110 事態は動く


 結局寝ないで宴会になった。

 ルフヘムで起きたことは喋らされてしまった。

 エルフと世界樹というか世界樹を生むダンジョンとの契約に関して二人はなにか難しい顔をしていた。

 もしかしてこの国にも似たような秘密があったりして。


 ……あったとしても関わらないようにしよう。


 眠らないまま東屋を出て、このまま宿に戻って寝ようと思いながら森を出たところで、子供たちと出会ってしまった。


「おっちゃんだ!」

「おっちゃん!」

「おっちゃん、今日もいいか!?」

「……いいよ」


 子供たちの期待でキラキラした目を無下にすることもできず、俺は夕方に約束して森に戻ると『樹霊クグノチ』の『植物操作』でツリーハウスを作り、そこで寝た。

 なんか、王都に戻るのが面倒になった。

 夕方に子供たちから薬草を買い、一緒に戻ると商業ギルドと冒険者ギルドを順番に回る。

 叡智の宝玉の情報を集めてもらっている件もあるので、そのことを報告してから小国家群に行くつもりだった。


「あ、アキオーンさん!」

「はい?」

「こっちこっち!」


 商業ギルドで次のお酒や果物やらを卸す時期の話をしてから来たので、冒険者ギルドは営業時間ギリギリになっていた。

 俺を見て慌てる受付嬢に引っ張られるままに奥の会議室に連れていかれる。


「どうしたんです?」

「これです」

「うん?」


 受付嬢がテーブルに置いたのは一枚の紙だった。


「小国家群の冒険者ギルドを通してこちらに回って来たんです。貼りだしてくれって」


 大き目の紙に書かれているのは絵付きのポスターのようだった。


「ええと……武闘大会?」


 開催国はザルム武装国?

 ……祖王たちから聞いた犯罪国家の後の国だ。

 タイムリーだなと思いつつポスターの情報を読み取っていると、ある部分で目が留まった。

 なるほど、受付嬢が慌てるわけだ。


『優勝賞品。叡智の宝玉(ダンジョンドロップ品)』


 と、あった。


「うわぁ……」


 ほんとタイムリー。


「なんだか、変な気がしませんか?」


 受付嬢……この人はポーションの時からなんとなく俺担当みたいな感じになってしまっている。

 名前はホリー。


 ホリーさんは怪訝な顔で続ける。


「各地の冒険者ギルドを通じて叡智の宝玉に関しての情報を集めていたんです。アキオーンさんからそれだけの予算をいただきましたから」

「うん」

「それでこの賞品ですよ。ザルム武装国の武闘大会は定期的に行われていますけど、叡智の宝玉なんて初めて見ました」


 そこまで言われると、俺だって悪い予感がする。


「それって……」

「アキオーンさんを呼び寄せているように思えません?」

「そ、そんな……俺なんて呼んでどうしようって……」

「それはわかりませんけど……」


 ホリーは言葉を濁すけれど、俺の方は心当たりがあったり。

 ルフヘムの件だ。

 叡智の宝玉を探している俺のことを調べてルフヘムにいたことを嗅ぎつけたとか?

 なんかそんな想像をしてしまう。

 でも、ルフヘムの真相が知りたいからってずっと持っていた宝物を放出するかな?

 あれ? 理由としては弱い?

 ていうか、それなら武闘大会の賞品にする理由もない?


「あれ? わからなくなってきたな」


 ホリーの雰囲気に呑まれて罠を疑っていたけど、だんだんと自分を罠にかける理由がないような気がしてきた。


「……とりあえず、行ってみるしかないかな」


 フェフたちともう一度会うためには、叡智の宝玉を手に入れた先に可能性を見出すしかないのだ。

 へたれているわけにはいかない。


「ありがとう。でも行ってみます」

「そうですか。気を付けてください」

「はい。……あ、そうだ。ポーションの買い取りっていまからでもできます?」

「明日にしてください」


 ニッコリ笑顔でそう言われてしまったので、王都でもう一泊。今日買い取った薬草分もポーションに変えて翌日に売ると、商業ギルドにも移動することを伝えてから出発した。

 偽装用の馬車をなくしてしまったので普通に徒歩で行く。

 馬にかわいそうなことをしたので反省。

 子供たちの前でも当たり前にマジックポーチを使ったし、襲われても跳ね返せるんだしと開き直ることにした。


 ブラッドサーバントを普通の馬のように見せる手段はあるだろうか?

 人気のないところで一度試してみたけど、赤兎馬もびっくりのデカくて赤くて邪悪そうな馬にしかならなかったのでやめた。


 早足気味の速度で一日かけて国境に辿り着き、小国家群に到着する。


「待っておったぞー!」


 検問を抜けたところでドワーフたちに捕まって商業ギルドに連れていかれてしまった。


「さあ、酒を……酒を売ってくぁwせdrftgyふじこlp」

「怖いですって」


 禁断症状みたいになって語尾がおかしい。


「酒~酒を~」


 周りの商業ギルドの職員やら職員じゃないのやらいろんなドワーフがぎらついた目で俺を見ているんですけど……。

 怖い怖い。

 俺って、普通のお酒しか売ってないよね?





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