102 魔境の秘境の桃源郷?
魔物の住まう原生林を魔境と呼ぶ人たちもいる。
原生林と呼ぶよりこっちの方がピンときそうだから今後は魔境と呼ぶことにしよう。
で、その魔境で暮らしている人間がいた。
いるもんなんだなぁ。
集落に連れていかれた俺は二人とは別の家に泊まるように言われた。
まぁ、男だからね。
仕方ない……と、思ってた。
お湯も用意してくれて体も拭けた。
なんだか良い匂いのする石鹸まで用意してくれて至れり尽くせりだ。
だけど、まぁ……もうちょっと考えるべきだったのかもしれない。
拾っただけの外部の者たちをいきなり分ける理由とか。
普通は一か所にまとめるよね。
それに、出会った集落の人たちが片方の性別だけだったのとか。
「あの……これってなにごとです?」
体を洗い終わってさあ寝ようかと思っていると、ノックの音がして、開けるといきなり女性たちがなだれこんできた。
その数、五人。
五人ともが薄い寝間着姿で、それになぜか、化粧をしている。
「なにって、男を女が歓待する手段なんて、そう多くはないだろう?」
女の一人は、俺たちと最初に接触した女性だった。
たぶん、この集落でもリーダー格の人物なんだろうと感じられる。
名前は……。
「ヒスさん? いや、でもだからっていきなりなのは……」
「お前もいい年した男だろう。経験の足りない若人のような態度は感心しないな」
「ええ……」
ぐいぐいと距離を詰められ、こっちがじりじりと下がればすぐにベッドにぶつかって座り込んでしまうことになった。
それでもヒスはさらに距離を詰めてくる。
ベッドの上に四つん這いで上がり、俺の上に乗る。
体を拭いたばかりだったんで、タオルを腰に巻いているだけだったんだけど、ヒスはニヤニヤとした笑みで俺の体を撫でる。
他の四人が俺を囲むように別々の方角からベッドに上がってくる。
「思ったより細いが、不思議な体だな。見た目以上の強靭さを感じる」
「は、ははは……あのう」
「覚悟を決めろ」
「ええ……」
無理やり逃げる……という方法は、採ろうと思えばできたかもしれない。
だけど、ヒスを相手にそれをするのは割と命がけになりそうな予感がした。
だから、まぁ……これはなんていうか……不可抗力?
そう、そんな感じなんだと思うことにしよう。
「この集落は男が少ないんだ。早く解放されたければ、頑張るんだな」
「おおふ……」
俺は覚悟を決めて、『孕ませ力向上+1』の封印を解いた。
王国には冬嫁という風習のある村が一定数存在する。
国境に近い村に多いそうなのだけれど、要は外部との移動や連絡が難しくなる冬の間、冒険者に魔物や害獣対策のために村にいてもらうために家と女性をあてがう、というものだ。
村は長期間冒険者を拘束するための報酬の大部分を女性という形で補い、冒険者の方も冬の間の仕事と生活の保証をまとめて得ることができるなどと利点が多い。
またある程度の熟練冒険者は引退後の生活を求めて積極的に冬嫁を利用するという話を聞いたこともある。
村の防御を担当する仕事なのでそれなりの熟練者が求められるので、これまでの俺にはお呼びではなかった依頼だ。
ていうか、口減らしのために村を追われたという経緯を持つ俺にとってはどうにも不快感のある依頼でもある。
なんでそんなことを思い出しているかというと、世の中にはけっこうそういう風俗が残っているんだよなと自分に言い聞かせるためだ。夜這いとか。盆踊りのざこ寝堂とか。
そういう風習なのだ。
だから俺は悪くない。
つまりこれは不倫じゃない。
フェフたちに報告する必要は……あるかもしれないけどきっと問題なし!
よし、自己弁護完了。
「ふ、ふふふふ……」
自己弁護が終わったところで、ベッドで寝ていたヒスが声を上げた。
ちらりと見ると、彼女が後ろから俺に抱き着いてきた。
だから、距離の詰められ方がなんかすごいんだけど。
「こんなにすごい男に出会ったのは初めてだ」
「ここに外から男の人って来るんです?」
「いや、来ない」
「ですよねー」
「来ないからたまにな、別の集落から攫ってくる」
「ですよねー!」
「心配するな。用が済めばちゃんと帰している」
それは安心していいことなんだろうか?
いいことなんだよな?
だってみんな帰りたいよね。
うん、俺も帰りたい。
楽しかったし気持ちよかったけど、これが毎晩はちょっと。
うん、ちょっと。
「それにしてもお前はたいした男だ。五人を相手にしてまさか打ち負かすとは……私が負けるとは思わなかったぞ」
『精力強化+1』が頑張ってくれたよ!
スキルの悲鳴を聞いたような気がするけどね!
「このままもう一戦……」
「え!?」
「と、いきたいところだが朝の仕事があるからな。ここまでだ」
「ほっ」
「お前……アキオーンはもう少し寝ていてもいいぞ」
「それは助かります」
そう言うと、ヒスは他の女性たちを起こして部屋を出ていった。
全員に「また今晩」って言われたんだけど、俺、ちゃんと生きて帰れるよね?
それから少し寝て、朝ごはんは三人一緒に食べた。
場所はイリアたちの寝ていた家のリビングのような場所。
朝からニンニクたっぷりの肉料理が出てきたんだけど。
パンみたいなものも出てきたけど、これは小麦以外の何かで作ってそうな感じだった。ほんのり甘くて美味しいのだけど、モサモサとした食感だ。
村をちらっと見たけれど、畑らしい畑はほとんどなかったので狩猟と採取で食事を賄っているのは確かみたいだ。
だとしたら、このパンみたいなのは木の実を粉にしたものなのかもしれない。
美味しいから何でもいいけど、肉も絶対に魔物だろうし。
「なんだか疲れていません?」
「ははは、いやぁちょっと」
イリアに尋ねられたけど、ごまかしておく。
「それより、寝る場所は別だったけど、そっちで問題は?」
「いえ、別に何も」
「そっか」
夜這いとかされたわけじゃないんだ。
いや、本当に見る限り女性ばかりだから逆はなかったんだろうけど。
「それにしても、こんな魔境の深くに人の集落があるなんてな。本当に人なのかな?」
「サマリナ様!」
「ははは、ごめんよ」
イリアに怒られてもサマリナは軽い。
そのまま楽しそうに話す二人の会話を聞きながら食事をしていると、ノックもなしに玄関のドアが開いた。
入って来たのはいかにも長老という感じのお婆さんだった。
「ふむ」
気難しそうなお婆さんはじろりと俺たちに視線を向けると、サマリナの前で止めた。
そのまま近づいていく。
「ええと……お世話になっております。ベルスタイン王国ポートミナ伯爵家の長女サマリナ・ティエ・ポートミナと申します」
サマリナが立ち上がるとふわりと雰囲気を変えて挨拶した。
びっくりした。
「ちゃんと貴族っぽいこともできるんだね」
「ええ。一応は」
「君たち、聞こえているよ」
「ふむふむ」
サマリナの挨拶もその後の俺たちのやり取りも無視して、お婆さんはじっと彼女を見つめ続けている。
「あの……」
「やはりか」
そう呟くと難しい顔をしていたお婆さんがにこりと皺の形を変えた。
「お前さんはうちの血が流れておるなぁ」
「「「は?」」」
思わぬ発言に三人でお婆さんを見る。
「お前は、うちの一族の子だ。良く帰って来たね」
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