77 豊穣の樹海へ


 エルフの城は世界樹の前にポツンとあった。

 大きさはそれほどじゃない。

 王国の西の街にある役所と同じぐらいかもしれない。

 ただ、小さいけれど強固そうだ。


「豊穣の樹海への入り口は城の中にあります」


 警備はさすがに厳重そうだけれど、スリサズが影に潜んで偵察し、人気のない場所を見つけたらフェフたちを抱えて壁を飛び越えて内部に入り込み、同じように偵察をしてもらいながら奥へと進んでいく。

 とはいえ、誰にも見つからないまま進めるのはここまでだ。


 そこは城の一階の奥にあった。

 ドワーフの王宮で見た謁見の間よりも広く立派な長方形の空間の奥に立派な門がある。

 あの奥に豊穣の樹海というダンジョンの入り口があるのだろう。

 門はしっかりと閉じられ、門の前に二人、その途中にも何人かの兵士が哨戒している。


「これは見つからないままは無理だね」

「どうします?」

「……一気に全滅させてから入るか、強行して門を壊して入るか」

「あの門、壊せますか?」

「やってみないとわからないけど、できるんじゃないかな?」


 うん、できる気がする。


「できれば殺したくないので」

「なら、それでいこう」


 俺は『装備一括変更』でゴーストナイト装備に変化する。


「囮になるから機会を見て門に向かって。到着したら俺が行く」

「はい」

「じゃあ」


 物陰から出て堂々と歩いていく。


「な、なんだ!?」

「何者だ!」


 誰何の声がこの場にいる兵士たちの意識をこちらに向ける。

 外の誰かを呼ばれたらさすがに面倒なので『挑発』を使う。

 敵の意識をこちらに引き寄せるスキルだけれど、効果は抜群だったみたいだ。


「「「うおおおおお!」」」


 門の前にいた兵士たちまで血相を変えて俺に向かってくる。

 これで、すぐに誰かを呼ばれるってことはなさそうだ。

 三人がそれを好機と見てくれて、飛び出す。

 よし、気づいてない。

 ていうか『挑発』の威力が前に使った時よりすごい気がする。

 ステータスの影響かな?

 すごく血走った目でこっちを睨んで、やたらめったらに武器を振り回している。

 鬼気迫り過ぎて怖いな。

 幽茨の盾で受けているのだから殴るほどに自分も傷ついているんだけど、それを気にしない勢いで攻撃を繰り出してくる。

 よし、三人が門に到着した。

 考えていた鎮圧用のスキルの組み合わせを試してみる。

『威圧+4』と『眼光』だ。

 この間の『夜の指』や『獄鎖』を襲撃したときに手に入れたスキルたちだ。


「「「ひうっ!」」」


 さっきまでの我を忘れた怒りはどこへやら、兵士たちは急に血の気の引いた顔になるや、そのまま意識を失った。


「そこまで?」


 バタバタと倒れていく兵士にびっくりしつつ、とりあえず息はしているようなので大丈夫かと思考を切り替える。

 門をぶっ壊すつもりだったけど、兵士がこんなになったのならと懐を漁ってみるとそれっぽい鍵があったのでそれを手に門のところに行く。


「だ、大丈夫ですか?」

「うん、殺してないよ」

「いえ、アキオーンさんが」

「え? ああ……大丈夫だよ。ありがとう」


 フェフたちの心配に笑顔……兜があるから表情はわからないから、なるべく明るい声で答えておく。

 それから手に入れた鍵を試してみると、やはり門が開いた。


「よし、行こうか」


 二度目のダンジョンだ。

 今度はどんなのかな?

 入り口である光の渦に踏み込む。


「「「うわぁ」」」


 目の前に広がった光景に三人が声を上げる。

 森だ。

 世界樹らしい緑あふれるダンジョン。

 前のダンジョンの時にあった大木が並んでいるようなのではなく、そこら中が藪や太い木の根があってそれが壁になって道を形成している。

 そういえば久しぶりのパーティだ。

 ウッズイーター戦はパーティというよりはMMOでいうレイド戦みたいな感じだったし、なにより一人で一か所を担当していたので、実質はソロみたいなものだった。

 それ以外となると……あの二人かぁ。


「ともあれ、俺が前衛だね。スリサズは後ろの警戒よろしく」

「はい」

「フェフとウルズは遠距離攻撃と補助を」

「「はい」」

「じゃあ、前進」


 とりあえず進んでいく。

 しばらくすると魔物が出てきた。


『プラントゴブリン:寄生植物に操られたゴブリン』


 体中に蔓植物を張り付けたゴブリンたちが襲い掛かってくる。


「おまかせください!」


 フェフが『風精シルヴィス』を起動し『風刃』を飛ばす。


「私も!」


 ウルズも『火矢』を使う。

 二人の攻撃でプラントゴブリンは近づく間もなく倒れていった。


「この調子なら最初はすぐに終わりそうだね」

「「「はい!」」」


 やる気に満ちた三人を見て、最初は彼女たちに任せようと決めた。




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