65 大人なエルフはいた


 フェフたちと合流してからブラッドサーバントを回収しつつ屋敷を出る。

 屋敷の中には中身を失った服や装身具がそこら中に転がることになったけれど、それらには手を付けないことにしたので四人を人目から避けるための布だけもらって撤退する。

 なんか世界の〇大失踪事件みたいなミステリーが完成した気がするけれど……まぁいいよね。

 家に戻ると、あちこちちらかっていたけれど致命的に壊れているということはなかったので、それらを元に戻してから、まずはご飯にする。


「お肉を希望します」


 フェフがたくらんだ笑みでそんなことを言う。


「大丈夫なん?」

「大丈夫です!」


 なんとなく意図は理解できたけどいいのかな?

 まぁ、リクエストに従って……カツサンドにしようか。

 それと先日も出したBLTサンドも。


「…………」


 テーブルの中央にどんと積まれたサンドイッチ各種に美人エルフが難しい顔をしている。


「フェフ様、これは……」

「家主の歓待を拒否するような失礼は、しませんよね?」

「うっ」


 フェフにニッコリ笑顔で言われて、美人エルフは言葉を失っている。

 もう脅迫だね、これ。


「心配しなくても私たちも食べますよ」


 そう言ってフェフ、ウルズ、スリサズの三人がカツサンドを手に取る。


「美味しい!」


 ウルズが嬉しそうに頬を押さえる。スリサズがさっと二個目に手を伸ばしている。


「…………」


 美人エルフが無難そうなBLTサンドに手を伸ばそうとして、フェフがそれを掴んでそっとカツサンドに向かわせる。


「フェフ様」

「ナディ……食べなさい」

「…………はい」


 美人エルフ……ナディが覚悟を決めてカツサンドを口にする。


「っ!」


 パッと目を見開いた。

 そして即座の二口目。

 カツサンドに使われているソースは野菜や果物がたくさん使われているからね。ベジタリアンっぽいエルフにも受け入れられやすいんじゃないかな?

 で、エルフの野菜偏重な食生活は、環境がそうなだけで、教義的なものではないらしいので食べさせることに問題はないそうだ。


 それにしても、ちゃんと人間の大人ぐらいに成長したエルフもいるんだね。

 あれか。

 成人とされる年齢が低いだけで成長の余地はまだあるってことかな?

 あれ? 成長期の終わりは耳の先の色がどうとかとも言っていたような?

 つまりこれは個人差?

 バスケやバレー選手と一般人ぐらいの差だったりして?


「……な、なんですか?」

「あ。失礼」


 考え事をしてたから思わずじっと見てしまった。


「エルフの成人にも大きさの差はあるんだなと」

「どこの大きさの話ですか!?」


 スリサズが変な食いつき方をしてきた。

 ナディもさっと胸を隠さないでいただきたい。


「私たちだってまだ大きくなる余地があります!」

「そうです。アキオーンさんのごはんでそうなります!」

「身長の話だよ!」


 すぐに訂正したけど、信じてもらえたかな?

 ていうか他の二人までこの話題に食いつかないでもらいたい。


「身長だってまだ伸びますから!」

「そうです! 成長期は終わりましたけど、身長はまだ余地があります!」

「子供じゃないですから!」


 そんなことを言っているうちは子供なんだよなって、どこかで聞いたセリフを思い出しながら沸いたお湯で新しいお茶を淹れる。

 食事も落ち着いてきたし、そろそろ話題を動かそう。


「それで……ナディさんはどうして王国に?」

「それは……」


 ナディは俺に疑わし気な視線を向けている。


「ナディ。アキオーンさんに言えない話でしたら私たちも聞く気はありません」

「フェフ様!」

「私たちはすでに国を追われた身。すなわち国の運命から不要と言われたも同然の身です。そんな私たちに他人に言えないような話を持ってこないでください」

「う……」


 ナディのエルフの国の立場がわからないけれど、元王族のフェフと話ができているのだからそれなりな地位にはいたんだろう。

 そんな人が身一つでここにいる。

 フェフを探しに来たのかどうか知らないけど、それだけでエルフの国でなにか大変なことが起きているという予測ぐらいはできる。

 ナディが俺を見る。

 なんだか遠慮しろとか席を外せとかフェフに話を聞くように説得しろとか、そんな雰囲気の視線が飛んでいるような気がするけど、動かない。


「俺はここでの三人の保護者のつもりだよ」


 そう前置く。

 なにか三人から不満そうな気配が飛んできたけど気づかないふりをする。


「だから三人が危ないことに巻き込まれないようにするのが役目だと思ってる。望まないことならなおさらだね。この子たちを守るために俺が何をするかは、あの屋敷の跡を見たんだから少しは想像ができるんじゃないかな?」


 ナディの視線からの圧が見る間に減っていく。


「まぁ、国で何か起きてるんだろうけど、ここからあそこに戻るまでなんてすぐの話じゃないんだし、ちょっと時間をかけて考えたらどうかな?」


 ナディは難しい顔のままうつむき、悔しそうにBLTサンドを齧った。

 食事が終わると、三人はすでに抱えている書写の依頼を終わらせるために部屋にこもった。幸いにも依頼の道具などは無事だった。

 ナディは所在なく席についていたけれど、気が付くと船をこぎ、テーブルに突っ伏して眠り始めた。

 完全に寝たところで俺の部屋に運んでベッドに転がす。


 その間に俺は……さすがに冒険者ギルドに行く気にはなれないので家の損傷がないかを確認し、その後は『ゲーム』で領地の整備をする。


「ん?」


 収穫した黄金サクランボを取り出すために役所に移動したところで、職員の頭に『!』マークがあることに気付いた。

 なにかイベントかクエストが増えたらしい。


『領地拡大クエスト』

『工房拡張クエスト』


 なんか、クエストが二つもあるんだけど?




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