59 フード娘たちは物知り
「情けないのう」
ファウマーリ様のため息が痛い。
原因はフード娘たち。
来客の物音を聞きつけて顔を覗かせた彼女たちにファウマーリ様が名乗ると、すぐに膝を付いて頭を下げたのだ。
「他国の娘さえも妾の名を知っておるというのに、自国のいい歳をした男が知らぬとは。嘆かわしい。まったく嘆かわしい」
「ははは……ドウモスミマセン」
早く帰ってくれないかな、この人たち。
「って、あれ? 他国?」
どうして他国だってわかるんだ?
この子たちはフードで顔を隠しているのに。
「そんなもので隠したところで、妾たちにその耳の長さは隠せはせんよ。祖王陛下の前であるぞ、そのフードを取れ」
「「「え⁉」」」
祖王の言葉でフード娘たちが驚いて隣に座っている男を見る。
「ぐっふっふっふっふ……」
「「「!!」」」
自信満々なニヤリ笑みのまま腹を揺らすように笑うものだから、三人は肩を寄せ合って震え始めた。
「だ、大丈夫だよ。なにかあっても絶対に守るからね」
「こりゃ、アキオーン。恐ろしいことを言うな。父様も子供をからかって遊ばないでもらいたい」
「わははは! すまんすまん! ルフヘムの民よ。お前らをどうこうする気はないから心配するな」
「まったく……今日はそのことで来たのだ。アキオーン」
「へ?」
「『夜の指』の件で衛兵がお前を調べようとしていたが止めさせた」
と、ファウマーリ様が言う。
ば、ばれていらっしゃる。
「そろそろゴミ掃除が必要だと感じていたからな。ちょうどよい」
「あ、そうですか? ええと、つまり?」
「お咎めなしじゃ」
「それはよかったです」
「だがな。それで終わりとはいかんのだ」
祖王が言った。
同時に。
グウウウウウウ…………。
彼の大きな腹が大きな音を立てた。
「だがその前に、飯を所望する」
祖王に真顔でそう言われた。
「天丼はあるのか?」
さらに注文までされたので晩御飯はそれにすることにした。
『ゲーム』を起動させて人数分の天丼を用意する。
椅子が足りないので新しいのを出そうかと思っていると、彼女たちは自分の部屋で食べるという。
なにか重い話にもなりそうだしそれでいいかと、彼女たちを部屋に移動させ、そこに三人分の天丼を置いていく。
書き物仕事用の机を置いてあるのであそこで食べられる。
戻ってきて、祖王とファウマーリ様の前にも天丼を置き、自分の分も出す。
「うおおおお!」
吠えた。
祖王が吠えた。
「父様、もう今年は豊雨はいりませんよ」
「わ、わかっておる」
ファウマーリ様に突っ込まれ、祖王は平静を装いつつ箸を取り、丼を抱え、しばし迷った後にレンコンの天ぷらを選んで口に運んだ。
「……美味い」
噛みしめるように涙を流す。
気持ちはわかる。
わかるけれど、おっさんが泣いていると……やっぱりドン引きだなぁ。
でも天丼は美味い。
これは間違いない。
天丼のタレが染みたご飯ってなんでこんなに美味いんだろうね。
黙々と天丼を掻っ込むことしばし。
「さて、そろそろ話をしても良いか?」
気が付けば誰よりも早く食べ終えているファウマーリ様がお茶を一口飲んで言った。
リッチも食事がいるんだ。
いや、それを言うと祖王もそうなんだけど。
……この人ってアンデッドなのか?
なんだかぼやかした言い方をしていたんだけれど。
「最初に良い話をしておこうか」
ファウマーリ様が続ける。
「あのエルフの娘どもについて、国としては手出しせんことを誓おう。貴族がなにかして来た時はこちらに言え、うまくしてやる」
「あ、それはどうもありがとうございます」
ありがたいけど、どうしていきなりそんな話に?
「小国家群の事情などどうでもよい」
そしてなぜに東の小国家群の話題に?
たしかにフェフたちはエルフだから、小国家群から来たんだろうけれど。
そう思って首を傾げていると、ファウマーリ様に長い長いため息を吐かれてしまった。
「な、なんです?」
「妾が喋るのは無粋じゃ。自分で察せぬなら娘たちが喋るのを待て」
「はぁ」
「で、じゃ。問題なのはそなたが潰した『夜の指』の上位組織じゃ」
「ああ、やっぱりそういうのがあるんですか?」
「もちろんある。『獄鎖』という組織だ。麻薬売買、違法賭博、盗品取引、違法娼館に奴隷売買となんでもありだ」
「奴隷売買?」
その言葉がひっかかった。
その前の違法娼館も。
「そうだな。あのエルフたちが目を付けられたのはそこじゃろう。あいにくと『獄鎖』の連中は国の睨みに対抗するだけの力を手に入れてしまっている」
「そんなのを放っておいていいんですか?」
「たしかに、そろそろ潰し時じゃろうな」
「潰し時って」
「人の心から悪が消せんように、それをまとめる組織も消しようもない。ならばある程度まとめておいた方が混乱が少ない。監視しやすいし、力を付けたところで頭を叩いてしまえばよいからな。とはいえ、激しい戦いとなれば衛兵たちとてただでは済まん」
「ファウマーリ様たちは?」
「妾たちは長く生きすぎておる。国防に関わる問題でもない限り直接の手出しなどするべきではないよ」
「そんなものですか?」
「考えてもみよ。子孫たちがお前を当てにして何もしなくなる未来を」
「……そもそも、俺、結婚もしていないんで、子孫とか言われても」
「ぶほっ!」
いままで沈黙を保っていた祖王が茶を吹き出した。
賃貸の中古物件とはいえ新居でいきなりそれはやめて欲しい。
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