43 いざ、酔夢の実……?


 ギルド職員を呼んで契約書を作成した。

 冒険者同士でも契約を結ぶことはある。

 とはいえ俺は利用したことがなかったけど。

 とにかく、一つの目的に対して複雑な思惑が絡んだりする場合、取り分に付いてあらかじめ決めておいたりする契約だ。


 たとえば、村を山賊から守るために複数の冒険者パーティが契約する場合、一つのパーティは村からの依頼料を全て受け取り、もう一つのパーティは山賊が所持していたものを全て受け取る、という感じに取り分を最初に決めておいたりする。どちらかがうまくいかずに不公平だと叫んだ時に、この契約書が力を発揮する。


 今回の契約は『酔夢の実の取得方法を教える代わりにウッズイーターとの戦闘に協力する』というもの。

 酔夢の実の取得を手伝うじゃないところが肝。

 これでもし俺が騙されていたら……。

 その時は……口には出せないけど実行は絶対してやると心に決めよう。

 目的を達した後に下の階に行く気になるかはともかく、一人でやるよりは安全にあの巨大亀の力を知ることができるというのはメリットでもあるので、契約は問題なく行われた。


「協力することになっているもう一つのパーティ『炎刃』とも顔合わせをしてもらいたいが、あちらもまだ腕ならしに最初からやり直している途中だ。うちも、あと一週間ほどはかかるだろう」


 なら、その間に酔夢の実を取っておこう。

 というわけで十日後の再会を約束すると取得方法を教えてもらい、翌日にはダンジョンに戻った。


『24』のポータルから出てくる。

 さて、まずは『30』のポータルを探すべく進む。

 一度は見つけているから大丈夫だとは思う。

 たぶん、あっちの方向だったはず。


 等間隔に並んだ同じような木々が現在位置やら方向感覚やらを狂わせる。

 ああそうだ。

 この間手に入れた将軍の大弓。

 あれを試してみようと矢を用意したんだった。

 使ってみよう。

 何度か練習をして、いざ実戦。

 とはいえ動いている標的は狙いたくないので、『眷族召喚』でクレセントウルフを召喚して索敵。

 見つけたら、気付かれないように射程距離に接近して狙撃。気分はスカ〇リム。


 お、成功。


 射撃補正+1と不意打ち強化が仕事をしてほぼ一発で倒せた。

 これは便利だ。

 でも、使った矢を回収できないのがきつい。

 材料の木の消費量が半端ないのだ。

 果樹園の木は使えないし、調子に乗って使い続けていると領地の森が禿げてしまいそうだ。


 ここぞという時しか使えないかぁ。


 ……って。


 ここに、たくさん木があるじゃないか。

 そうだよここ森じゃないかと、ゲームから木こりの斧を購入して伐採チャレンジ。

 コーンコーンコーンとゲームと同じように三回叩いたら木が切れた。

 力が強いとはいえ、けっこうな太さの木をそんな回数で切れるはずもない。

 これ、何気にすごい斧だなぁと感心しつつ、ゲームの交易を使って回収。


「おお、すごい」


 ダンジョン大樹の木材ということで、領地で採れる普通の木材よりも質も量もよさそうだ。

 よし、このまま集めようと三本ほど回収したところで……。


 KYAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!


 なんだか聞いたことのある甲高い声が響いた。


「……あっ」


 思い出した。



「はぁ、命知らずだね。パニッシャーってのは、ダンジョンの決まりを破ると出てくるおっそろしい魔物だよ。絶対誰も勝てないって話だったんだ」

「その決まりって?」

「ああん? そうだなぁ、『一つの階に長居しない』とか『ダンジョンの構造物を壊さない』とかだな。長居しないはともかく、あんな硬い壁をわざわざ壊す奴がいるかってんだ」



 そんな会話をしたことがあるよね。

 つまり、いま俺がしてたのって『ダンジョンの構造物を壊さない』に抵触してた?


 だから、出て来た?


 振り返ると死神パニッシャーがこちらに迫って来ていた。


 まずい!


 いまは弓で不意打ちしやすいように軽装になっている。

 この状態ではさすがに危なすぎる。

 瞬脚も使って距離を稼ぐと、鎧と剣と盾を出して『夜魔デイウォーカー』の血液化でするりと装備。


「くそう、失敗した!」


 と叫びつつ、迷うことなく接近してくる死神パニッシャーと対峙した。


 それからしばらく。


「ぜーぜー」


 二度目で戦い方はわかっていたのもあるし、装備が前よりもよくなっていることもあって、少しは楽だった。幽毒の大剣と幽茨の盾は有能だ。

 鎧もボロボロにならなかったし。

 分身で攻撃回避できるのすごい便利!

 とはいえ油断したら即死しそうな雰囲気は精神的につらい。

 そしてやっぱり、死神パニッシャーとの戦いはなんの報酬もない。


 だけど……。


 なにか、戦闘中に手応えみたいなものがあったんだけど、あれはなに?

 と、ステータスチェック。



名前:アキオーン

種族:人間

能力値:力155/体208/速87/魔66/運5

スキル:ゲーム/夜魔デイウォーカー/盾突/瞬脚/忍び足/挑発/倍返し/眷族召喚/不意打ち強化/支配力強化/射撃補正+1/剣術補正+2/斧術補正/槍術補正/盾術補正/嗅覚強化/孕ませ力向上+1(封印中)/視力強化

魔法:鑑定/光弾/火矢/炎波/回復/解毒/明かり/対物結界/対魔結界/斬撃強化/打撃強化/分身



 んん?

 あ、剣術補正が+2になってる。

 これだ。


 でも、どういうこと?


 …………もしかしてスキルは使用してても成長する?


 た、試してみる価値ある?




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