131 オーガキング
††ソウラ††
バッシュと一部の冒険者を飛行魔物へと差し向けた後、ソウラは引き連れてきた兵士たちと共に崩れた城壁の前で防衛戦を続けていた。
兜を外したことで露になった美貌に魔物たちの血霧がかかる。
それさえも美しく、その場は生々しく凄惨な戦場でありながら、まるで吟遊詩人の物語の中にあるようだった。
「みな、臆するな。我らには勝利以外にはない!」
その声が響けば兵士や冒険者たちは「おう!」と応える。
彼女の周りにいる者たちも、ソウラの戦いぶりに触発されて奮戦している。
押し寄せてくる魔物はオーガが多い。
魔物国家は興亡が激しい。
ここでの戦いで敗北すれば、次の日には反乱が起こって王が切り替わるということはよくあることだ。
「陛下! なにかが接近して!」
報告は途中で発生した轟音によってかき消された。
放たれた衝撃波が土煙を巻き込んで駆け抜けていく。
周りにいた兵士や冒険者たちがそれに呑まれて引きはがされた。
土煙に遮断された視界に巨大な影が映し出されたのは、それからすぐだ。
「ミツケタゾ、女王!」
「お前……」
やや拙い人語を吐き出した巨体に、ソウラは目を細めた。
「確か前はジェネラルだったのではなかったか?」
「ソウダ!」
「なるほど」
前よりも圧力が増している。
おそらくは、このオーガが今の魔物国家の王だ。
「前回は付けられなかった決着を、今度こそ付けてやる!」
「役割で強さが変わる。そんな薄っぺらなものでこの私を超えられると思うな」
ソウラはハルバードを構え、オーガキングを迎え撃った。
†††††
しまった。
突っ込み過ぎてしまった。
押し寄せてくる魔物たちをメイスで殴り潰しながら考える。
これからどうするべきか?
足を止めてしまったせいで完全に包囲されているのだが、今のところ苦労はしていない。
引き返す?
ちょっと、かっこ悪い気がする。
なら、このまま突き抜ける?
できるだろうけど、帰るのに時間がかかりそう。
そもそも、目的は魔物の群れを街から追い返すことなのだから、離れすぎたのがそもそも失敗だ。
「やっぱりこのまま帰るか……はっ!」
と、呟いたところで気が付いた。
いまなら誰も見ていない。
「魔物のスキル、取り放題じゃないか?」
うん、できるよね。
そうと決まれば話は早い。
『夜魔デイウォーカー』に『眷族召喚』でクレセントウルフとブラッドサーバントを大量召喚。
そして『血装』に『ダハーカの骸装』に『支配者の加護授与』
黒くて赤い邪悪な装甲を身にまとったクレセントウルフとブラッドサーバントの突然の出現に、魔物の群れに動揺が走る。
その動揺を切り裂くがごとく、クレセントウルフとブラッドサーバントが暴れる。
ここの魔物の主は配下を強化するということはしないようだ。
だとしたらキングはいないのかな?
いやでも魔物国家だしなぁ。
これでも強化されてたり?
見た目まで変化するのはハイプリーストだったか。
なら、そっちがいないってことかな?
考えている間に魔物は血装で強化された牙や爪の餌食になり、血泥へと変わっていく。
血泥はそのままブラッドサーバントに仲間入り、地獄は拡大していく。
自分がやってることながら、えぐいなぁ。
ほんと、他人には見せられないね。
「ん?」
なんかステータスに変化があった。
確認してみると『夜魔デイウォーカー』が+1になってる。
おお、これも成長するのか。
よしよし、それじゃあ……ザルム武装国の兵士は街の側から離れていないみたいだし、それ以外をどんどん倒していこう。
††アカハネ††
なんだ?
なんだなんだなんだ⁉
なにが起こっている?
魔物軍の後方がナニカによって崩壊させられている。
魔物ではない?
魔法生物か?
知性を与えてくれたあの脳にあった知識は穴だらけではっきりしない。腐っていたからだ。
しかしそれでも、絞り出すように出てきた単語の中に「血の化け物」「吸血鬼」という言葉があった。
「吸血鬼だと?」
アカハネは馬鹿なと吐き捨てる。
吸血鬼は特殊な魔物だし、強力だと知ってはいるが、あんな魔法生物を大量発生するようなものではない。
せいぜい狼や蝙蝠などの数匹使役できる程度のはずだ。
なんだ?
もっと他にちゃんとした答えがあるはずなのに、その部分に穴がある。
「ええい!」
苛立ちを吐くアカハネは、空に在って全体を観察していた。
だからこそ魔物軍に訪れた突然の大惨事の現状がよく見えている。
ザルム武装国の周辺はひらけているとはいえ限度がある。魔物軍の大半は森の中にあって、攻撃に参加できていない状態だった。
とはいえそれは異常なことではない。
魔物軍の攻め方は基本、力尽きるまで力押しだ。今回は城壁の崩れた部分への一点突破という方針があったため、渋滞というか順番待ちで動いていない魔物たちが多く森の中にいた。
その魔物たちの中で戦いが起こり、そしてある瞬間で赤黒い異形たちによる増殖が始まったのだ。
異常を感じてから一時間ほどだろうか。
すでに森で待機していた魔物軍のほとんどがその異形へとすり替わり、残りの魔物は逃げ出そうとしている。
どうしてだ?
どうしてこうなっている。
オーガキングを煽ってザルム武装国へ攻め入り、混乱に乗じて賢そうな人間の脳を喰らって知識を貯めこもうと思っていたのに。
単独でも襲えるような人間は弱く、たいした知識を持っていない。
アカハネをアカハネ足らしめたような強力な体験をしたければ、強くより賢い人間の脳を喰わねば。
だが、そんな者たちはなかなか隙を見せない。
だからこそ……こんなことをしたというのに。
「なんだ? 誰だ? ナニがこんなことを?」
本当に吸血鬼の仕業なのか?
だとしたら、ただの吸血鬼ではないということか?
魔物たちが集団となったときに役職持ちを発生させるように、この吸血鬼も役職持ちなのか?
だとしたら……。
「アレを喰らえば、素晴らしい体験ができるのでは⁉」
アカハネが、ヒエマから進化したときの体験は本当に激烈なものだった。
五感の中央にある本能しかなかった思考部分が急速に拡大し、そこに大量の情報が押し込められていく。
唐突な脳細胞の増殖と思考領域の拡大は大量の脳内麻薬の放出と共に行われた。
つまりは、ハイになった。
知識を得るというよりも、むしろその体験を再現したくて強力な存在の脳を狙っている節がある。
だからこそ、体験を予感させる存在の出現に興奮した。
「ははは! すごい! ははは! そうだ!」
何者かを確認しなければ!
今は勝つことができなくとも、見つけ出し、必ずや後に……。
増殖する異形の中心地へと趣き、ソレを確認する。
中心にいたのは、どこか鈍重な雰囲気のある鎧姿だった。
大小の球体を重ねたような不格好さ。
だが、その表面には赤黒いものが覆われ、異形たちと同類であることを示している。
オーガキングよりも小さい。
だが、その存在感は数倍だ。
アレを倒すのは、なかなか骨が折れるかも……。
?
なにか、光が……。
そう感じた瞬間、アカハネは巨大な矢に貫かれた。
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