第7話 メンテナンス作業
スキルの巻物とやらはどう使えばいいのか悩んだが、試しに使ってみようと念じてみたところ、巻物が消えたため使えたのだと思うしかない。
この世界、とりあえず念じてみればどうにかなること多いな。
『ふむ、どうやら使用できたようだな。巻物も首飾り同様、一回限りだ』
どうやら巻物の使用には成功していたようだ。
後は、ステータスで確認しておくか。
――ステータスオープン
名前:シドウ
種族:人間
職業:ねくろまんさぁ
状態:通常
スキル:言語理解 アイテムボックス オートリバイバル フリーリバイバル メンテナンス 詐称
アイテムボックス:学生服上 学生服下
おお、増えていた。それも2つも。なぜだかこれまで英語表記であったスキルが突如漢字表記になっているけど……言語理解も漢字だからまあいいか。
この詐称というやつがステータスを弄れるのだろう。
詐欺師だから詐称、か。まあこの世界の言語をスキルで翻訳しているだけだからその辺りは案外適当なのかもしれないがな。
「【メンテナンス】というスキルも増えているんだが、どういった効果があるか分かるか?」
詐称も念じてみれば恐らく使えることだろう。
だから俺はもう1つの得体の知れないスキルをジルに尋ねた。
『ふむ、知らぬな。だが、お前は今、我と戦闘を行い勝利した。その経験を元にして強くなった結果、新たにスキルを得たのではないか? そういった場合であれば職業に準じたスキルを覚えることがあるのだが』
ゲームであれば戦闘をすることで経験値が入って力なり速さなりが上がるがこの世界にはそれがないらしい。その代りに、職業由来のスキルを覚えられるってことか。
【ねくろまんさぁ】由来のスキルということは死体関係。
蘇生、ではないよな。【メンテナンス】という言葉だから……補償とか整備とかか。
バフ系のスキルということだろうか。
「とりあえず使ってみるか」
さて、誰に使おうか。
ジルにはまだ避けたい。どのような効果があるか分からない。無いとは思うが、万が一デバフ系……害するようなスキルであれば問題だ。
マイクは戦闘に関しては蘇生させたことでジルと同程度まで強くなっていたし、ここは弓使いに使うことにするか。
……うん? そういえば弓使いの姿が見当たらないな。
「しまったな。あの弓使い、置いてきちまったか」
そういえばあいつ下半身なくて動けないんだったわ。
マイクはついてきていたが、弓使いは先の戦闘の場所に放置していた。
とりあえずマイクに引っ張ってくるよう命じる。
その間にジルにこの世界のことについてレクチャーしてもらう。
まだまだ知らないことはあるからな。
「お、戻ってきたか」
あらかた聞きたいことを聞けて、他の話題を探していた頃にマイクは戻ってきた。
さすがは蘇生させた死体。
半分だけとは言え、かなりの重さであるはずなのに軽々と弓使いを運んでいるマイク。頭がないから分からないが、その表情は余裕なのだろうかね。
と、思ったが、マイクに担がれていた弓使いの手には弓の他に別のものもあった。
千切れた下半身だ。十中八九、弓使いの下半身だろうな。
弓使いを連れて来いという命令は弓使いを集めてこいとなっていたようだ。時間がかかったと思ったら弓使いの下半身を探していたのか。
まあ、いいか別に。
――【メンテナンス】
兎にも角にもこの新たなスキルを使わなければな。
念じてみるとやはりスキルを使った感覚があった。具体的には多少の疲労感。そういえば森の中でジルを撒くためにオートリバイバルを連発したが、段々と疲労感は薄れていっていた。慣れたのか、それともMP的なものが上がったのか。スキルの習熟度みたいなのもあるのかもしれないな。
弓使いの変化はすぐに訪れた。
上半身の下の部分――千切れた箇所と、下半身の上の部分――こちらも千切れた箇所の肉と骨がもぞもぞと動き始めた。
見ようによっては、というか普通にキモかったが、別に吐くほどでもなかったため静かに見る。ジルも興味深そうにそれを見ている。
千切れた上半身と下半身の肉が蠢き、やがて2つの肉塊は接触する。そして、接触した肉塊は互いを引っ張り合うかのように近づき、やがてくっついた。
しばらくすると、弓使いは立ち上がり、何ともなかったかのような、まるで上半身と下半身は別れていなかったかのように立ち振る舞う。
『どうやら回復の類のスキルであったようだな』
「……だな」
バフではなくヒール系であったか。
ならば、とマイクとジルにも同様に【メンテナンス】を使う。
――【メンテナンス】
すると、マイクの肩部の肉が盛り上がったかと思うと、徐々に増えやがて完全な頭部を現した。
ジルは体中の傷が無くなっていく。顔の血はなくなり、マイクが付けた腹の傷も消えていく。
『便利なスキルだな。しかし恐らくだが、お前自身には使えぬスキルだ。自身で体験して分かったが、これは蘇生された者専用のようだ』
「その時は大人しく回復系のスキルを使うさ」
覚えられれば、の話だが。
もしくはヒールを使える仲間を手に入れるしかないか。
『回復系、か。一応忠告しておくが、屍にヒールの類は使うなよ。あれは生者専用だ。死者は回復しないどころか、肉体が溶けて無くなってしまう』
「……覚えておくわ」
よくあるやつだな。
教会とかのシスターが使う聖水とかもこの場合は駄目なんだろうな。
清いものは死体厳禁、だ。
ああ、忘れないうちに詐称スキルを使っておくか。首飾りも。
――【詐称】
名前:マイク
種族:人間
職業:剣士
状態:通常
スキル:剣技
こんなもんでいいか。
参考例はマイクだ。メンテナンスで顔が分かったことだし首飾りで同じ姿をイメージし(ジルに確認してもらったところ瓜二つらしい)、詐称スキルでマイクの冒険者カードに書かれていた職業をそのまま写した。
首飾りを外せば元の姿に戻るらしい。その後首飾りがどうなるかはジルも分からないが、まあ街の中にさえ入ってしまえばこちらのものだ。
また詐称スキルでステータスを偽って冒険者カードを自分用で作ってしまえばいい。
「色々と世話になったな」
『問題ない。我も長年の任務を終え、肩の荷が下りた気分だ』
ふと目に入ったのはマイクと弓使い。
こいつらをどうしようか……。
「ジル、お前はこれからどうする? 俺についてくることはできないが、旅にでも出るか?」
俺は別にこいつを縛っておくつもりはない。
というか、こんな目立つやつを連れて歩きたくない。
『そうだな……ならばこのままここにいようかと思う。宝物はお前にやったとはいえ、それを知らぬ者共にここを荒らされたくはない。ここは我の家も同然なのだからな』
なんだ、肩の荷が下りたとか言っていたが、そんなことはないな。とんだワーカーホリックだこいつ。
「ならこいつら2人も使ってやってくれ。お前の命令を聞くようにしておく。蘇生させた死体は強くなっているからな。捨て駒にでも囮にでも、単純な戦力にでもどうとでもしてくれ」
まあ俺がこの後使うかもしれないが、今はどちらにせよ連れていくわけにはいかない。
『ならば見張りにでもつけさせよう。意識ある我は消耗するがこいつらならば疲れ知らずだろう』
やがて完全に朝方を迎える。
「そういえば、」
今まで何とも思っていなかったが、1つ思い出したことがあった。
「死体は日のあるうちに活動できないと街の兵士が言っていたが、どうなんだ?」
この場所を守るのはけっこうだが、昼間に攻めて来られたら守れないんじゃないだろうか。
『それな』
なんだかやけに若者言葉みたくジルは返す。
『先ほどから日を見ても特段何も起こらない。恐らく、お前の職業が通常のネクロマンサーと異なるせいかもしれぬ』
ああ、ここでそう来るのか。
【ネクロマンサー】の上位の職業なのかもしれないな。【ねくろまんさぁ】とかいう微妙な名前の職業は。
昼でも夜でも活動できる強化された死体。無敵じゃないか。
無敵の死体軍団……ありかもしれないな。
「じゃあな」
『ああ』
短く別れの挨拶を済ませる。
別に今生の別れでもない。
街での用事を済ませたら一度戻るつもりだし。
「ああ、忘れてた」
歩き始めて数秒、俺は再びスキルを使う。
――【メンテナンス】
「――!」
鳴きこそしなかったが、腹に刺さっていた矢の傷が塞がった小鳥が嬉しそうに俺の肩から羽ばたき、俺を案内するかのように前を飛んだ。
「おまけだ」
――【フリーリバイバル】
これでお前は自由に飛べる。
せいぜい俺の為に飛んでくれ。
俺の思惑とは別に小鳥は俺の頭上を旋回した後、肩に再び止まり、俺の肩で
「ピイィッ!」
と、鳴いた。
……うわ、近くだとうるせえわ。
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