73 ドワーフ王の招待


 宿屋の人に渡された手紙はかなり上質な紙で作られていたし立派な紋章が刻印された封蝋が使われていた。


「これは、ドワーフ王家の紋です」


 フェフが言う。

 ドワーフ王家?

 う~ん。

 中身は二択かなと予想しつつ開封。

 うん。

 うん。

 予想は片方が正解。

 そこそこ体裁が整っているけれど、要は『美味しいお酒持ってるんだって? 仲良くしようぜ!』だった。

 ほんとに、イメージ通りに酒と技術に生きてる感じだなぁ。

 国がそもそも山脈を貫いたトンネルの中だしね。

 そんなわけで偉い人に夕食に誘われてしまった。


「どうする?」

「受けましょう」

「ていうか、受けないというのはまずいと思います」


 フェフが即決。ウルズが苦笑いで答える。


「味方にできるならその方がいいか」

「ですね!」


 予想のもう片方……フェフ関連の話題が完全にはずれだとも思えない。

 商人としての成功とかはあまり考えていないので、王族や貴族にコネができることに執心するつもりはないけど、フェフたちのためになるかもしれないと考えればやはり断ることはできない。


 というわけで、酒が欲しいと言っているのだからバリエーションを増やそう。

 酒造所ができてからずっとフェフたちの問題に関わっていて気持ちの余裕がなかったから、商業ギルドに売るためのリンゴ酒しか造っていなかった。

 ドワーフ王の心を掴んで離さないように新しいのを作る。

 まずはリンゴ酒を材料に作るアップルブランデー。蒸留酒という奴だね。

 それからブドウ酒、ワインじゃだめなのかと思うけど、ここだとブドウ酒って出る。

 そしてそれを蒸留したブランデー。

 それとビール。

 ビールを蒸留してウィスキー。

 詳しい人が見れば『なんでやねん』なことだというのはわかっているけど、『だってできるんだもん』とおっさんが可愛くふくれっ面をしている姿を見たくないのであればそういうものなのだと受け入れてもらうしかない。

 それぞれの材料はたっぷりあるので作りまくる。

 とりあえず、瓶で百本ずつ作っておく。


「これだけ作って味見しないってのもないよね」


 というわけで、ビールを一本。

 つまみは……ポテチで。

 ポテチはもちろんフェフたちにも振舞う。

 お酒?

 成人だと主張する三人を笑って受け流してリンゴジュースを出す。

 ビールはホップの苦みが効いた本格的な味だ。


 ああ、キンキンに冷やしたい。

 なんてことを言っていたらウルズが氷を出してきた。

 話を聞くと、氷矢の魔法を改造して作り出したらしい。

『魔導の才知』の力?

 素晴らしい。

 その氷でビール瓶を冷やして飲む。

 美味い。

 酒はそんなに好きじゃなかったけど、最近はなんか美味しいなぁ。

 もちろん、酔っぱらわないように一本飲むのはビールだけ。

 他は味見でちょっとだけ飲む。

 残りはまた晩酌で消費できる。全部美味しかったから。


 さて次の日。

 ドワーフ王との約束は夕方なのでそれまではどうするべきか。

 と思っていたらスリサズが早速出発するというので隠密生活で必要そうなものを買っておく。

『ゲーム』の領地で作れるものもあるけど保存食みたいなのはあまりない。

 マジックポーチを持っていると渡せるものはたくさんあるんだけど、それは三人から反対された。

 確かに予備はないんだけど……こんなことなら西の街のダンジョンで何個か確保しておけばよかった。


「街中にさえ入ってしまえばこっちのものですから、心配しないでください!」


 なんかもう苦笑とかされてる。

 気分ははじめてのおつかい。

 失礼な考えだとはわかっているんだけどね。

 ルフヘムにはここから馬車で三日ほどで入ることができる。

 冒険者ギルドを見つけたのでそこで情報収集していると、ちょうどそちらに向かう行商の団体がいたのでそこの影に潜んでついていくことにした。

 それなら同行者もいるから安全だ。

 どこで誰が見ているかわからないので見送りはなし。

 最後にみんなで昼食をするために宿屋へ戻る。

 メニューは『ゲーム』で出したカルビ丼。

 それにしても君たちほんとに肉食にはまってるよね?


 スリサズと宿屋で別れ、それからはドワーフ王のところに向かうための準備。

 とりあえず、直接手渡す予定のものはなんかラッピングとかしてみよう。

 きれいな包装紙とかリボンとか探してみる。

 紙は無理だったので布屋できれいなのを探して見つけた。

 後はこれらを入れる篭。

 服は……このままでいいよねってことになった。

 さて、時間だ。

 王宮への道もトンネルの途中にある。

 手紙を見せると中に入れてもらえ、そのまま案内された。


「あんたら、美味い酒持って来たんだって?」


 ドワーフの国の酒への嗅覚が怖すぎる。

 細い通路をそれなりに進むと広い場所に出た。

 そしてそこが謁見の間だった。

 奥に玉座が二つあってドワーフが二人座っている。

 髭がある方が王で、ない方が王妃だね。

 たぶん。


 心の準備……。


「よく来たな、酒」

「いや、酒は名前じゃないですから」

「うむ、アキオーン殿じゃったな」


 ええと、ドワーフ王の名前はガンドーンだったっけ?

 来る前に一応情報収集はしたんだよ。

 ガンドウーム王国のガンドーン王。

 代々の王様は全員ガンドーンを名乗るそう。

 襲名制っていうのかな、こういうの?


「ごめんなさいね。この人馬鹿だから」


 王妃様はご近所のおばちゃんみたいなノリで笑ってる。


「そういうわけで、こちらがお持ちした酒たちです」

「ほほう」

「まぁまぁ」


 ガンドーン王だけじゃなくて、王妃様も大興奮。

 ていうか、挨拶もおざなりに進んでいくけどいいのか?


「さてさて、じゃあ夕食にしましょうか。おばちゃんが腕によりをかけて作ったからね」

「うむうむ。楽しみじゃなぁ」


 二人が玉座から下りて壁にある通路に向かっていく。


「続きは飯と酒を楽しみながらするとしようかの」


 それでいいのかドワーフの謁見。





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