58 来客は引っ越し祝いと共に?
それから夕方近くまで薬草採取をした。
フード娘たちは久しぶりの外が楽しいのか薬草採取の手が止まらず、それ用の大袋が十個も一杯になるぐらいに採りまくった。
もちろん全部、俺が買い取る。
最初は遠慮気味だったけど、家賃を払ってもらう関係である以上、こういう所での金銭管理はきっちりとしておくべきだ。
とはいえこんな野外でお金を渡すわけにもいかないので、家で渡すことにして、とりあえず王都に戻ることにする。
「おっさん!」
途中で子供たちに呼び止められた。
「おっさんが薬草買ってくれるって本当か?」
「ああ、この袋一杯で1100L。冒険者ギルドで売るより、ちょっとお得」
「買ってくれよ」
「はいはい」
口が悪いなぁとは思うが、この歳で冒険者している子なんてずうずうしくないとやってられない。
とはいえ甘い顔ばかりもしない。
集まって来た子供は五人。空いている袋をマジックポーチから出すんだけど、その前に全部に鑑定をかける。
「君と君のは買えない。そっちの三人のは買うよ」
「なんでだよ!」
「雑草が混ざり過ぎ。ギルドに持って行ったらいくらかもらえるだろうけど、俺はいらない」
前の子供たちも雑草が混じっているせいでゲームの中に入れた時に数が足りないってことがちょいちょいあったけど、この二人のはそれよりもひどい。
わざとじゃなければ見る目がなさすぎる。
全部にいい顔して同じ値段を払っていたら、その内、ちゃんと薬草だけを集めて来たこっちの三人まで手抜きの雑草混じりを持ってくるようになるかもしれないし、俺以外にそんなことをして痛い目に遭うなんてことにもなるかもしれない。
だから厳しくもしておかないと。
前の子供たちとのやり取りを見ていたからか、それとも自分たちが薬草採りを卒業したから他の子供たちに情報を回したのか知らないけど、これからもこういう子供たちが増えるかもだしね。
美味しい話は提供してもカモにはならないよ。
「ちっ!」
感じ悪く二人は薬草の入った袋をもぎ取って去っていく。他の三人には約束通りのお金を払う。
結局、門に入るまでにさらにもう一度、子供たちが薬草を売りに来た。
門を抜けて商業ギルドに入ると、清掃が終わったということで職員さんが鍵をくれたので家に向かう。
「でも、家具はなにもないですよ?」
職員さんに心配されたが問題なし。
家具ならもう『ゲーム』の中で作ってある。
家に到着すると、それらの家具を購入して取り出し、配置していく。
力は余ってるから運ぶのはまったく苦じゃないね!
「はいできた!」
すっからかんだった家の中があっという間に家具で埋まり、俺は大満足。
フード娘たちはポカーンとしている。
「とりあえず受け入れよう!」
「「「あ、はい」」」
ポカーンとしたままだけど返事はした。
「さあさあ、自分たちの部屋を確認してきな。足りない物があれば言いなね」
「えっと……いえ、これ以上甘えるわけには」
「まぁまぁまぁ」
テンション高く押し切って彼女たちを部屋に導く。
やがて、興奮した様子のワアキャアという声が聞こえて来て、俺は満足して台所兼居間に戻った。
暖を取るついでに竈に火を入れる。
今後は薪を買わないとなぁ。宿暮らしと違うことは家の維持や燃料代のことも考えないといけなくなることだよなぁなんて思いつつ、竈にのっけたヤカンから湯気が出始めるのを眺めていると……ノックの音がした。
「お客さん?」
商業ギルドの人が何か忘れてたのかな?
それぐらいしか思いつかないなと零しつつ、ドアを開けてみると。
「久しぶりじゃな」
場に似合わない豪華な女性がいた。
「ファウマーリ……様?」
「うむ、王都に戻って来ておるのに挨拶せんとは愛想なしじゃのう。お主は」
「あ、はぁ、すいません」
「引っ越しをしたと聞いたのでな。引っ越し祝いを持って来てやった。ほれ、百年寝かせたワインじゃぞ」
「あ、それは、どうも」
「……入れろ」
「は、はい」
しどろもどろに追い返す作戦失敗。
しかたなく道を開けると、ファウマーリ様の後ろにもう一人いることに気付いた。
全然気づかなかった。
ダンジョンで戦った経験で気配には敏感になっていたつもりだったんだけど。
そこにいたのは、背が小さくてかなり太目な男性だった。
この世界だとかなり珍しい眼鏡をしている。
挑戦的なニヤリ笑みがとても似合っている。
そして、黒い髪。
「初めましてだな。アキオーン君」
「あ、はい。どうも」
君付けされたけど、この人の方が見た目は若そうだ。三十代ぐらいか?
「藍染亮(あいぞめりょう)だ。久しぶりの白米は泣くほど美味かったぞ!」
「へ?」
リョウ?
白米?
それってもしかして……。
「祖王リョウ?」
「うむ。妾の父様だ」
「生きてらっしゃる?」
「人間の生きるの定義とは違うがな」
「うわぁ……」
なんだかすごいことになったぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。