140 なにかの秘密
目が覚めたらまた凄いことになっていた。
いや、なんか戦闘が起きてるなって思ったから、見張りのクレセントウルフを増員&『ダハーカの骸装』で支援だけしてまた寝たんだけど……。
「なんじゃこりゃ」
ツリーハウスの周りは死屍累々になっていた。
いや、『血装』もしていたから血泥泥々?
魔境の中とはいえこれはひどい。
「ん~?」
それに血泥に交じって岩やら鉄板やら金属製の爪やら牙やらが転がっていたりする。
たしか、ロックガリアはあの斜面の向こうから現れたんだったよね?
「なにかあるっぽいなぁ」
見に行く?
行かない?
「……行ってみようか」
あまり悩まずに決断した。
ソウラの言い方だといずれここで石材を集めたいみたいな感じだったし。
そこでこんな謎の魔物に襲われていたら……と考えると無視もできない。
朝食は朝和定食で軽く済ませて、ツリーハウスを片付けると斜面を登ってみた。
つるつるなわけじゃないので登るのはそれほど難しくはなかった。
頂上に到着し、周辺を探る。
大きな岩場になっているからか、高い木は生えていない。
目的の物はすぐに見つけることができた。
というか、原因は絶対にこれだよ。うん。
目の前には円筒型の建物がある。
大きな出入口があり、そこにはシャッターのように上に押し上げる扉があったようだけれど、いまは壊れている。
中は影に呑まれそうになっているけれど、その中に地下に続く螺旋階段があった。
あ、階段じゃない。スロープだ。
そしていまも狼っぽい魔物がそこを駆け上がって接近していた。
「…………うん」
ちょっと考えてから、『夜魔デイウォーカー』からの『眷族召喚』でクレセントウルフとブラッドサーバントを大量召喚。
『血装』と『ザハーカの骸装』、『支配者の加護授与』という固定パターンになりつつある対応を取る。
相手が物量で来るなら、こちらも物量で攻めればいいのだ。
見られて困る存在もいないしね。
やがて狭いスロープ内で激しい衝突が始まる。
クレセントウルフはそのままスロープで衝突させておき、形に自由の利くブラッドサーバントはスロープの支柱を伝って下を目指させる。
しばらくは均衡状態が続いたけれど、ブラッドサーバントが下に着いたらしいタイミングで膠着状態が崩れ、スロープにいる合成魔物は駆逐することができた。
スロープの血泥をマジックポーチに回収しつつ、下に移動。
下は下で激戦が続いていた。
種々様々な合成魔物が行く手を遮り、襲い掛かってくる。
スロープを降りてすぐの広間は制圧済みだけれど、そこから奥に続く通路がまた狭くなっているので均衡状態のようになっている。
「よし」
自分に『ダハーカの骸装』をかけて前に出る。
武器は竜骨剣。
大剣を振り回すぐらいのスペースはある。
『血装』と『ダハーカの骸装』による二重の武装強化で鎧とかがなくても全身鎧を着けているみたいな状態になった。
前に確認した感じとか、すぐ側にいるブラッドサーバントとかを見る限り、すごく邪悪な感じになってそう。
まぁでも誰も見ていないからよし!
というわけで突き進む。
合成された魔物と言えばキメラとかキマイラとかが有名なのだけれど、そういうのは出てこなかった。
ただ、オーガかな? っていう肉体に山羊やら狼やらの頭が三つ付けられたみたいなのがいたり、両腕が蛇になっているのがいたり、下半身が多数の狼だったり、巨大サソリだったりと……とにかくなにか混ざっている合成魔物が次々と姿を見せる。
人型に似た部分はオーガだけじゃなくてオークっぽかったり、ゴブリンっぽかったりした。
見た目のインパクトは凄いんだけど、動きの統率が取れていなくて強さはいまいちだった。
強さで言えばロックガリアが一番強かったかもしれない。
とにかくそういうのを山ほど倒しながら通路を突き進んでいくと広い空間に出た。
同時に、合成魔物もついに尽きたようで、姿がなくなった。
「はぁ、やっとか」
その広い空間は、なんか怪しげな青い光に満ちていた。
奥にプールのような場所があり、そこになにかの溶液が満ちていて、それが光り、天井や壁を反射して間接照明となっている。
プールの奥には奇妙なオブジェのようなものがある。
なんか生物的なエグさを集約させたような、邪神像のような、そんな気味悪さがある。
「なんだこれ?」
『合成魔物工場:とある錬金術師が完成させた合成魔物技術の施設。培養液がある限り設定された合成魔物を作り続ける。なにそれ怖い』
セリフを取るのやめてくれませんか?
ええと……ということは、あの青い溶液? 培養液があるかぎり、合成魔物がどんどん作られていくってこと?
錬金術師はどうしたんだ?
生活感がないからここにはいない?
死んだ?
「とりあえず、この培養液は没収しとこう」
樽に入れる?
でも触りたくないなぁ。
マジックポーチを何個か出して、その中に分けて入れておく。
五個犠牲にして、全部を入れることに成功した。
培養液はプールの半分ぐらいになっていた。
いつから放置されていたのか知らないけど、放っておくとまだまだ数が増えていたわけか。
これでもう増えなければいいんだけど。
壊しておくにしても、なんか大変だし。
ソウラにこういう場所があったっていう報告はしておこう。
とりあえず、隠し通路とかがないかを探しておこう。
これだけで終わりってことはないよね?
プールの周辺を探っているとオブジェの背後にドアがあった。
中に入ると歯車があちこちで静かに回転するスチームパンク的なメカメカしさのある空間となっていた。
どうやらオブジェを裏側から見ることのできるようなので、たぶんここでメンテナンスしたりするんだろう。
天井部分に大きなガラスの球とプールに繋がっているだろう管があった。
球の中にはぐずぐずの肉片のようなものが底に溜まっていた。
もしかしたら、俺が培養液を抜いたせいで命として完成できなかったのかもしれない。
見ていて気持ちの良いものでもないので次を探す。
さらに奥に部屋があった。
鍵がかかっていたが、しばらく考えて一瞬だけ『制御』を解除して引っ張ってみた。
強引なオープンセサミに成功して中に入る。
大量の紙片とか木片とかが積み上がり崩れていた。
中央に机があり、紙片と木片の山はそこを中心に興亡の歴史を紡いでいたようだ。
「ここの主人の部屋……だよね?」
むしろ、そうじゃない可能性があるのかと問いたくなる。
「なんか、いろいろ造ってたみたいだけど」
紙片や木片に書かれているのは研究成果の記録だったり、新しい試みについてのメモだったりするみたいだ。
……正直、専門的過ぎてよくわからない。
机から零れ出さない場所に積み上げられた紙片の束は日記みたいだ。
本として装丁するどころか穴をあけてひもを通す暇すら惜しかったような人物だが、日記だけはちゃんと書いていたらしい。
流し読みだけれど、十年以上ここにいて合成魔物について研究とこの施設の開発を一人でこなし、ようやく完成したみたいなことが書いてある。
最後の記述が「もっと素材を集めなければ」だったので、たぶんだけれどそのまま死んだのではないかと思う。
なぜなら、机にはしっかりと埃の層ができていたから。
「何かの役に立つかな?」
ここをこのままにしておくのもなんか怖いし、紙片や木片の類は全部『ゲーム』に収納しておくことにした。
その他にもなにか意味がありそうなものは全部もらっておく。
「よし、帰るか」
すっからかんになった空間を確かめて、俺はこの場を去った。
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