第15話 シルビア 4

 【鑑定士】。確か図書館で読んだ本の中にあったな。【鑑定】というスキルを得るにはいくつかの職業に就く必要があるが、どの職業も就くためには困難どころではない条件が必要だと。そしてその1つが【鑑定士】。

 そもそも【鑑定】というスキル。これが非常に貴重で希少らしい。

 もし持っていれば国のお抱えに間違いなくなれる。それだけ珍しいスキル。


 しかしその詳しいスキルの詳細自体は載っていなかった。

 曰く、閲覧禁止域にあるのだとか。


「君は自分のステータスを見ることができるが、他人のものは見られないのだろう? 私はそれができるということだ。他人どころか魔物も、そして物質でさえも」

「ふーん。まあ便利な力なんだろうな」

「……それだけの反応か。ハハハ。便利どころか国を挙げて探すような力なのだけどな。なにせ私の前では強弱も真偽も偽れない。宝物だって国中に蔓延した偽物があるが、私ならばそれを見分けることが出来る」

「なるほどな。掘り出し物を探すにはうってつけだ」

「更には街に近づく凶悪な魔物が現れたとき、このスキルがあればどの程度の強さか分かり、適した戦力を送ることができる」

「無駄な特攻隊を出さずに済むってことか」

「……なんだか君と話していると、そこまでの力ではないように思えてくるから不思議だ」


 失礼な。

 最初から言っているだろ。便利な力だって。

 シルビアは首を傾げる。【鑑定】というスキルに自信を持てなくなっているのだろう。

 

「安心しろ。良い力じゃないか」

「ならもっと驚いたりしてほしいのだがな……」

「んで? これで終わりか?」

「いや、それだけじゃない。まだあるぞ! 普段は疲れるからやらないが、見た者の素質すら私のスキルは見通すことができるんだ」


 素質とな。

 これから得るであろう力のことか。それとも隠された力か。


「私はエルフだから魔法に特化しているのだが……その影響か私はその者の魔法の素質を知ることができるのだ」

「おお、すごいなそれは!」


 驚いてほしそうなのでオーバーリアクションを取ってやる。

 おまけのおまけでスタンディングオベーションも付けてやろう。パチパチパチパチ。


「それは恥ずかしいから座ってくれ」


 はいよ。

 なんだ、驚いてほしかったり、恥ずかしくなったり。せっかく仲間になったのだからこうして付き合ってやってるのに。


「俺の素質も見れるのか?」

「ああ。今見てあげよう。……ふむ」


 シルビアが俺を凝視する。

 少し吊り上がった眼が俺を睨みつけるように見やる。そういえばシルビアの瞳は金色だったんだよなーとか、二重瞼かーと俺も対抗して見つめ返していると、


「……ゴホン。そう見られると緊張してしまうが、見終わったよ」

「シルビアだって俺のこと見てたんだからお返しだ」

「お返しって……君が見てくれと言ったのに。まあいい。まず、君の素質で一番大きい魔法の属性は黒魔法だな」


 俺、黒いらしい。

 黒魔法とか廃屋で骨を片手に原料のよく分からない鍋をぐつぐつ煮ているイメージだ。

 ……半分くらいは俺がこれまでやっていたのと当たっているのが解せねえ。


 ええっと、黒魔法か……図書館で読んだ本の知識によると……。


 白魔法が回復魔法や光魔法の系統があるのに対し、黒魔法は蘇生魔法や闇魔法、それに呪法の系統があるらしい。俺の解釈だと白魔法がバフの魔法が多いのに対して黒魔法はデバフが多そうだな。

 ちなみに回復魔法と蘇生魔法が分かれているのは回復はあくまで傷や病を回復できるのに対して、蘇生魔法は【ネクロマンサー】が死体を蘇生させるためあくまでゾンビとしての蘇生になるからである。純粋に人を生き返らせる魔法なんて存在しない……だとか。


 まあだから俺が黒魔法の素質が強いと言われてもなんら不思議ではないな。蘇生魔法使えるし。そもそも【ねくろまんさあ】だし。


「次に強いのが土魔法だな」

「次もあるのか」

「うん。人間は多くて3つの魔法の素質をその大小に関わらず持っているからね。2つというのは魔法使いにとって平均的な数だよ。人によっては1つ。それも素質がとてつもなく低い者もいる。土魔法は防御主体の魔法だから仲間に闘わせるスタイルの君には丁度いいんじゃないかな」

「そうだな。俺は自分から相手に飛び掛かるよりも後ろから指示するか。シルビアの素質は何なんだ?」

「私か? 私は全ての魔法が使えるぞ。火・水・風・雷・土。それに白と黒もだ。一番強いのが風だな。黒魔法は残念ながら簡単な解呪程度だが」

「全部か。さすがはエルフなのか?」


 さすがはエルフ。さすエルである。


「エルフは肉体的強度が低い代わりに魔法の素質の強い者が多いんだ。その中でも私は優秀な方だけどね」


 シルビアはどや顔しながら語る。

 腹立たしいことに、その顔を見ても何にも悔しさを感じない。そんな自分に腹が立つ。


「そんな頼もしいシルビアさんに頼っていれば俺も楽ができるな」


 少しおちょくり混じりに、本心半ばで言う。

 仲間が強いに越したことはない。そもそもシルビアを蘇生させたのが俺の力だしな。


「そう褒めても何も出ないぞ……おっと、出してくれるのはこの店からのようだ」


 シルビアとの会話は思っていたよりも時間を使ったようだ。

 店の店主のおっさんとおばさんがそれぞれお盆を持っており、おっさんが俺の前に、おばさんがシルビアの前にそれぞれお盆を置いていった。


「ゆっくりお食べ」


 そう言って二人は定位置である奥に戻っていく。

 

「食べるか」

「そうだね」


 俺の前のお盆には白米らしきものが入った器、スープ、漬物、野菜炒めであった。

 よく見ると俺の知る白米とは違い少し白さが足りなく形は丸い。まあ地球でも産地によって米の形状なんて違っていたし気にするものではないだろう。


「……ほう」


 触感は白米と似通っていて少し固めである。水加減の差なのかそれともこの米特有のものなのだろうかは分からないが白米は固めが好きな俺としては悪くはない。味? 俺は米の味なんて覚えてない。いつもおかずで流し込んでいる。

 スープはこれまた味が濃い。運動部がしこたま汗をかいた後に飲みたくなるようなしっかりとした味付けだ。具材は葉物らしき野菜と根菜類らしきもの、それと芋のようなものと肉がごっちゃになっている。どれもよく煮込まれており塩と肉から染み出た出汁がよくしみ込んでいる。

 漬物は果物を使っているのだろうか、少し甘めだ。俺としてはデザートにして食べたいのでこれは後回しでいいだろう。

 野菜炒めはスープにあった具材と同じものを使っている。だが、こちらはカリっと焼かれているため、スープと具材こそ同じであっても過程の調理法は同じとは言えないだろう。つまり手抜きではない。味付けは醤油のような塩辛さと砂糖のような甘さを感じられた。


 まあそもそも、だ。俺はこの世界の調味料とか知らないから甘い辛いしょっぱい苦いくらいしか言えないということだ。


 不器用なお父さんの~というメニューであったが、なるほどこれは確かに父親が時たま作るような献立ばかりだ。簡易的で量が多く、味が濃い。


 ……親父を思い出すなあ。


「ちょっ!? 君、どうした?」


 シルビアが驚いた声を出している。

 ちなみにシルビアの方はフレンチトーストのようなパンとコーンスープみたいに黄色いスープ、牛乳プリンだろうか、そんなようなものがお盆に乗せられていた。これまた機嫌がいい時のお母さんが出しそうなメニューであり、不器用なお父さん~と違い量は少ないが手の込んだものばかりである。


 ……お袋はこんなものはつくってくれなかったなぁ


「やっぱり君どうかしただろ!? なんで急に泣き始めているんだ!」


 あぁ?

 言われて前がぼやけていることに気づく。目元に手をやると濡れていた。

 ……俺としたことが感傷的になっちまったか。

 まあいい。出されたものは全部食べよう。たとえ前が見えずとも。





 それからは俺とシルビアは無言であった。

 というか、俺が無言であり空気を読んだシルビアも無言だったようだ。


「また来ておくれよ!」

「いつだって待ってるからね!」


 2つの温かい声とともに俺達は送り出されたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る