116 たまねぎ
††通りすがりの男の子††
今日は武闘大会の初日!
街中はお祭り状態。
そこら中に屋台があっておいしそうな匂いで一杯になっている。
でも、それよりもうれしいのは、武闘大会の行われる闘技場に入れること!
父さんが闘技場の入場券を手に入れてくれたんだ!
すごい嬉しい!
やっぱり今回も鋼の乙女が優勝するのかな?
他にも強い人が出て来たりするのかな?
楽しみだなぁ。
って、うわっ!
闘技場に入ろうとしてたらすごい人がたくさんいて、押し出されちゃった!
父さんともはぐれちゃったし、どうしよう。
「おい、ガキ!」
え?
「お前のせいで俺の鎧が汚れちまったじゃねぇか!?」
振り返ると鎧を着た大人の人が怒っている。
その人の手の中でクレムが潰れて、胸の辺りが具とソースでぐちゃぐちゃになってる。
え? え?
「クソガキが!」
あ、殴られる。
そう思って目を閉じた。
だけど、いつまで待っても痛いのは来なかった。
「ぐっ」
代わりに、苦しそうな声が上でして、こわごわと目を開けると、すぐ上に拳があって、それを誰かの手が止めていた。
「お前!」
「子供に手を挙げるのは感心しない」
変な声だった。
バケツの中で喋ったみたいな声。
止めてくれた人を見て、僕は目を丸くした。
まん丸い、鉄の塊みたいな人がいた。
お腹が大きく膨らんだ鎧を着ていて、さらに頭を守る兜まで丸い。
ちっちゃいころに作った泥人形みたいな……あ、あれに似てるかも。
たまねぎ。
そう思った。
「放せ!」
「こんな人の多いところでそんなものを食べている方が悪い。違うか?」
「ちっ、わかったよ!」
大人の人は怖い顔のまま腕を振り、どこかに行く。
あ、あっちって闘技場の選手の人が入る場所じゃなかったっけ?
「覚えてろ」
少し離れてから、たまねぎの人にそう言った。
「大丈夫か?」
「……うん」
「そうか。家族の人とは合流できるか?」
「うん! ここに入るから」
「そうか」
そんなことをしていると、お父さんが僕を見つけてくれた。
お父さんにお礼を言われてちょっとぎくしゃくしているたまねぎの人が面白くて、僕はすっかりこの人が好きになってしまった。
「あなたも出場なされるのですか?」
「ええ」
「がんばってね! 僕、応援するよ!」
僕がそう言うと、たまねぎの人は変な動きをした。
もしかして照れたのかな?
面白くて僕は笑った。
†††††
ふう。
これ大丈夫かな?
ちゃんと動けるか?
不安になってきたな。
鋼の乙女との交渉に失敗した俺は、諦めて武闘大会に出場するために登録手続きを行った。
とはいえ素顔を晒して戦うのは警戒することにした。
そこで思いついたのは鋼の乙女みたいに全身すっぽり隠してしまえばいいんだということ。
この前、武具を買い漁ったんだけど、その中で何か良いのなかったかなと見てみることにした。
なかったら『ゲーム』の中で作れる武具を使うんだけど……あっちって高品質すぎる気がするからなぁ。
どうせなら悪魔っぽい恰好で思いっきり悪役ムーブとか……だめだ演技力が付いてこない。
「おっ」
宿の部屋で買い込んだ武具を広げていると、ちょうどよさげなものを見つけた。
それがあの丸い鎧。
顔も体型も隠せるから、中身の想像なんてきっとできない。
これは使える。
だけど……これを買った時、俺は何を思ってこんなの買ったんだろう?
武具を買った時は、割とノリと勢いだったからなぁ。
まぁいいか。
今こうして使えているんだし。
『ゲーム』で全身を映せる鏡を出して確認する。
「うん、面白い」
例えるなら……他にもいろいろあるけれどドラグ●ー3みたいだ。
いや、それでもかっこよすぎるか。
雪だるまに手足が生えたみたいな感じ。
あ、偽名も考えないといけないか。
雪だるまでスノーにしよう。
そんな感じで準備が完了し、武闘大会への受付も済ませて当日になった。
「ふう、さて……」
助けた子供に別れを告げて、闘技場に入る。
受付の時にもらった木札を渡すと、番号の書かれたゼッケンみたいなのを付けさせられて、闘技場の中心へ向かえと言われる。
ゼッケンの番号は九九番。
すでに闘技場にはたくさんの人がいた。
観客席にも人がかなり入っている。
そこら中がざわざわとしていて落ち着かない。
なるべく目立たないようにと端っこの方で大人しくしていると、スピーカーの最初みたいな「ピーガー」音が聞こえた。
「あーあー」
観客席の一画が貴賓席みたいになっているのだけれど、そこに一人の男が立っている。
マイクのようなものを持っているので、おそらく声を放っているのは彼だろう。
拡声の魔法具とかだろうか?
「ええ……では、時間となったので武闘大会を始める」
男の声は闘技場に響き渡った。
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