルゼの不意を突いて、その四本のうちの一本の腕を切り落とした。仲間たちにも魔王にも動揺が走る。フレアベルゼは見る見るうちに、赤い髪を炎で逆立て、激昂した。
「勇者でもない魔導騎士風情が……妾が腕を切り落とすとは……まずはお主を冥府へと葬り去ろう。名乗れ、魔導騎士よ」
「ロンドニキア竜王国魔導騎士団団長ジークフェルデ・アールヴ・シュナイダー」
「ふむ……じゃが……――よく見れば……いい男児だな。ジークフェルデ、仲間を捨て、妾の軍門にくだれ」
「「「え?!」」」
「妾の伴侶となり、この世界で神々を撃ち滅ぼし、真の覇道を為さぬか?」
魔王フレアベルゼはまるで断るはずがないと確信したかのように、野望を嬉々として話しかける。冗談ではない。幼い頃、農民だった父母を魔王軍に殺され、残された妹も魔族に拉致された。憎しみの業火が、心に一点の黒い染みとなり広がっていく。
「……ざけるな」
「なんじゃと?」
「……ふざけるな。お前たち魔族が魔大陸から地上を襲うから人族や他の亜人族も平和に暮らせない。なにが真の覇道だ。そんなくだらない妄想の為に、死んでいった者たちを返せ」
「平和か……――真相を知れば妾の軍門に下りたくなるじゃろう」
魔王フレアベルゼは、くくくと笑い始める。何がおかしいのかさっぱり分からない。だが、なんとなく、話しを聞いてもいいと思えた。魔族の掟は力のみだ。話す言葉には一切の嘘がない。
「(ジーク、不意討ちを狙うか?)」
「(ジークさん、魔法の詠唱を中断して、タイミングを見計らいます)」
「(ジーク様、私は不意討ちには反対です)」
俺は魔王フレアベルゼには一分の隙もない。奇襲は間違いなく相手の思うつぼだ。俺は首を横に振り、魔剣炎虎の切っ先を向けて、話しを聞く意思表示とする。
「くくく、懸命な判断じゃな。さてどこから話そうか……太古、魔族と人族、亜人族が分かたれていなかった時代のことじゃ。世界は青くみずみずしく……荒野ばかりではなく、森や生き物が溢れていた――――――」
しかし星の寿命が尽き、世界は荒野に変わった。元々は同じ種族だった人族、亜人族、魔族は、分かたれて星の寿命の残滓を奪い合うようになったという。
「魔大陸には良質な魔石がまだ残されている。お主らの王侯貴族は二〇〇〇年間、それを執拗に追い求めて魔王大戦は続いているのじゃ」
「しかし……無辜の民を焼き払うなど……許されないです‼」
勇者セイランが叫んだ。彼女は魔王大戦で家族を失い、売春窟で働いていたのを見つけて、勇者選抜の試験に受かり、勇者の紋章を手に入れた。ある意味、目に入れても痛くない弟子や娘に近い存在だ。
「真なる覇道とは……犠牲なくして歩むことはできない」
「その為には……――人を殺してもいいと?」
「妾は強き者、賢き者は平等に扱う。それが魔族であれ人族であれ」
フレアベルゼは手を差し伸べる仕草を取った。
「魔導騎士ジークフェルデ……もう一度問おう。我が軍門に下れ。貴様はただの王侯貴族の駒にするには惜しい。醜き欲の塊共に仕えても……滅びの運命からは逃れられぬ」
話が大詰めになりかけたところで、二人動く者がいたヨルンとガルドだ。二人はフレアベルゼの虚を突く形で、剣技と魔法で挟み撃ちにした。
「其は、空の落とし子――――――雪花よ、咲き誇れ――――――アイスバーグ‼」
「紅蓮一刀流奥義――――――金剛切りの一太刀‼」
それに対してフレアベルゼは二つの手から魔法を放った。ただの中級魔法だが、直撃すればダメージはかなりのものになる。二人に向けて爆炎を射出。
「漆黒の炎よ、爆ぜろ――――――エクスプロージョン‼」
ヨルンとガルドは空中で無惨に撃ち落とされた。だが、そこで、セイランが素早い動きを見せる。セイランは、咄嗟の事態によく反応をするセンスがあった。
「光の精霊よ――――――我が力となり友を癒したまえ――――――ヒール‼」
爆発で火傷と怪我を負った二人が地面に転がる頃には、二人は全快していた。勇者セイランは、聖女としての資質も持ち合わせている。治癒術は得意中の得意だ。二人が死ななくてホッとしていると、フレアベルゼの魔力が一段と高くなる。
「妾が魔王剣――――――テラ・アーガムよ」
フレアベルゼが赤い炎を纏っているのに対して、宙から取り出した魔王の剣は純白で柄の部分に、尾が付いていた。再び空気が石化したような強力な圧がかかる。魔王の力の一端を見て、息が上手くできない。
「テラ・アーガムよ、妾の生き血を吸うが良い」
「「「「――――――ッッ⁈」」」
魔王剣テラ・アーガムは、生き血を吸うと、白から赤い焔の色に刀身を染めた。
目では追えない攻撃が来ると脊髄反射。瞬間、俺はセイランを庇い、重々しい感触の魔王剣を魔剣氷鷹で受け止めていた。地面が放射状に割れるほど重い。魔将軍アイゼンが可愛く見える。
「ふむふむ、目で追えるはずがない妾の一太刀を耐えきるか。ますます気に入った」
「こっちは……命懸けなんだがな。技も使わずに、ここまで押されるとは‼」
「今まで挑んできた中で、一番お主は強い。そしてそこの小娘勇者は一番弱いのう」
侮辱されたと勘違いしたセイランが、聖剣レア・クローネの真威を解き放つ。歴代の勇者たちの生きる残像がフレアベルゼを襲う。余裕の表情だった魔王も厳しい面持ちになった。が、それまでだった。フレアベルゼは膝をつくどころか怒りで魔力の炎を顕現させて、残像を全て吹き飛ばす。
「小娘よ、妾に小手先が通じると思っておるのか?」
「……心眼流究極奥義――――――魔王狩り‼」
セイランの姿が消えたかと思うと、魔王の背後に立っていた。フレアベルゼは肩から袈裟切りされて、炎のように真っ赤な血を流し始める。フレアベルゼの仮面に覆われていない素顔が笑う。何者を相手にしているのかがようやく分かってくる。ただのスライムがドラゴン種と戦うように、強さの次元がそもそも違う。
「歴代勇者が使って来た心眼流の最強の一太刀か……が、温いのう」
「対魔王に編み出された必中必殺の剣技なのに……?!」
「お主……剣を握って日が浅いじゃろう? 魔力の使い方もお粗末じゃのう」
魔王の言う通りだったセイランは……――王侯貴族の思惑で、未熟なまま勇者として送り出された。それを支えるのが他のメンバーたちの役目だ。特に俺は国王陛下の命令で八剣流の剣技で、勇者を守り切り、魔王を倒すきっかけを作れと命令を下されている。
「八剣流究極奥義――――――
光を追い抜いて、事象が八つの斬撃が起こったことに塗り替えられる。フレアベルゼは四つ腕の内一本だけが残り、他は切り落とした。究極奥義を使ったので、体が空気がねっとりとして身体が重い。元々日に何度も使える技ではないのだ。
「勇者より余程歯ごたえがあるのう。そして虫けら共……分をわきまえよ」
フレアベルゼが、炎の魔力を発散させた。ヨルンの氷雪系魔術も、ガルドの剣技も使う前に吹き飛ばされる。セイランは、魔王との格の違いを知ってしまったのか、過呼吸になり、怯えている。
「魔王フレアベルゼ……――サシで勝負がしたい」
「サシ……だと?!」
「ああ……――俺の全力で……お前を倒す」
魔王フレアベルゼの口角が歪んだ。愉悦に浸り、面白いと心底思っているのが伝わってくる。
魔将軍アイゼンが言った通り、俺は八本の魔剣に寿命を奪われながら戦っていた。
ならばこれから先の寿命を全て振り絞ったらどうなるだろう。
「魔王剣テラ・アーガムよ、妾の魔力を存分に吸うがよい」
「炎虎、氷鷹、風鬼、雷竜、黒狼、水魚、灰猫、緋王――――――我が命を糧に覚醒せよ」
左右両腰に四本ずつ、計八本の魔剣がガタガタと震え始めた。それは武者震いのような、戦うことに歓喜しているような、そんな印象を抱く。
「では……来い‼ 人の子よ‼」
「行くぞ、俺の全てを懸けた一撃だ」
――――――――俺は魔王フレアベルゼに勝った。
https://kakuyomu.jp/works/16817330649705309002
カクヨムコン参戦作品になります。完結&ハッピーエンド保証です。
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