74 取引
ドワーフ料理は味が濃い。
そして肉とニンニクを愛している。
食堂にはタレに絡んだニンニクの匂いが満ちていた。
「さあ、どんどん食え!」
俺が献上したビール(キンキンに冷やし済み)をジョッキに入れてドワーフ王が勧めてくる。
いや、本当に美味い。
骨付き肉の状態で焼かれてでてきたそれが、この場でドワーフのメイドさんに切り分けられて提供される。
後はお好みで各種調味料を付けて食べる。
でも、王国だと食べたことのない肉の味だな。
なんだろう?
「これは何の肉ですか?」
「バンプボアの肉だ」
「ああ……」
魔物だ。
そっかぁ、聞いたことあった。
小国家群って魔物食の文化があるんだっけ?
バンプボアは王国にも出てくるでかいコブのある大猪だ。
ちなみに野生の獣と野生の魔物との違いは魔石があるかどうか。
この魔石で肉体の強化が行われているという考えらしい。
実際、同じ大きさの野生の獣と魔物が出会うと、勝つのは絶対に魔物だ。
それぐらいに身体能力が違う。
ヒグマサイズの魔物熊が出た日には村なんかだと大騒ぎになる。
それはともかく魔物食。
王国では食べなさ過ぎて、『食べると魔物になる』とかいう噂があったりするけれど、別にそんなことはない……らしい。
王国で食べないのは、祖王が牧畜を流行らせて食べる必要がないのと、国内からほとんどの魔物を追い払ったことや、狩った魔物の輸送などの手間で忌避されたから……らしい。
なので辺境ではそれなりに魔物食の文化が残っていたりする……そうだ。
以上、どっかで聞いた知識。
「あんた王国から来たんだったか? バンプボアは初めてか?」
「はい。でも美味しいですね」
「そうだろうそうだろう」
うん。美味しいのは事実。
魔物になるとかいうのを怖がるのもいまさらなぁという気分だ。
だって、ダンジョンの魔物は肉は食べてないけれど血はたくさんもらったからね。
フェフたちも気にした様子もなく食べている。
エルフが肉を食べていることにドワーフ王夫妻だけじゃなくメイドたちも驚いている。
だけど美味しく食べている様子を見て不機嫌になる接待主はいない。
「それにしてもこれは美味い!」
髭に泡を付けてドワーフ王は上機嫌だ。
「で、どうかの? 定期的に売りに来てくれたりするのかの?」
「俺は冒険者なので、基本は王都の商業ギルドで卸しています」
「王都かぁ」
ちょっと渋い顔。
売り手と買い手の間が増えればそれだけ値段が増していくからね。
あ、そうだ。
「そちらのお嬢さん方とはどういう関係なのかしら?」
王妃からの質問。
「家族です!」
フェフ。
俺が何か言う前にさっと言った。
「家族その二です」
そしてウルズまで。
「ほうほう……家族か」
ドワーフ王が髭をもしゃもしゃしながら笑う。
「家族がこっちにおれば頻繁に顔を出すなぁ」
「ええ、まぁ……」
うん、こういう流れに持ってきたかったんだけど、まさかこんなに早く流れ着いてしまうとは。
これはやっぱり、フェフたちの身元はばれてるんだろうな。
「さて、そろそろ腹を割って話したいんじゃがの?」
「は、はい」
「わしらはアキオーン殿の酒が欲しい。できれば一度きりではなく定期的に、だ。わしが気に入ったのもあるが、良い酒があると民の機嫌が違うんじゃよ。つまりは国策として欲しい」
国策。
なんか大きな言葉が出てきたなぁ。
「で、そのわしらがご機嫌を取りたいアキオーン殿は、ルフヘムから出て行ったはずのフェフ王女を連れている。さてさて……何を望んでおるのかの?」
「ルフヘムの正確な情報。それから、彼女たちの身の安全、でしょうか」
商業ギルドでも情報を得たけれど、できればより正確なものが欲しい。
だけどこれは、スリサズが向かったので待っていればいずれはっきりすることでもある。
なので本命は後半の方。
俺が一人で動いている間もフェフたちの安全を確保してくれる存在か場所があればいい。
ドワーフがそうなってくれれば嬉しい。
「ふうむ。なるほどのう」
髭を鷲掴みにせんばかりにもしゃもしゃした後で、ドワーフ王は唸った。
「フェフ王女の安全というのは別に構わんの。ここで暮らしてもらえばいいだけじゃ。じゃが、ルフヘムの中はのう」
「難しいですか?」
「その調子だと商業ギルドでもある程度聞いておろう?」
「はい」
「それ以上は部外者には難しい。いまは外交関係者さえも奥の区画には入れなくなっておるからな。かなり荒れておるのは確かじゃ」
「そうですか」
となるとやっぱりスリサズの報告待ちか。
「で、どうかの?」
「フェフたちの安全は守っていただけますね?」
「もちろん」
「その後にそちらの都合を押し付けるとかはなしですよ?」
「それはアキオーン殿のその後の誠意次第じゃのう」
「なるほど」
俺はテーブルの下で『ゲーム』を起動させ、交易所にセットしておいた酒たちを出す。
ビールにウィスキー。
リンゴ酒にアップルブランデー。
ブドウ酒にブランデー。
それぞれ百本。
テーブルに乗りきらずに床にもごろごろと転がってしまう。
「おお」
「まぁ」
いきなり現れた酒瓶たちにドワーフ王夫妻もびっくりしている。
「では、これは手付けということで」
よしインパクトは十分。
掴みはオーケーだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。