45 昇格


 それから約束の合流の日の前日まで三十階をうろついた。

 残念ながらトレントの木材は手に入らず。


『鋼の羽』のジンと交渉するときにこの冬の間、探し回ることになるかもって言ってみたけど、現実になりそうでちょっとげんなり。


 まぁ、おかげで魔石はたくさん集まったし、あれからまたゴーストナイトに出会ってアイテムを手に入れた。


『幽者の鎧:幽気の守護は害意ある魔法を拒むが質量ある悪意には通じない』


 って、勇者と掛けているんだろうか?

 魔法防御は強いけど物理攻撃にはそれほどって感じっぽい。

 幽茨の盾と組み合わせれば物理と魔法どっちもオーケーって感じになるのだと思う。

 うん、これ、セット装備だよね。


 あと、ゴーストナイトが持っているのはマントだから、もしかしたらあれも手に入るのかも。

 セット装備を揃えたらなにか特典があるかもしれない。


 ここに居座る楽しみが増えた。


 とはいえ、合流までに揃えられなかったのは残念だ。

『30』のポータルを使って地上に上がり、街に戻る。


 冒険者ギルドに入るとざわっとした空気に出迎えられた。


「おい、あれが?」

「ああ、『要塞』だ」

「マジかよ、おっさんだぜ?」

「だけど俺は見たぜ、『雷光』が相手にもならなかった」

「見たろ、訓練場の? あんなの普通はできないぞ」

「あれ、魔法で硬くしてあるって話だしな」


 う~ん、有名になってしまった。

 魔石の買い取りをしてもらう。マジックポーチ半分ぐらい。

 三百万Lになった。


「あ、アキオーンさん、後、こちら……」


 と言って、新しい冒険者ギルドの登録証が渡された。

 銀だ。


「昇格です。おめでとうございます!」

「え? はい。ありがとうございます?」


 唐突過ぎて実感が湧かないなぁ。

 冒険者ギルドの登録証は上から金銀銅鉄とランクがある。

 万年日雇いのときはずっと最低ランクの鉄だったのに、いまでは銀だ。

 この上の金が最高ランクってことだけど、噂ではさらに上があるとか、金の中で細かい格付けがあるとかないとか。

 まぁ、そんなのは俺とは無縁だし。

 無縁だよね?


 無理かな?


 黄金サクランボを食べ続けているから日ごとに能力は上がっているし、吸血で相手のスキルを手に入れられる機会があるし……うん、強くなるのは当たり前。

 そして、強さが売りになる冒険者稼業をしているのだから、いずれ金ランクも見えてくるのは当然かも。


 うぬぼれはいかんよって自省したいけど、前回の一件でこそこそしてる方が悪影響があるってわかっちゃったからなぁ。


「アキオーンさん!」


 お金を受け取って部屋に戻っていると声をかけられた。

 見ると『鋼の羽』のイリアだ。


「ああ、こんにちは」

「はい! こんにちは!」


 イリアはとても元気に挨拶を返してくれた。

『鋼の羽』は彼女以外は皆俺と同い年ぐらいの人たちで構成されている。

 ジンが引退前にウッズイーターを倒したいと言っていたけど、もしかしたら他の人も引退とか考えているかもしれないな。


「どうしました?」

「え? あ」


 考え事をしたのがばれた。


「ああ、いや……例の件の後、そちらはどうするのかなって。あははは、余計なお世話ですね」

「ああ……」


 それでこちらの言いたいことがわかったのだろう。


「そうですね。実は解散することが決まっているんです」

「え?」

「ジンは引退した後、故郷の冒険者ギルドで職員をすることが決まっていますし、他の人たちもだいたい同じ感じです」

「なるほど。ええと、あなたは?」

「私は……実家の勧めで騎士の試験を受けようかと」

「それはいいですね」

「そうですか?」


 冒険者から国に仕える騎士や宮廷魔法使いを目指す者もいる。

 彼女はたしか銀級の冒険者だし、騎士を目指すのは悪い選択肢だとは思えない。


「でも、できれば私は、もう少し冒険者でいたいんですけど……」

「未練がある?」

「あります。もっと、いろんなことがしたかったなと」


 なるほど。

『鋼の羽』の中で一番に若い彼女は、まだ冒険者に満足しきっていない……のだろう。


 とはいえ会ったばかりの彼女になにかを言えることもない。

 彼女もそれがわかっているのだろう。すぐに笑顔を浮かべた。


「だから、この戦いには未練を残したくないんです!」


 作り笑いだったけど。


「あ、ジンからあなたに会ったら『炎刃』との顔合わせをしたいと」

「わかりました」






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