67 ファウマーリ様の提案
落ち着かない一日でも気が付けば夕方になった。
夕食はパスタ。
俺とフェフたち三人はボロネーゼ。
ナディはキノコの和風パスタ。
肉のないのとなると、これとペペロンチーノぐらいしか思いつかなかった。
食べ終わって静かにお茶を飲んでいるとノックの音が来客を告げる。
やや緊張した空気の中、エルフの四人に部屋に行くように手で合図を送り、ドアを少し開けた。
いたのはファウマーリ様だった。
「夜分に邪魔するぞ」
半端な苦笑いという顔で家に入ってくる。
「何か問題が?」
テーブルに着いたファウマーリ様にお茶を用意しながら訪ねる。
「問題はあるが文句はないよ。好きにせよと言ったのはこちらだからな。だがまぁ、傍観者としては面白いが現地で調査する者には不可解極まりない現場を作ってくれたものよ。ただ、財物を取っていないようだったがよかったのか?」
「目的を達成できたので。欲張ると後が怖いですから」
「やれやれ、立ち回りがうまくなって来ておるな。良いことではあるが、寂しいことでもあるのう」
「それで、なにか用ですか?」
「ふむ。そなたが奴らの本拠をきれいに残しておいてくれたから『獄鎖』の関係者の掃討は問題なく行われるのだが、お前の力に目を付けた者が何人かおってなぁ」
「はぁ」
貴族連中の干渉は抑えてくれるんじゃなかったのでは?
「国は学校。貴族は生徒。妾や父様は怖い生活指導。こう言えばそなたに通じると父様が仰っていたが?」
「ああ……なんとなくわかります」
怖い生活指導の目は逃れようとするけれど、それでも校則違反を止めない生徒って、たしかにいるよね。
権力に干渉する力はあるけれど、実際に行使できる校長(現王)ではない分、強制力は万全ではないってことか。
「それに『獄鎖』に繋がりのある者がそなたに報復を仕掛けてくるかもしれん」
やっぱり、一度で全滅とはいかないものなのか。
ヤクザだって傘下とかいろいろあるっぽいし。
ああ、そうか。本部を潰した犯人に報復した者が後継者候補とか、ヤクザならそういう考えありそう。
こっちでも似たような考えだったり……しそうだなぁ。
「つまり……本題は?」
ファウマーリ様の話はどこかに向かうための前置きを積み重ね続けている。
そのまだるっこさに俺は結論を求めた。
「うむ。貴族からの好奇心は少々うるさい程度で済ませることができるだろうが、報復の方はさすがに読み切れん。そなたは無事だろうが、そなたの家族まで無事とは限るまい。だからな、しばらくこの国を離れんか?」
「ああ、やっぱりそういう話ですか」
なんとなくそういうことだろうなとは思っていた。
「そなたらの家族は移動にも気を使うだろう。こちらから願うのだから移動のための便宜は図る。どうだ?」
「……仕方ないですね」
悪党との泥沼の抗争っていうのを想像すると、ひたすら周囲に被害が広がっていく展開しか頭に浮かばない。
俺の関係者となると冒険者ギルドや商業ギルドの人たちっていうことになる。リベリアさんに迷惑がかかるのは嫌かな。
つまり、しばらく王都を離れることは確定ということだ。
長々とため息を吐く。
王都から離れることに未練があるとかいうのではなく、なんだか本当にスキルに踊らされているような気がしてなんていうか……表現できない気分だ。
「すまんな」
「あ、いえいえ」
ファウマーリ様が勘違いして謝ってくるので、俺は慌てて手を振った。
その後は移動の段取りの話になった。
家の解約なんかはファウマーリ様の方で手続きするし、持っていけない家具なども保管しておいてくれるらしい。
『ゲーム』に回収すれば一瞬だけれど、それはまだファウマーリ様に明かしていない。たぶんだけどなんらかの予測はされている。されているだろうけれど、全てを明かす気にはなれない。
当たり前だがファウマーリ様は国家権力側なのだから。
今の関係をありがたがっているぐらいでいいはずだ。
動けるのであれば今すぐにというので、俺はフェフたちを呼んで、事情を説明することにした。
ファウマーリ様を紹介するとナディが驚いてその場で膝を付いた。
そんな彼女の対処はウルズとスリサズに任せて、フェフに意見を聞く。
「お願いします」
フェフはファウマーリ様に深々と頭を下げた。
「うむ。申し訳ない。できるなら援助をしてやりたいところだが……」
「アキオーンさんがいれば問題ありません」
「ふ、ふふふ……なかなか食えぬな。まぁよい。また会えることを願おう」
二人の間で何か言葉にならないやりとりがあったようだけれど、わからないのでそのままにしておく。
出発の準備はすぐに終わり、俺たちが家を出て案内されるままに大通りに出ると立派な二頭立ての箱馬車が待っていた。
「御者はいるか?」
「あ、大丈夫です」
先日の屋敷の襲撃で大量のスキルを手に入れている。
その中に『御者』もあったので問題なく操れる。
すでに乗っていた御者と席を代わり、フェフたちが乗ったのを確認して出発する。
「東門に向かえ。話はついておる。国境を抜ける時に止められたらこれを使え」
と、手紙を渡された。
言われるままに東門に向かうと止められることなく外に出ることができた。
そのまま、しばらく進む。
俺は大丈夫だけれど馬は休ませなければならないので早い段階で街道横の休憩所を見つけて馬車を止めた。
それに『危険察知』がさっきから反応している。
こういうの、離れている時のフェフたちになにかあったときも反応したらいいんだけどな。
馬車の中を覗くとフェフたちは寄り添って眠っていた。
向かい側にいるナディが難しい顔でこちらを見た。
「馬の世話をお願いしていいかな?」
「あなたは?」
「誰か付いてきているから、それの処分に」
俺の言葉にナディの表情が険しくなった。
「わかった」
「では」
ナディが出てくると、すぐに『隠密』で気配を殺し、『忍び足』で馬車から離れる。『獄鎖』で手に入れたスキルは裏社会の人間だったからか盗賊っぽいものが多い。あと、変わり種っていうか『宮廷儀礼』というスキルが一気に+3になった。
ブラッドサーバントの犠牲者に貴族がいたみたいだけど、そんなに成長するぐらいにいたのか。
暗闇に紛れて様子をうかがっていると、馬車に近づく者がいた。
数は三。
魔法も手に入れたのだけど、その中に『毒生成』という魔法があったのでそれで麻痺毒を作り、それを手の中に収めてから一気に接近し、三人の顔に投げかけた。
「「「ぎゃっ!」」」
いきなり麻痺毒を投げかけられた三人は目や鼻の粘膜に飛び込んだ刺激に悲鳴を上げ、そのまますぐに倒れた。
麻痺毒がうまく効いたみたいだ。
その後はあまり面白くない話だから簡潔に。
物陰に連れ込んで一人ずつ解毒してから事情聴取をして吸血する。
三人目の口はずいぶんと軽かったけれど、運命は変わらない。
やはり『獄鎖』の関係者だったようだ。どうも『夜の指』の後に俺を見つけたのが彼らだったようで、下部組織に情報を売るために尾行してきたらしい。
彼らを処分したことで『獄鎖』関係者からの追跡は排除できたかもしれない。
それに『隠密』が強化されたのも心強い。
馬車に戻るとナディがびっくりした顔をしていた。
どうやら俺の気配を見つけられなかったみたいだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。