49 冬の終わり


「やっと……終わったぁ」


『クリア! 酒造クエスト:トレントの木材:10/10 酔夢の実:1/1』


 クリアの文字が眩しい。

 脱力するのを堪えられなくて、ゴールを決めたサッカー選手みたいに両膝を付いて、腕を振り上げた。


《酒造場の建築が可能となりました。役所で申し込んでください》


 システムボイスが告げる。

 とはいえ魔物うろつくダンジョンでいつまでものんびりはできない。

 近くのツリーハウスまでダッシュする。


 ウッズイーターを倒してからだいたい二ヶ月くらいが過ぎた。

 その間、ひたすら三十階をうろつき回った。

 おかげで、この広大な空間を迷わずに動けるようになった。

 とはいえそれでもトレントとの遭遇はかなりレアだった。


 マジックポーチが一杯になるたびに地上に上がって換金して、ちょっと休憩してダンジョンを繰り返した。

 単調な日課にさえなってしまった中で、気が付けば『鋼の羽』はいなくなっていた。

 ダンジョンに潜り過ぎて別れの挨拶をするタイミングを逃してしまった。

 いかんなぁと思いつつも、でも冒険者がいなくなるのはそんなものだとも思ってしまう。


 みんな、気が付けばいなくなってしまうのだ。


 ツリーハウスで『ゲーム』を起動して役所に駆け込み、酒造所の建築を依頼する。

 建築費用に一千万Lを要求された。

 分割も可とか言われたけどいまだにゲーム内の方が金持ちなので一括払いも余裕です。

 完成まではリアルで三日かかるとのこと。


「ああ、終わった」


 放心状態で呟く。

 とりあえずご飯だご飯。

 お祝いはお肉で!

 ステーキにしよう。そうしよう。


 鉄板の上で溢れる肉汁を焦がし続ける分厚いステーキを頬張りつつ、ステータスを確認する。



名前:アキオーン

種族:人間

能力値:力405/体528/速317/魔272/運5

スキル:ゲーム/夜魔デイウォーカー/盾突/瞬脚/忍び足/挑発/倍返し/眷族召喚/不意打ち強化/支配力強化/射撃補正+2/剣術補正+4/斧術補正/槍術補正/盾術補正+3/嗅覚強化/孕ませ力向上+1(封印中)/視力強化/精力強化+1/毒耐性/痛覚耐性/再生

魔法:鑑定/光弾/火矢/炎波/回復/解毒/明かり/対物結界/対魔結界/斬撃強化/打撃強化/分身

条件付きスキル:仮初の幽者



 毎日ちゃんと黄金サクランボを食べ続けた結果、人間やめましたみたいな能力値になってしまった。

 でも相変わらず見た目はひょろいおっさん。

 筋肉にならないのはなぜなのか?

 お腹が出てないから、まぁいっか?

 それに筋肉おばけになりたいわけでもないから、これでいいよね。


 そして、運だけは不動のナンバー『5』!

 三十階の魔物はほぼ相手にならない。

 死神パニッシャーも、もう強敵じゃない。

 何気にウッズイーターも一人で倒せたりする。


 ただ、階層ごとのドロップアイテムの制限があるのか、あれ以後、あまりいいものは手に入らなくなった。

 スキルも剣術補正と盾術補正、それから射撃補正が成長しただけ。

 やっぱり使い続けているとそれに呼応したスキルが上がるみたいだ。

 とはいえ成長速度はあまりよくない。


 現実的に考えたらこんなものなのかなとも思うけど、能力値の上昇速度が異常なだけに比較してしまう。


 まぁ……とにかく終わった。


「よし、帰ろう」


 この前地上に戻った時には寒さもかなり和らいでいたし、そろそろ雪解けの時期だろう。

 王都に帰ろう。


 商業ギルドのリベリアさんに果物を持って行かないとだし、これから作るお酒も彼女に見せたい。

 薬草を買ってた子供たちがどうなったかも気になる。

 子供と言えばフード娘たちもだ。ちゃんと冬を越せただろうか?


 うん、気になることがあるっていいな。

 なにかそこに繋がりみたいなものがある気がする。

 そうと決まればここで休憩するのも惜しい。

 食事が終わって、ゲームの日課を終わらせたらすぐにポータルを使って、ダンジョンを出たらそのまま帰ろう。

 あ、魔石はどうしようか?

 まぁ、いいや、他の街でも売れるだろうし、とりあえずマジックポーチからゲームの方に移動させておこう。


 うん、すぐ帰ろう。

 いまの俺なら、走ればすぐだ。




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