47 対ウッズイーター


「すごいですね! ゴーストナイトの装備を全て手に入れるなんて!」

「ええ、運が良かったんです」


 興奮するイリアがべた褒めしてくれるので、なんか照れる。


「私の剣もここで手に入れたんですよ」

「そうなんですか?」

「みんなの武器や防具もそうなんです」


 イリアが言うには魔石以外のアイテムを落とす魔物は場所に関係なく唐突に現れて襲いかかるらしい。

 その姿にも色々とあるという。


 ……俺ってゴーストナイト一択だったよね?


 ランダム性に偏りがある?

 それともなにか出現に条件があるんだろうか?

 後者の方が有力かな?


「一式を揃えるなら一人働きの方が有利なのかもしれないか? しかし、それはなかなか厳しい条件だな」


 話を聞いていたジンが呟く。

 どうやら俺と同じ結論になったみたいだ。


 とにかく合流した。

 当初の予定通り、ここを拠点にしてウッズイーターが巡回してくるのを待つ。

 何度もここを挑戦している彼らは、あの巨大亀はこの広い空間を巡回していることを知っていた。

 なのでこの場所に居座って奴が近づいてくるのを待つという作戦を取る。

 近くにツリーハウスもあるので安全に休息を取ることもできる。


 何度か大型虫や植物系の魔物による襲撃を撃退した三日後、ついに奴の足音が地面を揺らした。


「来たぞ」

「はっ! お前ら準備はいいね!」

「では、事前の話通りにいきます」


 遠くから木々を踏み潰し噛み潰ししながらやってくる巨大亀の姿にちょっと緊張しつつ、俺はその進路上に立つ。


『鋼の羽』と『炎刃』がそれぞれ準備を終わらせたのを確認して、その鼻っ柱に魔法で光弾を放った。


 光弾は硬そうな鼻の一部を削った。


 GOAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 途端に、吠えられた。

 亀って吠えるんだと驚きながら、耳の痛さと振動によって全身が揺さぶられるのに耐える。

 吠えながら突っ込んで来るとかされていたら危なかったかもしれない。

 だけど、ウッズイーターもそこまで器用じゃなかった。


 雄叫びで息を吐ききった様子のウッズイーターはその場で荒々しく息を整えると、俺を睨みつけて、突撃して来た。

 凄まじい地響きの隙間から鳥の群れの甲高い音が聞こえてくる。

 甲羅の上にいるという鳥の群れか?

 さっそく動き出したってことか。


「おっと……」


 上に意識を向けている間に頭が接近して来た。

 胴体はそんなに動いてないから、首がすごく伸びるんだな。


「むっ!」


 いつもの強化はすでに使用済み。幽茨の盾で真っ向から受け止める。


「ぐうっ」


 うああああ……ズンッ! って来た。


 GUAN!!


 盾の茨を受けた痛みで押し切れなかったみたいだ。

 よし、このまま接近して……。


 GOAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 雄叫び。

 それから木の破片や胃酸が混ざった吐息……とりあえず破片の吐息(デブリスブレス)ってことにしよう。

 それが行われた。


 間近で聞かされた雄叫びの振動が体を痺れさせる。

 そこにダンジョン大樹の破片が混ざった吐息。

 これはウッズイーターにとっては必殺の一手なんだろう。


 だけど。

 無数の破片は体をすり抜けた。

 危なぁぁぁぁぁぁ!

『仮初の幽者』が発動してなかったら痛い思いをしたに違いない。

 それに耳も痛いし。


「鼓膜が破れたら、どうしてくれる!」


 幽毒の大剣の振り下ろしはウッズイーターの顔を縦に裂いた。


 GIAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


「悲鳴もうるさい!」


 鼓膜を通して頭痛がしてきた。

 追い打ちをかけようと前に出たら、すごい勢いで首をひっこめた。

 そして、空から気配が舞い降りてくる。


『グレイコンドル:ウッズイーターの甲羅に住まう腐肉食鳥。嘴には腐肉から発生した様々な毒が宿っている』


 毒持ちか!

 翼を広げた姿は余裕で人間の身長を超えている。

 そんなのが大群で舞い降りてくるものだから空が埋まってしまっている。

 大剣を振るって追い散らす。

 もちろん、血装を施すことも忘れない。


 後、ちょこちょことウッズイーターに『挑発』をしかけて注意を他にいかせないようにする。

 後、『挑発』はグレイコンドルにも効果があったみたいで、すごい数がこちらに迫ってくる。

 空が真っ暗になった。なんか鳥がいっぱいのホラー映画があった気がする。

 頑張って剣を振るい、『炎波』の魔法を撒き散らして鳥の群れに対抗する。


 よし、コンドルから何か手に入れた。

 でも、ステータスを開いて確認する暇はない。


 あ、また来た。


 グレイコンドルに気を取られている隙を突こうとしたのだろうけど、そうはいかない。

 鳥たちを巻き込んだ頭突きは『分身』の方を突いてしまったので空振りに終わる。


 そのせいで、俺の横に巨大亀の太い首が無防備にさらされた。


「らっ!」


 全力の振り下ろし。

 とはいえ半径がとんでもないから一撃で切り落とすとまではいかない。

 それでも半分……いや三分の一は切れたはず。


 慌てて首をひっこめようとする。

 だけど、このままだとまたコンドルを呼ばれて時間稼ぎをされる。

 最初に付けた顔の傷がもう治りかけているから再生能力があるみたいだし、長期戦は絶対にこっちが不利だ。


『盾突』


 幽茨の盾を構えた突撃で亀の頬をぶん殴る。

 戻ろうとしていた亀の頭はそのまま地面を滑った。


「ぐうう……」


 反動で後ろに持っていかれそうになったのをなんとか堪えて、今度は『瞬脚』で距離を詰めて頭に幽毒の大剣を突き立てる。

 血装付きだ。

 傷口から内部に侵入した血装のトゲが根を張るように奥へ奥へと侵入していく。


 GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


 うう、悲鳴が痛い。

 ウッズイーターは俺を振り下ろそうと全力で頭を振るう。

 さらに破片の吐息も吐きまくる。

 何度かは『仮初の幽者』の効果が出て擦り抜けたけど、残りは対物&対魔の結界を貫いて全身を打つ。

 痛い痛い。


 だがウッズイーターも痛いはずだ。

 脳に近い部分で血装のトゲが侵蝕しているからその激痛は凄まじいのだろう。

 俺を振り払おうと頭を振り回しまくる。グレイコンドルたちを巻き込んでいるのだけれど、お構いなしだ。


 GOAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!


「ああもう、うるさい!」


 振り落とされないように耐えている間に、地面に叩きつけられるわ、木々にぶち当てられるわさんざんなのに、その上、この雄叫びがずっとうるさい。

 耳が痛い。頭も痛い。


「黙れ!」


 その口の中の『光弾』と『火矢』を連射する。

 いつもの強化だけだと魔力が余ってるんだ。

 それらを全部、ぶち込む。


 GOA……GOBU…………。


 よし、喉が潰れた。

 と、いま、逃げようとした?

 だけどもう遅い。


『鋼の羽』と『炎刃』はちゃんと仕事をしていた。

 ほぼ同時にウッズイーターの両前脚を破壊し、甲羅の底が地面を擦る。


「これで、おしまいだ!」


 GOA!!


 血を吹きながら短く叫ぶ。

 血装のトゲが、ついに脳に到達し、深く貫いたのだった。


 勝った。

 その証拠に、ステータスに手ごたえがある。

 なにかスキルを手に入れた。


 力を失って地面に落ちていく頭からなんとか大剣を抜いて離れる。

 なにかが頭上からバラバラと降ってくる。

 魔石?

 あ、ウッズイーターが死ぬと、その背中にいたグレイコンドルも消えるのか。

 降り注ぐ魔石だけでけっこうな量だな。


 ステータスを確認する。



名前:アキオーン

種族:人間

能力値:力185/体258/速107/魔72/運5

スキル:ゲーム/夜魔デイウォーカー/盾突/瞬脚/忍び足/挑発/倍返し/眷族召喚/不意打ち強化/支配力強化/射撃補正+1/剣術補正+2/斧術補正/槍術補正/盾術補正+2/嗅覚強化/孕ませ力向上+1(封印中)/視力強化/精力強化+1/毒耐性/痛覚耐性/再生

魔法:鑑定/光弾/火矢/炎波/回復/解毒/明かり/対物結界/対魔結界/斬撃強化/打撃強化/分身

条件付きスキル:仮初の幽者



 追加されたのは毒耐性に痛覚耐性に再生?

 え? 精力強化が+1? なんで?


 魔物一種類に付き一つがいままでのルールだったんだけど。

 精力強化が成長するようなことはなにもしてないし……。

 毒耐性はグレイコンドルかな。

 あ、痛覚耐性はずっと頭が痛かったから、それに耐えていたから獲得した?

 奪う以外にスキルを獲得する条件ってあるんだなぁ、やっぱり。


 う~ん、精力強化の成長が謎だ。

 もしかしてウッズイーターは特殊なボスだから二つスキルを獲得できた?


 そういうこと……にしておこう。

 よくわからん。


「アキオーンさん!」


 気が付くとウッズイーターの巨大な姿が消えて、遠くでイリアが手を振っていた。

 戦いそのものは短時間だったと思うけれど、その激しさはめちゃくちゃだった気がする。

 その証拠に、イリアたち『鋼の羽』も、『炎刃』もぼろぼろだ。


「戦利品の分配をしましょう!」


 いかにも冒険者的な呼びかけに笑った。


「あ、落ちてる魔石は拾って来てくれよ!」

「了解!」


 俺は手を振り返し、ジンの声に答えて落ちている魔石を拾いながらウッズイーターの宝箱を目指した。




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