第16話 奴隷商会 1
「ええと……次は何をするんだったっけ?」
朝食を食べ終え店を出るとシルビアがそう尋ねてきた。
「……なんだっけか。俺も忘れた」
朝食のインパクトが強すぎて今日の予定が頭から飛んでしまっていた。
ええっと……確か今日決めたんだから朝に起こったことを思い出せばいいはずだ……。
朝は目覚めるとシルビアが隣で寝ていて、それでフリーリバイバルについて考察して……シルビアが起きてもまだ寝ぼけていたから顔を洗わせて……ああ、その時にシルビアから良い匂いがしたんだっけな。
「そうだ、奴隷だ。奴隷を買おうとしていたんだった」
「そうだったのか? そうだったような……」
シルビアは寝ぼけていたのだろう。だから覚えていなかったのだ。
だが俺は思い出したぞはっきりと。
「奴隷がいればやらなくていいことはやらずに済むんだぞ」
奴隷を買ってシルビアの朝の世話や他の雑事をやらせる。
なんたって奴隷は俺の所有物。何をやらせたっていいんだからな。
「というか……今更君に奴隷なんているのか?」
「どういうことだ?」
シルビアの世話を全部俺がやれってか?
は、俺に生き返らせてもらった分際で生意気な……本来ならお前が俺の世話をやるべきなんだからな。
「いやだって、奴隷なんて買わなくても君が蘇生させた者がいれば十分だろう? 私だって自分のことくらいは出来るから君の世話程度ならそこらの死体を1人生き返らせればいいのではないか?」
自分のことくらいは出来る……?
こいつ……自分が朝あれほど面倒を俺にかけさせたのを忘れたのか。
まあいい。寛容な俺は許してやろう。拳骨1つでな。
「痛い!? 何で急に私の頭を!?」
「五月蠅い黙れこの寝坊助が。まだ寝ぼけているっていうならもう一発いっとくか?」
「急に乱暴になりすぎだろ君!」
何時までも店の前で騒いでいるのもアレなため、さっさと歩きだす。
「奴隷が売っている場所は知ってるか?」
「ああ、それなら分かるとも。私が何年この街に住んでいたと思っている!」
知らんがな。というかシルビアお前、そんなに街に馴染んでなかったと聞いたぞ。
「この街で奴隷を扱っている店となると2つあるな。1つは小さい個人経営の店。もう一つは定期的にオークションを行うそれなりの規模の店だ」
「ふうん」
この場合、どちらに行くのがセオリーなんだろうな。
小さいが品質の良い商品を扱っているみたいな老舗。
大きいが細かなところに気が向いていない大企業。
普通ならこうだろう。たぶん世の中の主人公達は小さい店に行って、老舗の店主に良くしてもらって良品を買うことができるのだろうな。
だが、こと奴隷に限っては俺は大企業を選びたい。
老舗とかいつ潰れるかもわからない場所の奴隷なんぞ売れ残りがさぞ揃っていることだろう。生ものは大企業に限る。老舗は伝統的な何かを何時までも作っていてほしい。
そんなわけで俺としての考えはこうだ。
品質が余り良くないから客も来ず小さい店。
品質が良いため繁盛し大きくなった店。
「当然、後者だな」
「そうか。まあ大きい店というのはそれに伴った実績があるからな。私としても賛成だ」
そして大企業というのは評判を気にする。
客を無下には出来まい。
「じゃあ決まりだ」
シルビアの先導の下、俺達は歩き出す。
「奴隷が必要な理由な。それはちゃんとした人間を連れておきたいってことだ」
「ちゃんとした人間……」
「俺がこの街に来る時、衛兵と少し揉めてな。どうも俺の職業が気になったらしい。お前もステータス見られたら困るだろ? だから、人間を俺達の中に入れることで何かステータスを見られる時の身代わりにさせる」
「なるほどね……」
まあ全員見せることになったらそれまでだが。一応の保険というやつか。それ含めて、シルビアの世話含めて奴隷を買いたい。
「問題があるとしたら……」
「あるとしたら?」
「手持ちで足りるかってことだな」
この世界の人の価値が未だよく分からない。人の命の値段。安く見られているか高く見られているか。それによって値段も変わってくるだろう。
「まあその時はギルドでクエストを受けるしかないがな。少し難易度の高いやつを受けることにしよう。シルビア、お前の力をそこで見せてもらうぞ」
「任せておけ。……まあまだ魔力が戻り切っていないから期待に応えられるかは分からないが」
「魔力が戻ってない?」
初耳だぞ。
生き返らせた直後のジルはそんなこと言ってなかったが。
あいつは力……つまりは肉体が無事ならそれでいい闘い方だが、シルビアは別なのか。
「死ぬ前の三分の一といったところだろうか。当然ながらそれだけ魔法の威力も落ちている。まあそれでもそこらの魔法使いよりは闘える自信はあるぞ?」
「シルビアは多くの魔法を使えるからか?」
「ああそうだ。相手に合わせて魔法の属性を使い分ける。剣や槍では出来ない闘い方だ。……白魔法だけは使えなさそうだけどね」
ジル曰く、そして俺が図書館で学んだ限りでは、白魔法は浄化や回復に特化している。
黒魔法である蘇生魔法で生き返らせた反動だろうか。
シルビアが無理にでも白魔法を使ったら……回復魔法を使ったらシルビアにダメージがありそうだ。
「白魔法を使う相手なんかいないだろ。俺が全員メンテナンスで直してやるさ。……まあこれから手に入れる奴隷だけは別だから何か手を考えないとな。……ポーションとか存在するのか? ……ジルの宝物に回復用のアイテムってあったっけか」
「君もさ」
俺がまだ見ぬ奴隷の回復方法について考えていると、シルビアが俺を指さした。
やめろ、俺が先端恐怖症だったらどうする。
「あ?」
「君も死体ではない。だから君自身もメンテナンスは効かないだろう? 逆に回復魔法は効くのではないか?」
「ま、まあな……」
そういやそうだ。
俺がいる。回復手段を探すのにまず一番で俺のことを考えなければいけなかった。
この世界で一番大切に考えなければいけないのはこの世界の王でも国民でもジルでもマイクでもシルビアでも奴隷でもなく……俺だ。俺は俺を一番大切に扱わなければならない。
「……回復なら薬草や専用の薬をいくつか買えばいいだろう。私の家にはもうないだろうが、素材さえあれば私でも作れるしな」
さすが研究者肌。肌だけでなく中身も研究者だったとは。
「着いたぞ。ここが街で一番の商会。表の商品も裏の商品も扱うクラリー商会だ」
「シルビアでも知ってるってことは裏でもなんでもないんじゃないか?」
「私でもって……失礼な。表では出回らない素材が必要なことだってあるからここではよく買い物をしていたんだぞ」
そういえばこいつがまだ何の研究をしているのかよく分からない。
とりあえず馬鹿な家を建ててそれで死んだってことは知っているが……それだけ聞くと馬鹿なんだよなぁ。
「今の私はこの仮面で分からないだろうが、一見にだって対応はしてくれるはずだ。奴隷は……この国では一応合法だから表の商品扱いだ。まあ持っている者は好まれないから買う人間は限られているんだけどね」
「金持ちとかってことか」
金に物を言わせてさぞ美少女や美女を囲っているんだろうな。そんなオッサンの姿がやけに想像に容易かった。逆も然り。オバサンがショタを囲う姿が目に見えるようだ。
「金持ちや……たまに冒険者も買うな」
「冒険者も買うのか。なら俺達と一緒じゃないか」
なんだ。それなら俺が奴隷を買う時も冒険者だから、の一言で済むな。
「一緒ではない。私達は奴隷を雑事のために買う。つまりは共に生きるつもりでいる」
「そいつらは共に生きないとでも言うのか?」
「ああ。彼らは奴隷を囮に使う。強力な魔物を相手にする際に盾一枚を持たせて前に放り出す。闘いの後、生きている奴隷など一握りらしい」
俺の闘い方と似てなくもない。
前に死体の囮、俺は後ろで見守る。……攻撃する分、その冒険者とやらがマシに思えてくるが、囮が生きているか死んでいるかの違いがここでの問題だ。
「ならば冒険者とは言わないほうがいいのか? 適当なのを売りつけられる可能性がありそうだ」
「貴族の使いということにしよう。それなら家事の出来る奴隷を探してくれるかもしれないな」
「シルビア、お前の【鑑定】でも確認してくれよ」
「分かっている。仲間となるのだからな。少しでも優秀な方がいい」
4階ほどまであるだろう。
街で一番の商会というのも頷けるほどの、まるでデパートのような建物に俺とシルビアは入っていった。
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