118 予選の結果


 目立ったものは仕方ない。

 派手なことをしたせいで他の連中はこちらに来たり、逆に距離を取ろうとしたりする。

 とりあえず近づいてきた奴をメイスで叩く。

 なるべく足を狙って払う感じでいく。そうすれば転げて失格になるからね。

 無益な殺生がしたいわけじゃないし、これですぐに倒れるようなのはまだいい。

 ただ、耐えたり避けたりするのは強いから、骨を折るぐらいの勢いに変える。

 大体は足をメイスで叩かれたら痛いからそこで倒れてくれる。


「うおー!! たまねぎー!!」

「たまねぎつよーい!」

「「「「たーまねぎー! たーまねぎー!」」」」


 ……なんか、すごい歓声が付いて回るようになってしまった。

 ほんとに、なんでこんなことに?

 できてしまう自分が怖いとかうぬぼれている場合じゃない。

 それとももっと本気で開き直る?


「それならもっと派手な鎧にすればよかった」


『ゲーム』の中にはそういう鎧がいっぱいあったのに。

 なんて思いながら、実際にはそんなことはできないってこともわかっている。

 チートに素で調子の乗れる性格だったらもっと早くにそうなってるって。


「でも、どっかでバランスを取らないと」


 俺自身の性分と結果の乖離にうんうん唸りながらメイスを振っていく。

 贅沢な悩みだけどね。

 そんなことをしている間に残っている者たちが俺から逃げるようになってしまった。

 逃げるんなら放っておこう。

 最後まで立ってればいいんだから。

 そんなわけで後半はぼーっとしてただけになったけど、本戦に出場する十四人の一人になることができた。


「さあ、ついに十四人の勇士が決まった! 明日の本戦で是非とも勇戦していただきたい!」


 司会が開会とは違って興奮した感じで言葉を放ち、予選は終わった。

『装備一括変更』を使って物陰に隠れた瞬間に早着替えして闘技場を出る。


「は~やれやれ」


 まったくどうしてこんなことになっているのかって……。

 おっと。

 ささっとまた物陰に隠れる。

 闘技場から出てきた一人の人物が視界に入ったからだ。

 予選を勝ち抜いた一人でもある。

 白い仮面をつけたエルフ。

 間違いなくナディだ。

 ピリピリした雰囲気のナディが通り過ぎるのを待ち、改めてほっと息を吐く。


「ああでも、もしかしたらどこかでぶつかることになるのかな?」


 彼女が途中で負ければいいのに。

 そんなことを思いながら宿に戻った。


「お前、たまねぎだろ」


 宿に戻ると部屋にバシフィールが訪ねて来て、いきなりそんなことを言った。


「な、ななな……なんのことかなぁ?」

「うわぁ……なんだそのど下手な誤魔化しは?」

「いやいやいや、俺が武闘大会に出るような人間に見えるかい?」

「態度はそう見えないんだが、お前さんは妙に強そうなんだよな」

「ええ……なにその評価?」

「その変な感じがあのたまねぎにもした。だからだ。当たりだろ?」


 ニヤニヤ笑いのバシフィールに俺は唸るしかできない。


「まっ、知ったからどうしようってこともないから心配すんな」

「は?」


 なら、なんのためにわざわざ?


「だが、お前も大会に出てんだから、前に言われた賞品の件はなしな」

「はぁ!?」

「欲しけりゃ、勝ちぬけばいいだけの話だろ? 簡単だ」


 簡単だと思っていないから交渉したんだけどね!

 ていうか、どうしようってこともないって、すでに嘘になってるんだけど、わかってるのか?


「へへ、熱い試合をしようぜ!」


 あ、だめだこれ、こいつ戦闘狂だ。

 バトルジャンキーだ。

 それが青春だと思ってる奴の態度だ。

 うわぁ、やだなぁ。


「楽しみだ。まったく楽しみだ。あっ」

「……なんだ?」

「俺のことは、バッシュと呼んでいいぜ!」


 去り際にバシフィール……バッシュは親指を立ててそう言った。

 仲間と思われた?

 ええ……と。


 まぁ、もういいか。


 そんなこんなで次の日。

 本戦は二日に分けて行われる。

 最終日に準決勝と決勝を行うので、今日はそれ以外……一回戦と二回戦を行う。

 広い闘技場に縄を張って四つに分けてそれぞれで試合が行われる。

 今日は、一回戦を二回に分け、その後に二回戦が行われる。

 この一回戦からバッシュと鋼の乙女も参加する。


「「「「うおおおおお鋼の乙女ぇぇぇぇぇぇぇ!!」」」」

「「「「バシフィールゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」」」」


 闘技場に入った二人に凄い歓声が飛んでいく。

 やっぱりすごい人気だ。

 なんて他人事に思っていると……。


「「たーまねぎー! たーまねぎー!」


 声援があった。

 なんか声が若いと思ったら、子供たちが一か所に集まって応援してくれている。

 あれってもしかして、昨日の子供がいたりする?


 ……照れる。

 とりあえず、メイスを振って応えておいた。




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