133 戦後


 女王の勝利宣言で兵士たちの歓声が湧き上がる。

 そして、戦っていなかった人々が倒れた魔物たちに群がっていく。

 片付け……でもあるんだろうけれど、なにかといえば解体。

 そう、その場で無数の職人たちによって魔物が解体されていく。

 肉、骨、皮、内臓。

 魔物にいらないところは……まぁあるんだろうけどそれよりも使えるところが多いのだろうね。

 たくましいなぁ。


 なんだかんだで王国は平和なんだなって思う。

 治安レベルが違う?

 こちらは危険なことが多い分、人々はたくましい。

 魔物の襲撃を退けた安堵よりも、戦果をどう捌くかを真っ先に考える。

 それが国単位での当たり前の動きになってる。


「ああくそっ、女王様の戦いを見逃した」


 一応、請われて魔物の処理をしている人たちの護衛として残っているとバッシュがやってきてそう言った。

 で、話しかけているのは俺ではない。


「オーガキングを倒したんだろう?」

「いいや、倒したのはそこの……たまねぎ殿だ」


 なぜか一緒に残っていたソウラが言い、バッシュが目を丸くする。


「はっ? 良いところは見逃したが、あれはお前さんのところに向かってただろう?」


 バッシュ、呼び方が定まらないな。

 冒険者だからというのもあるだろうけれど、彼女に対しての距離感がきまっていないからなのかな?

 でも、女王だとわかっていてそんな言葉を使うということは、それなりに仲良くはなっていたってことか。

 まぁ、口説くために勝ちたいって言ってるぐらいだしなぁ。


「あのオーガキング、途中で私を無視してたまねぎ殿に向かっていった。そしてたまねぎ殿が勝った」

「……マジかよ」


 ソウラが淡々と事実を述べ、そしてバッシュが驚嘆している。

 そして俺は全身鎧なのをいいことに彼らに背中を向けて聞いていないふりをしている。

 していたのに……。


「おい、どういうことだよ!」


 後ろから、バッシュが腕を回して絡んできた。


「なにが?」

「オーガキングをお前が倒したのか? ていうか、あれが戦いの途中で標的を変えたのか?」

「……まぁ?」

「はぁ……」


 なんでか、ため息を吐かれた。


「え? なに? なんなの?」

「なんでわかってないんだよ」


 と、バッシュが天を仰ぐ。


「オーガキング……魔物国家の王が、一騎打ちの途中で戦う相手を変える? それはつまり、今の敵が自分と同格じゃないって判断したからだ。お前を王だって思ったから、お前に襲い掛かったってことだぞ」


 さすがの爆弾発言にバッシュの声も低い。


「はっ? なにを言っているのかな?」


 そして俺は事態を理解したくなかったので、思考能力を殺すことにした。

 そんなことを言われてもわかりません。

 私は鈍感主人公……いやさ鈍感おっさんです。

 後ろの女性がオクの里のアマゾネスな人たちの子孫だなんて可能性は知りません。

 あのオーガキングは背後に人間がいたからびっくりして襲い掛かっただけです。

 それだけです。


「おーまーえー」


 なんだか、バッシュが恨めし気な声でぐりぐりしてくる。

 やめて、この装備壊れやすいんだから。

 金等級の拳ぐりぐりは危険な気がする。


「俺が、ソウラに気があるのを知っていて、この仕打ちか!」

「俺はただ叡智の宝玉が欲しいだけ!」


 ああ、そういえば武闘大会はどうなるんだろ?

 後は決勝だけ、だよね?

 俺はバッシュに勝ったし、ソウラと戦っていたナディは化け物になって死んだ。

 だから後は決勝だけなんだけど……するのかな?

 このまま戦後処理でうやむやになったりする?

 なんかありそうだなぁ、俺って運だけは育たなかったし。


「うおお! なんでだ! なんでだ!」


 バッシュが吠えている。

 だけど聞きたくないので聞かないふり。

 あ、そういえばステータスのチェックをしていなかった。

 オーガキングからはスキルを取り損ねたけど、魔物軍を蹂躙したからね。

 スキルはそれなりに育ったし、それなりに手に入った。


 まずはええと……『強化・狂』

 これはなんと、手に入っていく内に進化したスキル。

 進化元は『剛腕』『俊足』『頑強』『魔功』を手に入れた段階で、それらが統合してこうなった。

 うん、またステータス強化系なんだ。

 黄金サクランボを食べなくなったらスキルの方が俺のステータスを上げていくって。いくって!

 黄金サクランボだろうが、スキルだろうが……獲得していく内に強くなるのは当たり前なんだし、ステータスが上がるのがわかりやすいってのもわかるしね。

 わかってるけどね!

 レベルを上げて物理で殴るだよね!


 次に『覇気』

 なんだけど、これも『咆哮』を手に入れた時にすでに持ってる『威圧+4』と『眼光』と勝手に合体した。

 合体回か?


 後は、たぶんシャーマン系の魔物を倒したときに手に入れたんだと思うけど、『精霊感覚』

 意識して使うと精霊の存在を感じられるようになった。

 で、これは属性系の魔法のときに補正効果がある感じかな?

 後、使われた時の抵抗値的なのにも同様の効果があるっぽい。


 他にはあちこちのスキルが+になった。

『戦棍補正』なんて一気に+3になったよ。

 ずっとメイスを使ってたからね。


 そんな風に現実逃避している間に解体現場の護衛の仕事は終わりを告げられ、俺は街に戻った。


「待てよ! まだ話は終わってねぇ」


 後ろでバッシュがなにか言ってるけど、知らない。知―らないっと。





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