141 よし歌おう


††錬金術師の日記(抜粋)††


・一枚目

 ようやく場所を確保できた。

 魔物を利用した生物兵器が完成すれば魔境の開発だって簡単だというのに。

 己の力しか理解できない蛮人どもめ。

 いずれ、私の考えが正しかったことを証明してみせよう。


・七十二枚目

 研究所が完成した。

 掘削や建設用の合成魔物の量産で用意していた合成触媒用の霊薬が尽きてしまった。

 すぐにでも生産に入らねば。


・百三十八枚目

 研究が行き詰った。

 合成するだけならいいのだが、それで強くなったかというと微妙だ。

 強いものを付けるだけではだめだ。もっと兵器としての均衡を保たなくては。

 しかし、どうやって?


・二百三十五枚目

 素晴らしい。

 竜が完成した。生命の完成形として竜を追い求めてこんなわずかな日数でここまで到達するとは。

 やはり私は天才か。


・二百三十七枚目

 くそっ!

 くそっ!

 くそっ!

 あの半端なゴミめ!

 失敗作め!

 まさかこんなにも簡単に限界が訪れるとは!

 霊薬の限界か?

 魔力の絶対量が個体を維持するのに足りなかったのか?

 だが、こんなことで止まるものか。

 まずはあの死体を回収して調査しなくては。


・三百十三枚目

 足りない。

 なにもかもが足りない。

 どの合成魔物もこちらの想定以上に早く寿命を迎える。

 なにが足りない?

 なにが足りないんだ?


・四百八十八枚目 最後

 素材が足りない。

 集めに行かなければ。

 狩猟用の合成魔物だけでは足りない。

 もっと強力ななにかを探しに行こう。



†††††



《特殊アイテム、および、データを手に入れました》

《建設中の魔導工房のランクがアップします》


「また何か起きたみたいだ」


 ツリーハウスで一泊中。

 あの研究所で手に入れたいろいろだけれど、『ゲーム』の中に入れてからいま確認したらこんなログが流れた。

 手に入れたものがどこにもなくなっていたので、魔導工房のランクアップとやらのためのクエストアイテム化して消費されてしまったみたいだ。

 ちゃんと読んでいればザルム武装国に襲ってきていた合成魔物とかの秘密を知ることとかできたかもしれないんだけどな。

 なんか、ナディの変化とかも関わっていそうだったし。

 まぁでも、わからなくなったんならそれでもいいか。


 というわけで『ゲーム』を起動してだらだらとプレイ中。

 建設中の魔導工房の周りにフェフたちエルフ三人娘がいて、じっと見ている。

 自キャラを近くに移動させても反応はしてくれない。

 こちらの望む通りの展開になってくれたらいいんだけど。

 フェフたちからの興奮した様子の手紙に返信して『ゲーム』終了。


 うあぁぁとだらだらしつつステータス確認。

 たくさん戦ったからね。


 まず『眷族召喚+1』が+2に。

『剣術補正+7』が+8に。

『人さらい+1』が+2に……うれしくなーい。

『瞬脚』が+1に……どれか、使っていたか?


 あと、『眷族召喚+2』で召喚できる対象にケイオスアイズとかいうのが増えた。

 試しに召喚してみると黒いケセランパサランの真ん中に目が一つあって、さらに蝙蝠の翼みたいなのが生えている。

 半分エネルギーみたいにあやふやな感じだ。

 大きさはある程度いじれて、手のひらサイズから熊ぐらいまで。

 戦わせたら強いのかな?

 なんか見た目偵察用って感じだけど。


 しかし……早めに用が済んでしまった。

 商業ギルドもこんなに早く戻っても鉄は集められていないだろうし。

 このままここで魔導工房ができるまでだらだらしようかな?

 そうしよう。

 ちょっとバタバタしすぎたからね。

 ここでちょっとだらだらしよう。


 それから数日。

 近隣の木々を伐採したり、将軍の大弓を使って狩りをしたりとゆっくりとした時間を過ごした。

 その間にいろいろと考えた。

 主にはこれからどうするか、ということだ。

 今回のことでお金がかなりなくなるから、もう一度集めないといけない。

 それ自体は別にいい。

 お酒や食料品なんかのお金儲けの手段がなくなったわけではないから、それを繰り返していけばまた溜まる。

 なにもなかったあの頃とは違うので、財布が空になることは恐怖ではない。

 ただ、もう冒険者はいいかなって、少し前に考えていたこともある。

 正直戦い過ぎている。

 無双ゲー並みに戦っている。

 戦闘に飽きたとしても仕方がないじゃないかと言いたくなる。


 いまも木の陰に隠れて獲物が来るのをじっと待つみたいなことをしているけれど、その待つっていうやり方が新鮮すぎて、ちょっと楽しかったりしている。

 釣りとか、前の人生だとしたことがなかったけど、いまならハマれるかな?

『ゲーム』の釣りは成功が約束されてるからなんか違うだろうし。

 いまやってる狩りも、一日待っていて一匹も近づいてこないみたいなことがある。

 獣の足跡を見つけ、行動半径だと目星をつけてから木の上や藪の中でじっと待って、でも目論見通りにいかなくて一日ぼうっとするだけで過ぎてしまう。

 なんだろう、この無為に過ぎる時間がひどく貴重に感じられる。

 うん、あれだね。

 これ、絶対に疲れてるね。

 考えるのは止め止め、狩りもどうでもいいや。

 よし歌おう。

「時の過ぎゆくままに」とかいいよね。



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