78 より深く


 順調に進んでいく。

 出てくる魔物はゴブリン、ダンジョンウルフ、ダンジョンモンキーなど。

 ただし全部にプラントの冠が付いている。

 寄生植物怖い。

 気が付いたら俺たちもいつの間にか……とかなってないといいんだけど。

 基本はフェフたちに任せているんだけど、数が多いときは『挑発』で攻撃を引き受けるという盾役をこなした。

 何体か倒したのだけど、手に入ったスキルは『植物共感』というものばかり。

 あれ?

 前のダンジョンだと植物系の魔物からスキルって取れなかったはず?

 寄生植物の方がメインじゃなかったのか?

 寄生して操られているけど中身はまだ生きているから?

 よくわからない。

 スキルの成長は+4で止まってしまった。

 同じスキルが手に入ったら成長するけれど、+が重なっていくと一度では成長しないってところかな?

 ただ、このダンジョンにある植物は全く言うことを聞いてくれないので、役に立たず。

 フェフやウルズのスキルも強力だけれどもっと成長していたのはスリサズの『影の住人』だった。

 一か月の隠密生活でスキルとしての熟練度的なものが積みあがったんだと思うけれど、『影移動』『影襲撃』『影槍』などの派生スキルを次々と繰り出していた。

 それを見た他の二人が躍起になってスキルを使いまくっていた。


 そんなこんなでダンジョンに入って二日目で十階の奥に到着した。

 ボス部屋だ。


「さて、みんな、いいかな?」

「「「……はい」」」


 よくなかった。

 みんな競うようにスキルを使ったし、一気に十階に来たから疲れ果てている。


「じゃ、ここのボスは俺がやるね」

「「「はい」」」


 しょんぼりと同意された。

 ここが終わったら長めの休憩をしようと決めてドアを開ける。

 その先には森の中にポツンとできた広場のような空間があった。


『プラントマンイーター:自立した肉食植物』


 中央に鎮座していたのは蔓系植物で編み上げられた巨大な人型だ。

 顔と腕が異様に大きく、どことなくゴリラのような雰囲気がある。

 赤と緑で奇妙な点滅をしているなと思ったけど、違った。

 体を構成する蔓がハエトリソウのようになっていて、それが開閉する様子が奇妙な点滅に見えていたのだった。


「うわぁ、きもい」


 俺が一歩近づくごとに点滅が早くなっているように見えるのは獲物を感知して興奮しているからなのかもしれない。

 次第に雨に当たったかのように濡れ光り出す。

 あちこちから溶解液が溢れ出しているのだとわかった。

 接近戦で長々と戦えば、あの溶解液を全身で浴び続けることになる。どれぐらいの威力なのかわからないけれど、装備や体がかなりひどいことになりそうだと思った。

 だから、やるなら一発だ。

 幽毒の大剣を『血装』で強化し、一気に突っ込み、大上段で真っ二つに……。


 ボン!


「へ?」


 剣先が触れたかどうかのタイミングでプラントマンイーターが爆散した。

 なんで?


「ええと……」


 状況がわからずに振り返ると、なぜかフェフたちが転んでいた。


「なに?」

「勢いがありすぎです!」


 フェフが叫んだ。

 勢い?


「アキオーンさんが地面を蹴ったらすごい風が来ました」

「飛ばされました」

「びっくりです」

「あ、ああ……」


 なんとなく、わかった。

 反動? 反作用……か?

 前に進もうと地面を蹴った力は後ろにも向かうから、それがフェフたちを吹き飛ばしてしまったらしい。

 そんなすごい反作用が起きたのだとしたら、前に進んだ力もかなりすごかったわけで……で、それらの力の乗った剣先の速度やそこにこもった力はさらにすごかったわけだから、それで爆散した?


「なにそれこわい」


 ステータスの上げ過ぎか?

 いやいや、でもまだ表示限界になっていないわけだから……ねぇ?


「おっ」


 プラントマンイーターがいた後に宝箱が現れた。

 十階クリアのご褒美宝箱だ。


『マジックポーチ:低級。内部には5×5×5㎥の空間がある』


 俺のと同じマジックポーチだ。

 外見がちょっと違うかな。

 ともかくこれはフェフたちに渡す。

 遠慮されたけど、同じものを持っているしと言って押し付けた。

 それから、プラントマンイーターからはスキルを奪えなかった。

 爆散が原因なのか、他の階の魔物のように吸血できる存在がいなかったからか。

 後者かなぁ。

 その後は現れた階段を使って十一階に辿り着くと、そのすぐ側で休憩することにした。

 休憩とはすなわち食事。


「何が食べたい?」

「「「天丼!!」」」


 三人の声が重なった。

 いいねぇ。

 というわけで天丼を出してみんなで食べる。

 タレの染みたご飯と天ぷらのコンボがたまらない。

 三人はほっこりした顔で食事を済ませると、そのまま気絶するように眠ってしまった。

 テントの中に三人を入れて寝かせる。

 俺はお茶を淹れてテントの前でウッドチェア……は鎧を着ていると狭いので折り畳みのベンチを新たに出してそれに座る。

 それぞれに獲得したスキルのおかげで三人は強い。

 だけど体力が追い付いていない感じだ。

 特に今は強行軍をしているので疲労がすごい。


「もっとのんびりでもいいかな?」


 と思っているし、提案もしたのだけど三人は強行軍を止めなかった。

 やっぱりこの国を見捨てられないんだろうな。


「寝てる間にさっと行ってこようかな」


 感覚的に西の街のダンジョンよりちょっと強いぐらいの難易度だと思う。

 だけどそれぐらいだ。

 今の俺なら全速力で三十階ぐらいまでなら駆け抜けられそうな気もする。


「う~ん。でも三人の安全確保がなぁ」


 それが問題だ。

 うんうん唸りながら、とりあえず三人の睡眠を守り続けた。



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