132 なにかを撃った
なにかいた。
空から視線を感じたので反射で撃った。
『光弾』は文字通りに光の速さで飛ぶので……たぶん……撃つと意識した瞬間に目当ての場所に突き刺さるので光の速さだと思う。知らんけど。
その代わり魔法そのものに命中補正がない。
遠くの、しかも動く標的を狙うんだったら『火矢』とか『水弾』とかの方が命中補正が利いている気がする。
『射撃補正+3』が活きているのもあって今回はちゃんと当たった。
そのまま落下していくなにかを見て、まぁいいかと放っておく。
戦果は上々だ。
魔物軍の後ろ半分は壊滅状態だ。
生き残りはみんな逃げている。
城壁に張り付いた前線部隊は後方の異常に気付いていないのか。いまだに戦闘中。
戦闘で興奮状態になってるのかな?
キングっぽいのがいなかったから、きっとあの周りにいるのかも。
もしかしたら、キングの特殊能力が関係していたりして。
「さてと……回収!」
クレセントウルフはともかくブラッドサーバントは魔物が血泥化するごとに増えるようになっていたから最後は凄いことになっていた。
さすがにこの量はマジックポーチに収めていられない。他に使えなくなる。ので、常備用だけそっちに入れて残りは『ゲーム』の方に入れる。
世界樹用の肥料になるから無駄にはならないのだ。
「よし、じゃあ前線に戻るか」
と、呟いてから前線の定義について考えてみたくなった。
さっきまで俺が戦っていたんだから、ここも前線だよな?
「まぁ、いいか」
深く考えても仕方がない。
向かおう。
ザルムの城壁を見上げるぐらいの距離に来て魔物に後ろから襲い掛かる。『夜魔デイウォーカー』は一応切っておく。
使ってると『血装』に頼りたくなるしね。
周りの魔物が血泥化していく様は、きっとホラーだ。
たまねぎメイスでぼっこぼっこと叩いていく。
後ろからの攻撃に驚いて魔物……オーガが多い……魔物が振り返って迎撃しようとするが、それよりも早く叩いていく。
そのまま突き抜けて壁の前に辿り着くと、そこで激しい一騎打ちが演じられていた。
鋼の乙女……じゃなくてザルム武装国女王ソウラとデカいオーガとの戦いだ。
『オーガキング:猪突猛進とは我のためにある言葉! 王だよね?』
オーガキングはモンスターをハンターするゲームに出てきそうな巨大生物の骨から削り出したみたいな大剣をぶんぶん振り回している。
対するソウラは武闘大会の時と同じハルバードに例の光を纏わせている。
切断力の高そうなあの光と撃ち合っても大剣には傷一つついていない。
かなり強そうだ。
気になるなぁ、なんだろう?
『合成竜骨製大剣:特殊進化魔物によって作られた合成獣の骨を使った大剣。再現不能』
お。
なんだかまじめな鑑定結果に驚いた。
でも、再現不能かぁ。
『ゲーム』でクラフトすればあれ以上の武器はあるんだけど。
出自がはっきりしない武器はなぁ。
たまねぎ装備ぐらいの性能なら、どこかで手に入りそうって感じにはなると思うんだけど。
……もちろん、一式装備時の特殊スキルは例外。
まぁでも、ちょっと欲しいなぁぐらいか。
そもそも、ここで叡智の宝玉を手に入れてフェフたちと再会できるようになったら、以後はそんなに冒険する気もないし。
酒と野菜と果物を売ってるだけで十分に生活できる。
最初は若いころの夢を~~みたいな感じで冒険者稼業を頑張っていたけど、なんかちょっと満足した感があるんだよな。
フェフたちとどっか地に足を着けて暮らそう。
家とか建てて。
うん、それいいかも。
……なんて考えている間も俺のメイスは動いていたわけだけど。
おかげで空白地帯みたいに周りから魔物がいなくなってしまった。
あっ、ソウラと目が合った。
オーガキングが動きを止めた。
で、振り返って、俺を見た。
「ぐう……なんだオマエは?」
あ、人語を喋った。
「っ⁉ ナンダコレは⁉」
あ、軍が崩壊してることに気付いたな。
そしてまた俺を見る。
「オマエ! なにをシタ!」
俺がなにかしたって確信してる様子で聞いてきた。
なんでわかる?
「グウッ、おのれよくも!」
うわっ、完全に振り返って襲いかかって来た。
そんな。背中を見せたらソウラに襲われるんじゃ?
あれ? なにもしない?
俺にどうにかしろってこと?
それじゃあ、遠慮なく。
オーガキングの大剣を盾で受け止める。
うわ、一発でへこんだ。
それだけ威力があるってことだろうけど、やっぱりこの装備、耐久力はいまいちだなぁ。
まぁでも、この一発で終わるけど。
そのまま間合いに踏み込んで、メイスでオーガキングの胸を打つ。
ボンッと背中を貫通して大穴が開いた。
「ガハッ!」
そしてそのまま、倒れる。
『夜魔デイウォーカー』を使えてたらスキルを取れたんだけどなぁと思いつつ、奴が手放した大剣を拾った。
で、ソウラを見る。
「これ、俺がもらってもいいですかね?」
一応、確認。
ソウラは黙ってうなずいた。
よし、了承ゲット。
ありがたくいただくことにする。
「勝利だ!」
ソウラが宣言する。
気が付くと周りの魔物が逃げ出していた。
応える兵士たちの歓声が地を揺らした。
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