46 顔合わせ


「へぇ、あんたが『要塞』か」


『炎刃』のリーダーは紅い髪の女性だった。


「一人で三十階に行くわ、死神パニッシャーを倒すわ。とんでもない化け物だそうで」

「ははは、そんなことはないですよ」

「ふん、まぁ、よろしく頼むよ」


 口調から察する通りに荒々しい雰囲気の女性だ。

 他のメンツも荒事が得意という顔をしている。


「あたしらの他に使えそうな奴は手に入らなそうって思ってたが、とんでもないのがいたもんじゃないか。なぁ、ジン」

「ああ、そうだな」


『鋼の羽』と『炎刃』そして俺との顔合わせは冒険者ギルドの近くにある酒場の奥の個室で行われていた。


「それで、この後はどうするんだい?」

「とりあえずは三十階で合流だろう。できれば連携をしばらく確かめてから挑戦したいが」

「出会っちまったら?」

「状況次第だが、やるしかないかもな」

「……まっ、あたしら『炎刃』と『鋼の羽』はそもそもやり方が違うし、そちらの『要塞』は一人働きだ。あんまり細かい連携なんて期待しない方がいいと思うけどね。相手の図体はでかいんだ。それぞれ別の場所で戦うのがいいんじゃないかい?」

「……そうかもな」

「そういえば、『要塞』はウッズイーターを見たかい?」

「ああ、はい。でかいですね」

「はは! あれを見てそんな感想で済むのはすごいね」

「ええと、そうですか?」

「そうだよ。にしても、あんた腰が低いねぇ。もう少しどうにかならないのかい?」

「どうにかしようと努力中です」

「そうなのかい?」

「ちょっと反省することがあったので」

「そうそう。冒険者は舐められたら終わりだよ」

「ははは……」


 他の連中に舐められるのは別にどうでもいい。

 伊達に長年、鉄級の日雇い冒険者をやっていたわけではないし。

 うん、同業者相手はどうでもいいんだ。

 とはいえ、管理をする冒険者ギルドにまで舐められているのはダメだ。前回みたいなことになってしまう。


「前回みたいなのは嫌なので、ギルドの人たちにはわかってもらえるようにはなりたいですね」

「なんだい。野望が低いねぇ」

「ははは……」

「まぁいいさ。あんたの実力をいまさら疑っても無駄だからね。あたしらだっていつまでもあの亀から逃げ回るだけで終わりたくないんだ」


 そこからはこれからの予定の話し合いになった。


 合流地点と合流予定日を決めておく。

 俺が『30』のポータルを使ったせいで『25』のポータルで合流することになった。

 どちらのパーティも『25』の前だったので、合流までに腕ならしをしておくということだった。


 後はウッズイーターとどう戦うかを話し合う。

『鋼の羽』も『炎刃』も、以前にウッズイーターとそれぞれのパーティのみで戦ったことがあるらしく、その時にどんな行動をしたかを語る。

 あの大きさなのでただ動いているだけでも十分に脅威なのだけれど、食った木の破片と胃酸を口からばら撒くという汚い散弾攻撃のようなこともするらしい。

 後は甲羅の上の方に住んでいる鳥が襲いかかってきたりもするそうだ。


「それじゃあ、俺が正面に立ちます」


 と、手を挙げた。

 硬さと丈夫さには自信があるし、『挑発』のスキルもある。


「いいのか?」

「最悪、逃げ回ることになるかもですけど。手数はそちらの方が多いでしょうし」


 どれだけ強くても俺は一人。

 パーティの方が選択肢は多いよね。


「はは! たいした肝っ玉だね。簡単に死なないでくれよ」

「努力します」


 そんな感じで話し合いは終わり、後は宴会になった。


「ふう……」


 自分の部屋に入って一息吐く。

 久しぶりに呑んだ酒が美味しくて少々酔っ払った。

 さすが熟練の冒険者たちは良い酒を知ってるね。


 うちのゲームで作った酒もあれぐらいに美味しくなればいいんだけど。

 よし、明日も頑張ろう。


 翌日にはダンジョンに入った。

 トレントを求めながら合流地点の『25』ポータルを目指す。

 合流予定日には余裕があるので、寄り道多めに進む。


 おかげでトレントと一度遭遇して木材を一つゲット。さらにゴーストナイトにも遭遇して最後の一つ幽護の外套を手に入れた。


『幽護の外套:主人に投射されし悪意より守る幽玄の外套』


『仮初の幽者:ゴーストナイトの装備一式を手に入れたことで手に入るスキル。確率で攻撃を透過する』


 幽護の外套は遠距離攻撃に耐性があるのかな?

 セット効果はスキルの追加。確率で攻撃を無効化するってことかな? そんなことをゴーストナイトはしただろうか?

 だとしたらあまり期待できる確率ではないかも。


 あまり期待しないようにしよう。


「うわっ! ゴーストナイト!」

「違いますよ!」


 合流したらゴーストナイトと間違われて襲われそうになった。





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