41 VSイケメン


 訓練場に繋がる更衣室でマジックポーチから出す振りをして『ゲーム』からグレートソードと大盾を出す。

 俺が逃げ出さないかと見張っていた秘書の人が驚いた顔をしていたけれど、それを無視して進む。


 訓練場に入ると、すでに場所ができていた。


「ではこれより! 彼の実力を試すための試合を行う!」


 俺が更衣室にいる間にギルドマスターが説明をしていたようで、周りの冒険者から野次やらゴミやらが飛んで来た。

 卑怯者だなんだと好き勝手言っているが、とりあえず無視する。


「おじさん、そんなに顔を真っ赤にしてても怖くないよ」

「……かっこわるい」


 ミーシャとシスがそんなことを言いながらシグルドに強化系の魔法をかけている。


「ダンジョンではこうして戦っているんだ。問題ないですよね?」

「もちろんだ」


 シグルドの確認にギルドマスターが頷く。

 そして俺を見る。


「もちろんかまわないだろう。君は実力者なのだから?」

「ええ、もちろん」


 俺も頷いた。


「なんなら、そちらの二人も戦いに加わってくれてもかまいませんが?」

「ああ、言うね、おじさん」

「……後悔しても遅い」

「いいんですか?」

「彼が構わないというなら、いいのではないかな?」

「では」


 というわけで三対一となった。

 うん、まぁいいんじゃないかな?

 野次馬たちは笑っている。

 後で顔を確認しよう。いまは頭に血が上り過ぎててだめだ。


「では、はじめだ」


 ギルドマスターが告げる。


 シールドダッシュ……改め盾突。


「へぐっ!」


 瞬く間に距離を詰めた俺の盾を受けて、シグルドは吹き飛び背後の壁に受け止められた。


「…………」


 ずるずると壁からずり落ちて座り込む。

 白目を剥いていることは明らかだ。


「ひっ!」

「……う」


 俺は茫然としているミーシャとシスを一睨みし、元の位置に戻った。


 静かになった訓練場で、誰も俺の行動の意味が分かっていない。


「シグルド君を起こさなくていいのかな?」

「っ!」


 ハッとした様子のシスが彼に駆け寄り、回復魔法をかける。


「はっ! な、なにが⁉」


 意識を取り戻したシグルドは混乱した様子で辺りを見回す。


「どうしたシグルド君? 試合は始まっているはずだけど?」

「……な? え? く、くそっ!」


 あっという間に気絶させられた彼は状況がわかっていない様子で向かって来る。

 身体能力強化をかけられたシグルドの動きは早い。

 それに合わせてミーシャとシスの攻撃魔法も襲ってくる。

 いまは鎧も付けていない。いつものように各種強化をかけてもいいけど、あえてそのまま二人の魔法を受けた。


「え?」

「……嘘」


 二人の魔法は俺にたいした傷を与えることもできずに消えた。

 他と比べれば成長が悪いとはいえ、俺のステータスの魔の値は結構高い。

 鑑定で二人の能力を確認したけれど、魔の値は俺の半分以下だ。

 そんなのでは俺に魔法は通じない。

 二人は無視していい存在だ。

 シグルド君だけを見る。

 悪いけど、君には痛い目を見てもらわないといけない。

 君自身は悪くないかもしれないけど……けど、君も俺を侮った。

 それはきっと、冒険者にとっては致命的な失敗だから。

 だから、死なない程度に痛い目を見てもらおう。


 再びの盾突。

 彼は再び吹き飛ぶ。

 だが、二度目だからか、それとも距離があったからか、壁に背中を打っても意識を失わなかった。


「くそっ!」


 そんなことを言っている間に、すでに瞬脚で距離を詰めている。

 そしてグレートソードはもう、高く振りかざされている。


 彼を見下ろす俺と目が合った。


「ひっ!」


 それを見たシグルド君は回避不能を理解して悲鳴を上げた。

 振り下ろす。

 トレントの胴体を割った一撃は彼の横に振り下ろされ、訓練場の壁を割り、その向こうにあった観客席を裂いた。

 それらは轟音を伴ってその場にいた全員を震えさせる。


「……まだやるかい?」


 俺の質問に、シグルド君は涙目のまま首を振った。

 アンモニアの匂い。彼の股間に染みが広がっている。


「そうか。なら……」


 シグルド君からミーシャ、シスと視線を向ける。

 彼女たちはすでにそれぞれの武器から手を放して降参を示している。


「後は……」


 ギルドマスターを見る。


「これでもまだ納得してもらえないなら、次はギルドマスター自身で確かめられたどうですか?」

「うっ、ぐっ……」


 青い顔のギルドマスターから返事がもらえない。


「返事がないなら、次はあなたでいいということだ!」

「ま……待っ」

「『要塞』!」


 割り込んできた新しい声は、明るい女性の声だった。


「『要塞』だ! 『要塞』だ!! あなたこそ『要塞』だな! そうだろう⁉」


 げ。

 気付かなかった。

 観客席の一角には『鋼の羽』の面々がいて、イリアが嬉しそうな顔でそこから駆け出し、俺の前に立った。


「私を助けてくれた『要塞』はあなたなんだろう⁉ そうに違いない!! なっ⁉」

「……はい」


 天使のような笑顔からの問いかけに嘘を返すには、この状況での俺は心がささくれ立ち過ぎていたし、虚を突かれてしまっていた。

 結果、素直に答えてしまった。




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